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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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0143




 Side:楠木正季



 こちらを攻めておるのは、少なく見積もっても八千を超える数だ。

 兄者や護良(もりよし)親王殿下の方にも行っておるのだからして、泣き言など言うておれぬ。

 それでも連日の攻撃で兵の疲れも溜まっておる。

 なにより罠をある程度使ってしもうておるのが痛い。


 それでも弓矢で十二分に戦えておるのは救いだ。

 兄者が徹底的に弓で戦えと言っておったのがよく分かる。

 鎌倉の者どもは槍で襲ってくる者がほとんどであり、それ故に弓矢で遠くから狙ってやれば倒せる。

 城の外から弓を射かけられたら厄介だったが、それはせぬらしい。


 鎌倉方は愚か者しかおらんのかと思うも、その御蔭で防げておるのだから何とも言えん。

 城の者は順次休ませておるが、それでも敵が攻めてくれば戦うしかない。

 一ヶ所でも破られたら、後は敵兵が雪崩れ込んでくるだけだ。


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」」」」」」


 「愚かにも懲りずにやって来おったわ! 弓射れぃ!! 愚か者どもを叩き潰してやれ!!」


 ドドドドドドドドドッ!!


 「ぐぁ!」 「うわぁ!」 「ごぼっ」 「がっ!」


 よしよし。新式の(やじり)はよう効いておるな。

 従来の物よりも重いが、稀人(まれびと)が昔伝えたという弓ならば、十分に使える。

 その分だけ弓の扱いが難しいが、ここにおるのはその修練をしてきた者達よ。

 十分に使い熟せておる。


 弓が幾ら強くとも、今までは新式の(やじり)が無かった為に忘れられておった。それを復古したのは兄者だ。

 あの妙な形の弓ならば勝てる。そう考え技をまだ残しておった職人の下に行って頼み込んだのだ。

 扱いづらいがその分だけ遠くに飛んで威力も高い。


 流石は稀人(まれびと)が伝えた弓だとしか思えん。

 なぜか馬でも(かち)戦でも大太刀や槍が使われるが、それより遠くに飛ぶ弓の方が良いであろうにな。

 その御蔭で我らは勝ちておるし、敵に弓がほとんど無いので安全に撃てる。


 それでも矢の本数には限りがある故、そろそろマズい。

 夜中に取りに行っておるし、補修もして使えるようにしておるのだがな。

 それでも減ってしまうのは避けられん。

 後どれだけこうやって戦えるか……。不安になっても仕方なし。

 何よりワシが弱気なところなど見せられん。強気でおらねばな!


