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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:楠木正成



 河内や和泉の諸将を味方につける事が出来たワシらは、畿内の鎌倉方に対して攻撃を始めた。

 実際に強いのだと示さねば、味方につく者も増えぬ。

 だからこそ攻めているのだが、今は四天王寺を攻めておる。

 相手は六波羅(ろくはら)の主力じゃ。


 竹井と有賀とかいうたかの。

 そやつらが四天王寺に篭城しておるが故に攻めておるのだが、ワシが策を出す暇が無いというか出せんのだ。

 反鎌倉として集まってくれたのはよいが、諸将の血の気が多すぎる。

 その所為でとてもではないが、指揮をとる事すら難しい。


 築城に関しては息子達に任せてきたからよいが、ここまでになればもう放り投げるしかないな。

 さしものワシも笑うてしまうわ。ここまで己の思い通りにならぬ戦も初めてだからの。

 もう好きにすればよいとしか思えぬ。

 このまま力尽くでも突破できるかもしれん。


 「兄者、あれはよいのか?

 四天王寺に篭もっておるのは篭城だからして分かるのだが、そこに対して力攻めしかしておらんぞ。

 そのうえ血気に(はや)っておるようだ。

 あのままでは無為に死してしまう者が増えるぞ」


 「言うても聞かんし、そもそも兵もワシらの兵ではない。

 それぞれの諸将の兵だからして、ワシが命じたとしても従わぬ。

 ならば放っておくしかあるまい。

 それにだ、力で六波羅(ろくはら)を打ち破ったとなれば、また大きく名が売れるぞ」


 「………奇策だけでなく、力で敵を圧倒する事も出来る、か。

 そうなれば、さらに楠木一党の名は売れるな。

 ますます名が強さを持つようになる。ならばこのまま見ている方がよいか。

 何とか勝てるであろうしな」


 そうだ。そして力で打ち勝ったという名はワシら楠木一党の名に加わる。

 たとえ諸将が突っ込んで勝利したとしても、大将はワシなのだからな。

 己の兵を失する事なく名だけ貰えるとはありがたい限りよ。

 帰ってきた諸将は盛大に(ねぎら)わねばな。


 「おおっ! 遂に壁を越えたぞ。後は回り込んで門を開けるだけか。

 とはいえ門前が塞がれておれば開けられぬが………開いたな。

 ならば荷などを置いて塞いでおったわけではないか。

 門さえ開けばこちらのものよ。後は雪崩れ込むだけで勝てるわ」


 「うむ。そうだが、門を開けるまでに半日か。

 日が出てすぐより攻撃を始めたが、既に夜だからな。

 それでようやくなのだからして、やはり篭城しておる相手に勝つのは大変だわ。

 改めて篭城が有効な策であると分かるのう」


 「これで四天王寺を手にするのか……。

 しかし大丈夫なのか、兄者? 寺から怒られたりせんかな?」


 「すぐに出るから構うまい。寺を占拠しても寺側と揉めるだけだ。

 我らは寺と争いにきたわけではない。なので次に来た者に返してやればよかろう。

 むしろ嘲笑(あざわら)うようにな」


 「せっかく取ったのに返すのか?

 ……ああ、来た時には(もぬけ)の殻という事にするのだな。

 どのみち、ここまでやられておったら、篭城するだけの兵は難しいか」


 「それもあるが、今度は我らが篭城してみろ。寺の者に後ろから刺されかねん。

 そんな危険なところで篭城など出来んわ。

 いつ寝首を掻かれるかと思いながら篭城する。お主それが出来るか?」


 「無理に決まっておろう。

 それに寺の連中は日和見(ひよりみ)が多い。ワシらの首を鎌倉への手土産にされかねん。

 そうなるよりは、さっさと退いた方がよい。そういう事であろう?」


 当たり前だが、信の無いところで篭城など出来ん。危険に過ぎるからな。

 そして坊主ほど信用できん者もおらんのだ。


 「文句を言われたらどうする?

