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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:楠木正成



 年が明けて四月となってしもうたが、ようやく赤坂城を奪い返す準備が整ったわ。

 大塔宮様、改め護良(もりよし)親王殿下が令旨(りょうじ)を発布されておる御蔭で、続々と兵力が集まっておる。

 そしてそれに乗じてワシも兵力を揃える事が出来た。


 まずは我が城たる赤坂城を奪還せねばならんが、その為には城主に据えられておる湯浅宗藤という者を打ち倒さねばならん。

 まあ、降伏させたいところではあるのだ。

 こやつそれなりに名が知られておる男で、顔が広いと聞いておるのでな。味方にすれば役に立つ。


 今は鎌倉方だが、こちらには護良(もりよし)親王殿下がついておられるのだ。

 味方にするのはそこまで難しくないはず。

 それにワシの城の兵を全て斬首したのだ。その末路を説けば必ずや味方になろう。

 負けた以上は己の一族郎党も殺されかねんのだ。


 つくづく鎌倉方は愚かに過ぎるわ。ワシなら城兵すべての斬首など絶対にせん。

 ある程度の恐怖は無ければいかぬが、鎌倉方は恐怖を都合よく使い過ぎだ。

 殺されるとなれば誰だって裏切る。殺されたくないのだから当たり前であろう。


 それにワシの城を攻めに来た鎌倉方の大将。

 足利なにがしとかいうヤツであったらしいが、父親の忌明けすらしておらぬのに出兵させられたとか。

 相当の不満を持っていたそうだが、当たり前であろう。

 ワシも初めて聞いた時には頭がおかしいのかと思ったわ。


 父であり当主が亡くなったのだ。最低でも二月や三月は戦になど出すまい。

 出来るならば喪明けまで待ってやるべきだが、それでも忌明けも済んでおらぬのに戦に出すなどあり得んわ。

 何を考えておるのか理解できん。


 京の都の花園院も、鎌倉方の大将が挨拶もせずに帰ったと聞いて呆れたらしいが、理由を聞いて鎌倉に呆れたらしいからのう。

 葬儀の次の日に出兵を命じるなど、頭がおかしいと言われても仕方あるまい。

 鎌倉はここ近年、(ことごと)く失策ばかり重ねておるわ。


 もちろんワシにとっては都合がいいのだが、こう相手が簡単に転ぶと張り合いが出んのも事実だ。

 なんとも言えんようになってくる。

 つまり勝ったとしても、それはワシの実力ではなく単なる落ち目なだけかもしれんのだ。

 それではのう……


 「勝てばなんでもいいではないですか。勝つ事こそが肝要でありましょう。

 それ以外は二の次、三の次でしかありますまい」


 「ま、そうじゃの。

 それはともかく準備は出来ておるか? ワシらの城である赤坂城を奪い返さねばならん。

 夜の間に近づいて一気に奪い返す。よいな?」


 「おう! やっとワシらの城に帰る事が出来るわ。

 やれやれと思うが、早かったとも思えるな。

 やはり鎌倉が勝手に転がり落ちておるからかもしれん。

 我らが死んだなどと、あっさり思い込んだのだからな」


 「阿呆など左様なものでしょう。

 それよりも奪い返しに出陣しましょうぞ。兵達の仇もとらねばなりませぬ」


 「出来ればじゃが、城代となっている湯浅は味方に引き入れたい。

 なので、敵兵も出来得る限り殺すな。素早く湯浅がおる寝所へ行き制圧する。

 元々はワシらの城なのだ、どこで寝るかなど簡単に分かる。では行くぞ」


 「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」


 ワシらは護良(もりよし)親王殿下に御挨拶をし、赤坂城に向けて出発。城に近づいた頃には夜であった。

 人目につかぬように来た為に時間が掛かったが、しかしその御蔭で見つかる事もない。

 さて、素早く城内に入って寝所を襲うか。


 見回りの兵すら寝ておる様に呆れるしかないが、ワシらにとっては都合がよい。

 さっさと寝所にしておるであろう部屋に行くと、寝ずの番が眠りこけておった。

 思わず膝から崩れ落ちそうになったが、踏ん張って近づいていく。


 そして素早く口を塞いで押さえ込ませると、ワシらは寝所に入って太刀をつきつけた。

 間違いなくこやつが城代の湯浅であろう。


 「起きよ。城代の湯浅とやら、起きよ!!」


 「う、ぬ……な、なにやつ!?」


 「ワシの名は楠木兵衛尉正成。元ここ赤坂城の城主よ。

 鎌倉方はワシが死んだと思うたのであろうが、そうそう簡単に死んだりせぬわ。

 ワシの城なのだ、返してもらうぞ」


 「なっ!? い、生きていたのか……。

 なればここまで踏み込めるのも分かる。戦上手に敵うはずも無し。

 是非に及ばず」


 城代の湯浅は座り直すと、首を前に差し出した。

 この男、殺すわけにはいかんな。ここまで(いさぎよ)い男だと兵も信頼していよう。

 そのような男をあたらに殺すわけにはいかん。


 「そなた、鎌倉方を離れてこちらにつかぬか?

