表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
142/190

0142




 Side:楠木正成



 鎌倉の者どもがワシの城を攻めてくるという話が伝わってきた。

 既に十分すぎるほどに水も兵糧も準備できておる。

 愚かな鎌倉の者どもが攻めて来たとて、そうそう簡単な事では城は落ちんぞ。

 迎え撃った後、叩き潰してくれる。


 それはそうと弟は上手く脱出できるであろうか? 我が城は三段構えだ。

 かつての赤坂城を下赤坂城とし、その上に上赤坂城、そしてここ山城である千早城と三つも作った。

 鎌倉の軍勢が大軍であろうとも、そうそう簡単には落とせぬ。


 かく言うワシですら、簡単に落とせる道筋が立たんのだ。

 そこまで考えて作りたのが、この三城ぞ。

 下赤坂城と上赤坂城は平野将監(しょうげん)入道殿にお頼みした。

 弟を補佐につけたが、彼の方であればワシが思う以上に立派に戦ってくれるはずだ。


 かつて千の軍勢を率いて六波羅(ろくはら)の者どもを撃退した名将であり、名誉の悪党だからのう。

 そもそも鎌倉に反したら悪と言われてもの、ワシらからしたらその悪は名誉にしかならんわ。


 そのうえワシは兵衛(じょう)でしかないが、平野殿は近衛将監(しょうげん)

 ワシよりも上の官位を持っておられるのだからして、丁重に遇しても当然であるな。

 それに………それほどの方がワシの下におるというのは大きな意味を持つ。

 楠木は平野将監(しょうげん)入道殿をも従えておると見せられるのだ。これが本当に大きい。


 その為ならば城代など幾らでもしてくれて構わん。

 湯浅殿には悪いが、代わりに千早城にいて働いてもらっておる。

 それもあり、湯浅殿の機嫌も悪うはない。

 ここは最も大事な城じゃし、山にはいくつも小さな砦が築いてある。


 そこから兵士が攻撃する事も、石を落としたり丸太を落とせるように準備もしておるのだ。

 ここまでしたのだからして、十分に戦えるであろう。

 後はワシらが如何(いか)に踏ん張るかでしかない。

 ふふふふふ……楽しみになってきたのう。


 …

 ……

 ………


 ワシの予想よりは遅かったが、ついに鎌倉の軍勢が来たらしいわ。

 平野殿と弟の七郎は何とか致すであろう。

 こちらがいちいち口を挟まずとも立派に戦うのは間違いない。

 ワシは二人を信じて、己のやるべき事をやらねばな。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:楠木正季



 ついに鎌倉の者どもが攻めてきおった。

 とはいえ我らがそうそう簡単に敗れると思うなよ?

 お前らが兄者やワシを攻めてくる事など分かり切っておるのだ、何の用意もしておらなかったとでも思うか。

 出来得る限り殺してくれるわ。


 「楠木七郎殿、ついに来たな。武者震いが止まらぬわ。

 鎌倉の軍は前に比べれば遥かに少ないと言われておったが、真にその通りであるな。

 前は三十万ともいう大軍であったというが、此度は多くても二万五千と聞く。

 随分と減ったものだの」


 「平野将監(しょうげん)殿。

 流石に鎌倉とて、そう何度も三十万の大軍など出せますまい。莫大な銭を使う羽目になりますからな。

 むしろ鎌倉は御家人の力を削ぐ為にワザと銭を使うておるとも聞きますぞ。

 特に足利なる家は、閑院内裏造営や六条八幡宮造営で莫大な銭を出させられたと聞きまする」


 「なんともはや、既に足元が崩れておるのであはあるまいかな。

 己らが安泰だと思うておるのは北条一族やその近くのみ。

 周りの者は機が整えば寝返るのではあるまいか?