 ここで鎌倉方、つまり六波羅(ろくはら)を待ち受けて叩き潰すと言われたら?」


 「ならば、そやつにやらせればよかろう。

 次は必ず大軍で来るぞ? そうなったら疲弊した我らに勝ち目は無い。

 ここは鎌倉を笑って立ち去るくらいで丁度よい。そう言えば大多数は理解しよう。

 勝てぬ戦をする阿呆は多くない故にな」


 「それでも聞かん奴らは勝手にすればよいか。我らがおらぬ以上、楠木の名が落ちる事は無いしな」


 「そういう事だ」


 その後に集まって軍議を開いたが、多くの者がこれ以上は難しいという意見で一致した。

 もちろん戦を続けたい者も居たが、己のところの兵だけでは勝てぬ故に引いたな。

 当たり前だが、勝てぬ戦をする愚か者がおらぬようで何よりだわ。


 稀に強硬に言い出す愚か者がおるからのう。

 そういう者がおると余計に(こじ)れて面倒になる事も多い。

 そうならずに済んでやれやれだ。ではさっさと帰るとするかのう。

 鎌倉の名がどこまで落ちるか楽しみじゃな。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利高氏



 今日は正慶(しょうけい)元年の九月二十日だ。

 この日、(さきの)執権様は関東八ヶ国の大名を含む者達を派遣する事を決めたらしい。

 大々的な噂になっているので分かったが、我が家には全く情報が下りてこない。

 どうやら足利に対しては、そういう扱いをする事に決まったようだ。


 既に向こうも気づいているのかもしれんな、足利家には忠義が無いという事を。

 まあ、あのような扱いさえせねば、こうはならなかったのだ。やったあの者どもが悪い。

 ついでに派遣される者の中にはオレの名が無いので助かる。

 面倒な戦など御免こうむるのでな。


 それに西の方から聞こえてくる噂には、あの楠木が生きていたというのもあった。

 それを聞いたオレも仙太郎も黒金(くろかね)も納得したものだ。あの戦上手が簡単に死ぬ事などあり得まい。

 にも関わらず、焼け焦げた(むくろ)で納得した愚か者が悪いのだ。


 ちなみに(さきの)執権様や内管領(ないかんれい)がこちらに不信を向けているのは、オレに対して従五位上の官位を渡してきた事もある。

 しかしそんな物になんの意味がある? 無理矢理に戦に行かされた事に変わりなどない。


 それを泣いて喜ばんオレが気に入らぬらしいが、聞いて呆れるわ。

 あそこまで愚かだと、もはや言の葉すら交わそうとは思わん。

 完全に権力の亡者に成り下がっておるのだ、無様だとしか思えぬ。

 何故(なにゆえ)分からんのか理解できん。


 「どうやら我が家には出兵要請は無いようですね。あの時から疑われているようですが……」


 「とはいえ、それを表立って言う事など出来まい。

 そもそも最初にあんな事をせねば、こうはなっておらぬ。そうであろう?

 あの時に間違えたのは(さきの)執権様であり内管領(ないかんれい)だ。

 足利など戦の為に生かしてある家だとまで言われたのだぞ。

 それに納得するとでも思うか?」


 「そんな事を……!」


 「そういえば仙太郎には正しく言うてなかったな。

 (さきの)執権様もそう思っておるのかは分からん。

 少なくとも内管領(ないかんれい)はオレにハッキリとそう言ってきた。ならばそういう事であろう。

 戦など放っておけ」


 「しかし………そうなると身辺に気をつけねばなりませんね」


 「最悪は黒金(くろかね)の力を借りる。

 なあに、陰陽師として生きていけばいいだけよ。オレにとってはそれだけでしかない。

 どこかで参陣して成り上がってもよいしな。

 家格は下がるが我が家は北条家に近すぎる。致し方あるまい」


 「ですか……。とはいえ父上を愚弄されたのです、泉下の父上とて御理解くださるでしょう。

 父を穢されて納得する者など武士にはおりませぬ」


 「まったくだ。あの愚か者どもは結局理解しておらぬ。

 血が濃すぎるとああなるのかもしれんな。オレ達も注意せねばならん。

 マヌケになるくらいならば、家格が低くとも血が遠い者の方が良いわ。

 千寿王にはそういう女子を(あて)がわねば」


 「次代の足利家当主ですからね。孫が血が濃い俗物というのは流石に………」


 「仙太郎もハッキリ言うようになったな。とはいえ父上を愚弄されれば当たり前か」


 「ええ。当たり前です」


 関東八ヶ国の者達を行かせるらしいが、果たして勝てるのやら? あの戦上手は甘い相手ではないぞ。

 それに、今の鎌倉に戦をする銭や兵糧があるのか?

 見せつける為にオレの時には三十万も出したが、その所為で随分と苦しいと聞くがな。


 まあ、オレには関係ないし如何様(いかよう)になろうとも知らぬ。


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