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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:楠木正成



 鎌倉の者どもが攻めて来た。……ものの様子見なのか然して数は多くない。どうやらワシを警戒しての事のようだ。

 阿呆のように攻めてきてくれれば良かったのだが、数が少ないならば弓矢で何とかなるな。ある意味で都合がよい。

 出足を鈍らせるなら集まった後の方がよいからな。


 攻めては来ておるのだが、なんだかおずおずという感じだ。どこに罠があるのか怖く、完全に腰が引けておる。

 そしてそのように腰が引けておる者など相手にもならんわ。

 この者どもは、己らがどういう姿を晒しておるかも分からぬらしい。


 「弓よ。あの恐々とこちらに来ておるマヌケに矢を浴びせてやれ。

 ただし少な目でよいぞ。これから長く戦わねばならんのだからして、矢が減るのが早くては困るからな。

 では、撃て」


 ドドドドッ!


 「ぎゃあ!」 「ぐあぁ!」 「がっ!」 「うあっ!!」


 意外と言ったら何だが、思っておったより当たっておるな? これは嬉しい誤算であったが、たまたまかもしれん。

 しかしそれを差し引いても、思っていた通りには当たるという事だ。

 この新式の矢が駄目なら困り果てておったところだが、しかしそうでないようで安堵したわ。


 この調子で敵を近づかせぬように戦い続ければよい。

 両赤坂城と金峰山城がどうなったかは分からぬが、いまは己の戦をやらねばのう。

 ワシが揺らいでは意味が無い。


 …

 ……

 ………


 なかなかどうして鎌倉も攻めてくるではないか。

 少しずつではあるが、日に何度も攻め寄せてくる。

 無駄に死人が出ておるが、こちらの矢を使わせようと楯を持ち出してきおった。

 まあ、こちらは接近を許してから弓で狙って始末しておるので意味は無いがな。


 幾ら楯を持って来ても、この城の門を突破できねば意味は無い。

 そしてそこまで近づけばこちらの思う壺だ。

 熱湯なりなんなり、幾らでもやりようはある。

 マヌケとしか言えんが、完全に手詰まりみたいだの。

 もちろんそうなるように作ったのだがな。


 兵など悪乗りしておるのか、敵兵に対して糞を落としおった。

 後で綺麗にするのに困るが、まあ今は構うまい。

 敵が城攻めを嫌がれば嫌がるほどに、こちらにとっては都合がよいのだ。

 それに糞は捨てるところに困るからのう、ちょうどよいとも言えるか。


 …

 ……

 ………


 「よう戻ってきたな、七郎! 何があったのかは知らぬが、お前が無事だったというだけで喜ばしい。

 ………どうかしたか?」


 「兄者。平野将監(しょうげん)殿がな、己はよいからワシに逃げろと言われたのだ。逃げて兄者を手伝えとな。

 敵を千人以上殺してやったが、それ以上は無理であった。

 怪我も数多く負わせたが、多勢に無勢であった」


 「そうか。平野将監(しょうげん)殿は逝かれたか。

 しかしワシらは死ぬわけにはいかん。たとえ泥水を飲む事になろうとも生き延びねばならんのだ。

 平野殿もそうだが、多くの者が託してくれた以上はな。

 そなたもワシも、もう簡単に死ぬわけにはいかん身だ。それだけは覚えておけ」


 「ああ、分かっている。これからは平野殿の分も鎌倉の者どもに叩きつけてくれようぞ!」


 「うむ。期待しておる」


 どうやら平野殿に多少感化されたようじゃの。

 そこは構わんが、おかしな事を言い出してくれるなよ?

 敵に突撃とか阿呆みたいな事を言い出したら、流石に諸将に顔向けできんでな。

 その場合は叱責では済まんぞ。こやつも分かっておるとは思うが……な。


 …

 ……

 ………


 「撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃てーーーーっ!!!」


 ドドドドドドドドドドッ!


 どうやら三軍全てが集まったようだの。千早城の周りは完全に囲まれておる。

 とはいえ、だからどうしたとしか思わんがな。

 千早城に護良(もりよし)親王殿下も来られ、これでついに千早城の周りしか残っておらんようになった。


 まだ色々と砦なども残っておるが、おそらくは時間の問題であろう。

 ここからじゃな、ここからこの城の真価が問われる。

 十分な準備の時間があったのだ。

 そう簡単にワシの城を落とせると思うなよ、鎌倉の者どもめ。


 「今じゃ、綱切れい!!」


 ズドッ! ………ガラガラガラガラガラガラッ!!!