 見苦しくなく(いさぎよ)いそなたの首を軽々しく斬るわけにはいかん。

 ワシらは後醍醐帝を仰いで戦っておる。それに、鎌倉方に唯々諾々と従うだけでよいのか?」


 「それは……」


 「これは大塔宮様。

 今は還俗(げんぞく)されて護良(もりよし)親王殿下となられておられる方からの令旨(りょうじ)だ。

 そなたもこれを持って立ち上がろう。鎌倉方のやりようは武士に(あら)ずぞ」


 「武士に(あら)ず?」


 「そなたは知らぬのか?

 鎌倉方の大将であった足利なにがしは、父の葬儀の次の日、無理矢理に出兵させられたそうだ。

 父の菩提を弔う暇さえ与えぬような非道、そのような事をする者に尽くす忠義などあるまい」


 「なんと……! そのような惨い事をさせるとは。

 なんたる非道だ、武士の風上にも置けぬわ!

 相分かった! この湯浅宗藤、楠木兵衛尉正成殿に下ろう」


 「おお! それは助かる! 今は少しでも仲間がほしいところ。

 合力してくれる者が増えれば増えるほど、鎌倉方に勝つ事が出来るようになる。

 湯浅殿は界隈に顔が利くとも聞いておる。文で崩せるであろうか?」


 「分からんが、やってみる価値はあろう。

 そもそも鎌倉というか東国に対して怨みのある者も多い。

 なにより、東の者に好き勝手にされておる事に不満のある者はようおる。

 その者達に文を送れば崩せる可能性は十分にあるであろう」


 「それはありがたい。鎌倉方を崩すには、まず畿内から始めるべきだ。

 そろそろ東から畿内に中心を戻さねばならん。そう思うておるのはワシだけではないはず」


 「うむ。元々からして日の本の中心は京の都ぞ。

 それを鎌倉方が力で奪っていったのだ。

 かつて清盛公の頃は隆盛しておったというのに、鎌倉め……」


 「鎌倉方は必ずやこちらを攻めてくるであろう。ワシは山城を築かねばならん。

 弟よ、湯浅殿と合力して河内や和泉で賛同する者を増やしてくれ。頼んだぞ!」


 「任せておけ、兄者。それよりも城を築く方が大変であろう。

 そちらの方は大丈夫か?」


 「なに、心配するな。この赤坂城を下赤坂城とし、その上に上赤坂城を作る。

 そのうえで山に城を築くのだ。今度こそ鎌倉方を叩き潰してくれようぞ」


 「なればこそ、その前に河内や和泉で合力してくれる者を増やさねばな。

 護良(もりよし)親王殿下もおられる。きっと上手くいくはずだ。

 隠岐に流された帝もお救い致さねばならんが、今は味方を増やす時か」


 「うむ。いつかはバレるであろうが、今は湯浅殿が城代のフリをしておってくれ。

 味方が集まるまでに見つかっても困るのでな」


 「相分かった。河内や和泉で味方が増えれば如何(いかが)する?」


 「当然ながら鎌倉方に攻撃をしかける。

 そうすれば護良(もりよし)親王殿下の令旨(りょうじ)に集まる者もさらに増えよう。

 その為にも派手に勝つ必要がある」


 「なるほど。それならば集めやすいであろう。

 特に諸国に名が轟くかもしれんとなれば馳せ参じる者も多いはずだ。

 楠木殿の名も広がっておるでな。

 三十万の軍勢を翻弄し、総攻めせざるを得なくしたとな」


 「はっはっはっはっ! あの時、兄者はやり過ぎてしもうたとか言っておったな。

 奴らときたら、僅か四日で諦めて総攻めにしてきたのだ。

 鎌倉方が如何(いか)に兄者を恐れておったかよく分かる」


 「まあのう」


 実際にワシを恐れておったのは六波羅(ろくはら)であろうがな。

 だからこそ僅か四日で総攻めにしてきた事に驚いたのだ。

 鎌倉の者は六波羅(ろくはら)のようにワシの事を知っておるはずがない。

 にも関わらず、だからのう。


 あれは未だに分からん。なぜ、あんなにも早く総攻めを決めたのやら?


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