 …

 ……

 ………


 鎌倉の者どもを防いで十日ほど経った。

 こちらはそろそろ限界かもしれぬが、それでも敵兵を既に千人以上は殺してやっておる。

 流石に甚大な被害を出しておるからか、鎌倉の者どもも及び腰になってきたな。

 まあ、一番の理由はワシらに勝っても意味がないからであろう。


 ワシらに勝ったところで、ワシらは悪党。反鎌倉ではあるがそれだけで、倒したからといって恩賞が出るわけでもない。

 となると鎌倉方の者らにやる気が出るわけが無いのだ。そんな事はあり得んうえに、多くの者が死しておる。


 己の一党の者が死しても、さしたる恩賞が無いともなれば嫌気がさすのも当然であろう。

 それでも己らの名の為に下の者を使い捨てる。それが北条であり得宗家とかホザいておる者らだ。

 <驕る平家は久しからず>の言葉通りの奴らよ。


 「楠木七郎殿。ここまでは上手くいっておる、さりとて奴らもそろそろ限界であろう。

 おそらくは死ぬを覚悟で突っ込んでくる。そうでなければ、兵を死なせ続けるだけだからな。

 もし突っ込んできたならば、ワシが出る。その時にそなたは逃げるのだ」


 「平野殿、その事だが……」


 「それ以上は申すな。

 そなたがやるべき事はここで命を捨てる事ではない。生きて兵衛(じょう)殿の下へと戻る事だ。

 そこで鎌倉の者どもを叩け。奴らが潰えるまで叩き続けるのだ。

 源平の故事に倣い、決して鎌倉方を残すな。根切りにせよ」


 「北条一族の男は(すべか)らく殺せという事ですな。分かり申した、出来得る限り致しましょうぞ」


 「うむ。その時がいつ来るかは分からぬが、そこまで時は掛からぬはずだ。

 奴らには厭戦(えんせん)気分が広がっておる。これで退くならよいが、退くはずが無い。

 なぜなら退けば鎌倉の名は地に落ちるからだ。奴らも既に退けぬ」


 「なればこそ、命を懸けてでも我らを倒しにくると?」


 「そうだ。将としてはもっと早くに決断するべきだが、凡将ではその決断は出来ん。

 たとえ結果として死人が少なく出来ると分かっていても、最初から総攻めなど出来る事ではない。

 何より諸将が嫌がる。それを説得できる者は多くない」


 なるほど。兄者も似たような事を言うておったな。最初から総攻めなど出来る事ではないと。

 それは平野殿でも変わらぬらしい。

 なればこそ、それを防いでおれば敵を多く倒せるというわけか。


 …

 ……

 ………


 朝焼けの中、ついに鎌倉の者どもが総攻めを始めた。

 ワシも戦おうかと思うたが、平野殿から逃げるように諭され、仕方なく近習の者と共に城を後にした。

 本当ならば最後まで居たかったのだが、それをする事も出来ぬ。


 ワシは城の裏手より脱出し、敵兵に見つからぬようにと道なき道を駆けていく。

 出来れば兄者のおる千早城に行きたいが、すでに鎌倉の者どもが攻撃しておると聞く。

 上手く入れればいいが、駄目ならば逃げて機会を(うかが)うしかない。


 そうやって逃げていると、後方から大きな声が聞こえて来た。

 その声を聞いて足が止まりそうになるが、しかし振り切って走る。

 平野殿が与えてくれた命、それを簡単に捨てる事など出来ぬ。

 なればこそ、ここは何としても逃げ切らねば。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:楠木正成



 どうやら鎌倉は軍を三つに分けたらしいの。

 ワシの方にも一軍が向かってきておると聞くので、おそらく両赤坂城と吉野の金峰山城。

 そしてワシのおる千早城に分けたのであろう。

 舐められておる気もせんでもないが、しかし数は二万五千とも聞く。


 三つに分けても八千を超えるのだ。なかなかに厳しい数だと言うしかない。

 しかしながら勝てぬ数でもないのがまた……なんとも言えんな。

 ここは要害であり山城。ワシは平地での戦はあまり得意ではない。かわりに城に篭もるのと山での戦いは得意よ。


 鎌倉は騎馬での戦いを得意としておるようだが、山の頂点に作られた山城に対して騎馬は使えぬ。

 ここでは(かち)で戦うしかない以上、鎌倉の強みは活かせんのだ。

 その為にわざわざ千早城を建てたのだからな。

 奴らが勝てなんだ城として、ここを奴らの墓にしてくれようぞ。


 と、意気込んでも勝てるわけではないし、ここからの日々は苦しいものになろう。

 一ヶ月二ヶ月、もしかしたら三ヶ月も篭城する事になるかもしれぬ。

 まあ、そこまでいけばワシの勝ちであろうがな。

 流石に三ヶ月もとなれば、全軍が揃っておるであろうし、それでも防げておるという事になる。


 ま、とりあえずは攻めて来た鎌倉の者どもを返り討ちにするか。

 新式の矢はしっかりと用意してあるし、ここへは運び込む事も出来る。

 わざわざ秘密の脱出口も掘って用意したのだ。

 そこまでした城が簡単に落ちて堪るか。


 「そろそろ鎌倉の者が来るかもしれん。

 そなたらも気合を入れよ、されど頭に血を上らせるな。大事なのは日々を勝つ事だ。

 篭城は長くなろう。されどそれだけ長く続けられれば、我らの勝ちは揺らがぬようになる。

 石のように不動の心を持て。我らは揺るがぬと見せつけてやるのだ」


 「「「「「「「「「「おうっ!!!」」」」」」」」」」


 うむ。気合は十分。されど血気に(はや)っておるわけではない。

 最も良い心持になっておるようだ。これならば上手くいくであろう。

 篭城において最も大事なのは心だ。心が負ければ敵に負ける。

 強くあらねばならぬのは、己の心である。


 そういう意味では、篭城における真の敵は己であると言えるのかもしれんな。


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