表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
139/186

0139




 Side:足利高氏



 やっと終わったのでオレ達は京の都へと戻らず、そのまま東国への帰り道を進んでいる。

 オレは京の都の周辺で動員された者達ではなく、東国から連れて来た兵の中で帰りたい者はついてくるように言ったが、まさか大半がついてくるとは思わなんだな。


 やはり多くの者はさっさと帰りたくて仕方なかったらしい。

 当たり前と言えば当たり前だし、オレだって京の都になど行きたくなかったくらいだ。

 そんな東国への帰還の最中、とある者が目通りを求めて来た。それも秘密裏にだ。


 「御尊顔を拝し恐悦至極に存じまする。

 それがしは新田小太郎義貞と申し、足利一門の庶家になります。実は……」


 そう言って新田小太郎が取り出したのは、大塔宮様が出された令旨(りょうじ)であった。

 どうやら楠木の城に篭もりつつも、このような事をしておったようだな。

 通りで長く城に篭もっておったはずだ。


 「あれだけの戦上手が、なぜか城の中に篭もりて出てもこなんだ。

 そのうえ帝をお助けする為に笠置(かさぎ)山にも行っておらぬ。

 変だとは思っておったが、こういう事か。

 して、そなたはこれをどうしたい?」


 「それは………」


 「そこで言い淀むのが答えぞ」


 オレは新田小太郎に大塔宮様の令旨(りょうじ)を返す。

 新田小太郎はジッとオレの方を見てくるが、庶家とはいえコイツにオレの胸の内を晒す事は無い。

 どこから洩れるかなど分からんからな。

 しかしコイツの言いたい事は分かる。


 「それで新田小太郎、そなたはオレに何用だ?」


 「は? い、いえ、それがしは……」


 「用が無いのであれば、そなたも休むがいい。

 まだまだ先は長いし、帰るのに時が掛かる。休まねば疲れるだけぞ」


 「………はっ! 失礼いたしまする」


 そう言って新田小太郎はオレの前を辞していった。

 仙太郎が「いいのか?」という顔で見てくるが、別に構わん。

 あの令旨(りょうじ)をヤツが持っている事で、こちらも利用できるかもしれん。

 仮に(さきの)執権様や内管領(ないかんれい)(ささや)いても問題ない。


 オレはあくまでも新田小太郎から見せられただけだ。

 しかもだ、そもそもあれが本物かどうかすら分からん。

 オレは戯言(ざれごと)だと思ったと言えば済む。


 あの令旨(りょうじ)が本当に大塔宮様が書かれたかどうかは不明なのだ。

 あんな物を本気にする方がどうかしている。

 そうやって笑い飛ばせばよい。


 愚か者に見られるかもしれんが、それで構わん。

 どちらにでも行けるようにしておくのは大事な事だ。

 オレは鎌倉の阿呆どもを許す気などないのでな。


 ………新田小太郎義貞。もしかして「義」の字は兄上が与えたものか?

 だとすれば兄上が烏帽子親を務めた者となる。


 その名前は覚えておこう。

 偏諱(へんき)もまた兄上が残したものの一つであるからな。

 でなければ義の字を使ってはおるまい。


 …

 ……

 ………


 その後は特に何もなく鎌倉に戻ってくる事が出来た。

 屋敷に戻ってゆるりと休めるかと思ったら、すぐに内管領(ないかんれい)の家臣がやってきて、報告しろと言うてきた。

 まったくもって鬱陶(うっとう)しいヤツだ。


 仕方なく内管領(ないかんれい)の下へ行き、報告を済ませる。

 いちいち面倒だが、今はまだ本心を見せる訳にはいかんからな。仕方がない。


 「そうか、相分かった。ご苦労であったな」


 「いえ」


 「うむ。やはり足利を遣わせば勝てるという事であるな。ははははははは……!」


 「………」


 「………ご苦労であった。もう戻ってよいぞ」


 「失礼します」


 オレは最低限の言葉しか発していない。

 当たり前だが、今ですらまだ忌明けしておらんのだ。

 どうやらオレが出兵した後で周りに言われたか、それとも気づいたのであろう。

 反感を持たれて当たり前の事をしたうえに、常識すら無いのが内管領(ないかんれい)なのだ。


 この事に関しては、周りの者も内管領(ないかんれい)に忖度すまい。

 武士として何を考えておるのかという話にしかならん。

 幾ら負けるわけにはいかんからといって、やっていい事と悪い事の区別すらついておらんのだからな。


 オレはさっさと屋敷に戻り、愚か者の顔など忘れる事にした。

 いちいち覚えていてやる価値も無いしな。もう思い出す必要もなかろう。

 一言二言ならば話すかもしれぬが、それ以上に話す事など何も無い。

 それは(さきの)執権様も同じだ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:黒金(くろかね)