 「ぐぶぅえ!」 「げばぁっ!」 「ごぼぉぇ!」 「ぐがっ!!」


 どうじゃ、たっぷりの丸太を落とされた気分は。

 どれだけの兜や鎧を身に着けていようが、丸太のような大きな物は防げんからのう。

 あれらは避けるしかないが、残念ながら避けられるようには配しておらん。

 大石を落とすのもそうじゃが、出来る限りの傷を与えてやろうぞ。


 ドチャドチャドチャドチャドチャ!


 「ぐぶぉぇ!」 「おぇぇ!!」 「ぎゃぁ!!」 「おぅぇぇ!!」


 地味に糞の攻撃が効いておるのが何とも言えんが、あれで嫌がってこちらに来ぬ者が増えたからな。

 今では役に立っておるが、最初は兵の悪乗りだったのだがのう。

 護良(もりよし)親王殿下も「アレはどうなのだ?」と苦言を呈しておられたし。


 それが今となっては気にもされぬようになった。

 実際に相当に鎌倉の兵が嫌がっておるのも見られたからな。

 己の上に糞が降ってくるとなれば嫌なのは誰もが変わらん。

 そして城を守るのに形振(なりふ)りなど構ってはおれん。


 当然だが慣れるし、効くとなれば気にもされんようになる。

 ちなみに弟は最初から気にしておらなんだし、自ら落とす事すらある。

 後でしっかりと手洗いをさせておるが、病に掛からねばよいがな。

 城の中で病が蔓延すると全滅すらあり得る。それだけは徹底して防がねば。


 …

 ……

 ………


 一時期は必死になって攻めてきておった鎌倉だが、ついに攻めが散発的になってきた。

 相当程度、鎌倉軍の中には厭戦(えんせん)気分が広がったと見える。

 千早城を囲んでおるが、囲んでおるだけで何も出来てはおらぬ。


 多少は攻めてくるが、そんなものは矢でどうにでもなる。

 平野殿と弟の七郎が奮戦してくれたのも大きかったのであろう。

 鎌倉方は勝っても恩賞など碌にない。その事もあって戦などしたくないのだ。

 そこからさらに嫌な目に遭うともなれば、放り出して帰りたくもなろう。


 それでは千早城を落とす事など出来ぬが、奴らが一番困りておるのは山城である事であろうな。

 この城は両赤坂城とは違って、総攻めにしたとて落とせるとは限っておらぬ。

 連中がいつまで経っても総攻めにしてこぬ理由はそれしかないし、その為に山城として作ったのだ。


 「報告!! 鎌倉の者どもは中腹にある川の近くに陣を張ったようです。

 おそらくは水源を奪いて降伏させる気かと思われます」


 「阿呆じゃの。その程度の事をワシが考えなんだとでも思うておるのか、まったく」


 「兄者、兵を貸してくれ。ワシが夜闇に乗じて敵に斬りかかってくれる! なれば敵は慌てふためいて逃げようぞ!」


 「ふむ…………。悪うないな。七郎よ、あたらに兵を死なせるでないぞ。それだけは忘れぬようにな」


 「もちろんだ、兄者。

 兵は城を守らねばならんのだ。このようなところで命を落とすべきではない。

 それでは準備と兵を集めねばな。中には斬り込みたい者もおるであろうし」


 おそらくだが、そなたが思うておるより多いと思うぞ。

 敵は散発的にしか来ぬようになったしな。退屈をしておる者も多かろう。

 兵が休めておる故に助かるが、いつ攻勢に出てくるかは分からん。

 なので、ここで相手の攻め気を完全に潰しておきたい。


 どうなるかは分からんが、七郎の事だ。上手くやるであろう。


 …

 ……

 ………


 「はっはっはっはっはっ! 兄者、鎌倉の者どもを叩き返してきてやったぞ。

 ついでに水を運んでもおいたぞ。無いよりはあった方がいいからな」


 「うむ、助かる。それはよかったが、そなたらが持ち帰ってきた物はなんだ?」


 「これは守っておった家の旗や天幕などよ。

 何かに使えるかもと思って持って帰ってきた。布であるのだ、様々な事に使えよう?」


 いや、まあ、そうだが……。

 しかし家紋が入っておる以上は、適当に切って使うわけにもいかんしな。

 困ったぞ?


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