 兵衛(じょう)殿はどう考えておられるのだ?」


 「兄者は足利なる家の者を引き入れたいと申しておりましたな。

 何でも父の葬儀の翌日に戦を命じられたそうで、相当に恨みに思うておるようなのです」


 「それは酷いのう。

 父の菩提を満足に弔う事もできずに、戦に出よとは……。流石にそれを命じるは愚かに過ぎよう。

 誰もやらぬぞ、左様に愚かな事は」


 「兄者も言うておりましたな。あまりに愚かで呆れるしかないと。

 いったい何故(なにゆえ)そのような事をするのか、父を満足に弔う事も出来なんだ者が何を思うかなど、誰にでも分かる事であろうに。

 そのように申しておりました」


 「うむうむ、当然であろう。北条めは愚か者の集まりのようであるな。もはや叩き潰してしまわねばならん。

 左様な非道な者どもなど、生かしておく価値も無いわ。この平野近衛将監(しょうげん)、最後まで命を懸けて戦い抜いてみせようぞ。

 七郎殿は時が来たら逃げられるとよい」


 「平野殿!? なにをおっしゃる!!」


 「七郎殿、そなたは兵衛(じょう)殿の弟じゃ。ここで命を散らすべきではない。

 意地でも生き抜き、兵衛(じょう)殿を助けるのだ。

 人には命を散らすべき時がある。

 己の命はここで散らすべきものだが、そなたの命を散らすべきはここではない。分かるであろう」


 「平野殿……」


 「なぁに、鎌倉の者どもになど、そう簡単にやられはせん。出来得る限りの者を道連れにしてやるわ」


 「敵が見えましてございます! 鎌倉の者どもが見えましてございます!!」


 「よぉし! 来たか!! では、そろそろ奴らの顔でも拝みに行くかのう!!」


 「行きましょうぞ! 敵を倒すは誉ですからな! ワシは目に焼き付けておきますぞ、平野殿の勇姿」


 「はっはっはっはっはっ! 今からそのように気張っておっては、勝てる戦も勝てんぞ。

 少しは落ち着かれよ」


 自らの死地を分かって尚も笑うか。ワシも斯様な男にならねばならんのう。

 平野将監(しょうげん)入道殿。そこもとの生き方はワシの目に焼き付ける。

 好きなように暴れていただいて構わぬぞ、ワシが助力いたそう。


 …

 ……

 ………


 鎌倉の者どもめ。三軍に分けて、こちらには一軍しか送ってこんかったか。

 残りは兄者がおる千早城と護良(もりよし)親王殿下の方へ行ったようだな。舐められたものよ。

 下赤坂城の者達もよく戦っておる。そう簡単な事では突破などさせぬし、その気概が我らにはある。


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」」」」」」


 「来たか、弓射れ! 確実に当てるのだ! 一矢も無駄にするでないぞ!!」


 ドドドドドドドドドッ!!!


 「ぐあぁ!」 「ぬぐぉ!」 「がはっ!」 「ぐぼっ!」


 なかなか上手く当たっておるようで何より。

 む。敵の持っておる物が割と良い物だな? という事は名のある御家人の子弟か何かか?

 まあよい、今は敵を打ち倒すのみよ。ここで考える事ではない。


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「次が来たぞ! 弓の準備は出来ておるな? 弓射れぃ!! 一矢も無駄にするな、確実に敵に当てるのだ!!」


 ドドドドドドドドッ!!


 「ぐぉぉ!」 「ぬぐぁ!」 「ぐぇ!」 「ぎゃっ!」


 よしよし。今のところは防げておる。

 平野殿も上手くやっておられるようだ。このまま叩き返してやればよい。

 ワシらのやるべき事は、可能な限り敵兵を削る事よ。

 鎌倉に痛手を与える事もさる事ながら、大事なのはこちらに鎌倉の軍を引き付けておく為じゃ。


 その間に帝には隠岐を脱出していただかねばならん。

 その為にも、ワシらはここで大軍を引き付けて戦わねばならんのだ。

 それに鎌倉の軍が攻めあぐねておるとなれば、新たに蜂起する者も現れよう。

 それこそが我らの成すべきこと。


 確実にやらねばならぬし、護良(もりよし)親王殿下の助けにもなる。何としても踏ん張らねばならん。

 ………なによりも一番なのは、我が楠木一党の旗を立てる事だ。

 その為にも命を懸けて奮戦せねば。


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「また来たぞ! 準備は出来ておるな? それでは射れぃ!! 奴らを叩き潰すのだ!!」


 ドドドドドドドドッ!!!


 また鎌倉兵がやられておるのが見える。

 こうしておれば敵は段々と怖気(おじけ)づくであろう。

 自ら死にに行く者は多くない。

 だからこそ死を覚悟した者は強いのだ。


 平野殿には死んでほしくはないが、しかしてどこで命を散らすかは己で決めるべきこと。

 ワシはそれを見届ける事しか出来ん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