 今日は一月一日。ただし元号が変わるんじゃないかと言われてる。

 何故なら後醍醐帝が隠岐に配流、つまり流されたからだ。

 今は<持明院統>の帝が新たについた。

 こうやって帝が変わるごとに改元なんてしているから、分からなくなるんだよね。


 とはいえ今のところは変えるという通達も来ていないので、今年は元徳四年になる。

 僕達は又太郎の事もあってすぐに戻ってきたけど、どうやら赤坂城の降伏した兵士達は殺されたらしい。

 六波羅(ろくはら)が斬首にしたらしいけど、また余計な事をしたんじゃないかな?


 将門にした事もそうだけど、怨みと憎しみを増やすだけなんだから止めればいいのに。

 むしろ放って泳がせた方がよっぽど良いと思うけどね。

 どうせ生きているなら楠木っていう戦上手と合流するだろうし。

 そしたら楠木が生きているかも分かるんだから、そうすればいいのにさ。


 「確かに黒金(くろかね)の言う通りだと思うよ。

 正直に言って、私もあの楠木という戦上手が死んだとは思えない。

 あれほどの罠を使った城を作るような男だ。そうそう簡単には死んでくれないと思う。

 ま、私達には関わりはないが」


 ドスン……ドスン……ドスン……


 派手に餅を搗いているように見えるけど、桜は相当に手加減してるね。壊すわけにはいかないから当然だけど。


 「そうだね。

 後は向こうが勝手にやるだろうし、少なくとも又太郎が喪明けを迎えるまでは何も言ってこないと思う。

 裏で結構言われているみたいだしね。僕にも聞こえてくるぐらいだからさ」


 「当然であろう。忌明けもしておらぬどころではない。

 当主である父上が亡くなり、葬儀の次の日に戦に行けだからな。

 この事に関しては、我が足利家に同情が集まっている。

 (さきの)執権様も内管領(ないかんれい)も何を考えているのだ、とな」


 「戦では(げん)を担ぐ事が多いと聞くけど、だったら忌明けもしてない者を戦に生かせること自体、縁起が悪いのにね。

 なんでそんな簡単な事も分からないんだか。

 ついでに三十万も居たんだから、誰が総大将でも勝ってたと思うよ?」


 「それはな、私もそう思う。別に兄上でなくとも、あの戦は確実に勝っていた。

 時は掛かったかもしれぬが、誰でも勝てたはずの戦だ。

 (げん)担ぎだけで、(げん)の悪い事をさせるのは意味が分からない。心の底から分からん」


 「本当にねえ。いったい何の為にやらせたんだか。

 結果として、また鎌倉の名が落ちたんだけど、その事すら理解してないんだと思うよ。

 なんか周りにいる連中に操られている感じがする。

 ある事ない事を吹き込んでるって言ってたけど、そいつらが耳を塞いでるんじゃない?」


 「(さきの)執権様のか? ………それはあるのかもしれんな。

 元々はあのような事を命じるような方ではなかった。

 となると周りの者が目を曇らせておるのであろう。

 とはいえ私達にはどうにも出来んよ。このまま見ておるしかない」


 「そうだね。そもそも僕だって言ってるだけで、先代の執権を助けてやる気なんて無いし。

 自分で命じた以上は取り返しなんてつかないからねえ、たとえ周りに言われたんだとしてもさ」


 「だな。だからこそ色々と考えねばならん。

 本当は何が正しいのか、何が間違っておるのか。

 (さきの)執権様や内管領(ないかんれい)のようになってしまえば、何も見えぬようになってしまう」


 名前が出てないけど、外戚(がいせき)も裏で色々と動いている気がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