0138
Side:足利高氏
オレ達は再び集まって軍議を開いている。
流石に重苦しい雰囲気ではあるが、それでも軍議を進めねばならん。
なのでオレから諸将に問う。
「江間越前入道殿が今日一日攻めてみて分かったが、あれは簡単に落とせる城ではない。
そこで諸将にどうするかを今一度聞きたく思う。
あれに対して我こそはと思う方はおられるであろうか? それともおられぬであろうか?」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
それぞれの方面で一番上におるのは北条家だ。しかしその下には家臣の者達も当然おる。
とはいえその家臣達ですら誰も己にやらせろと申す者はおらぬか。
当たり前だとは言えるが、あれは予想よりも遥かに厄介だ。
尻込みする気持ちはよう分かる。
「既に十分であろうと思う。
私が攻めてみて分かった、あの城にはどれほどの罠が仕掛けられているか分からぬ。
もはやここに至っては総攻めしかあるまい。
出来得る限り早く終わらせねば恥を掻くだけになる。そうであろう?」
「で、あろうな。情けないなどと言うてはおれぬ。
あの戦上手を早く討伐してしまわねばならん。
ここで逃がすような事になれば、今後がどうなるか分からんからな。
今の内に総攻めで討伐してしまうべきだ」
己が二日攻めても勝てなんだ者だから、総攻めも仕方なしと言う気か? まあ、何でも構わんがな。
オレが出るしかないかと思うたが、総攻めの方が良いかもしれん。
手柄はこやつらにくれてやればよいし、さっさと終わらせて帰れるからな。
それが一番よいか。今は目立たぬ方がいい。
「大仏殿はどう思われる? 総攻めがよろしかろうか?」
「私はどちらでもよい。
前にも申したが、私は既に功を得ておる。それ故に出しゃばる気は一切無い故にな。
とはいえ総攻めの方が良いとは思う。それほどまでに楠木なる戦上手は厄介だ」
「それでは明日は総攻めという事で。
一致したようなので、これにて軍議を終わりに致す」
オレはそう言って軍議を終わらせた。
そもそも今回は出兵に対して不満があり、そしてその理由は正当なものであると多くの者が察しておる。
そのうえオレは出しゃばらず、決めたのは北条家の者達だ。
オレが文句を言われる筋合いなどない。
代わりに功も無いが、そんなものはどうでもよい。欲しければくれてやればよいのだ。
それよりも今は鎌倉へと戻る事の方が先だ。
オレにとって大事なのは、喪が開けるまで父上に対する祈りを続ける事であり、戦などというものではない。
とりあえず総攻めにすれば明日あの城は落ちる。その後はさっさと帰ろう。
それでも鎌倉まで時間は掛かるのだが、これはもう諦めるしかない。
単純に遠いのだから、どうする事も出来ん。
大将として兵達を放って船で帰るわけにもいかんからな。
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Side:楠木正成
三十万の大軍が攻めてきて四日目。奴らついに総攻めを始めよった。
笠置山の帝にはせなんだのに、ワシに対しては四日でやってくるとはな。
余程この三日の事が応えたか? 流石にこの数は捌ききれんし負けるしかない。
なので皆が防いでくれている間に準備せねば。
「昨夜まで少しずつ骸を集めておいてよかったですよ。
まさかこんなに早く必要になるとは」
「仕方あるまい。こちらは罠もかなり使ったが、向こうはどれだけ罠があるか知らんのだ。
まだまだ大量の罠が残っておると思えば、総攻めにするしかないと思ったのかもしれん。
流石にちょっとやり過ぎたかのう?」
「はっはっはっはっはっ! 鎌倉の者どもが慌てふためいて総攻めにしてくるとは、愉快で仕方ないわ。
これこそが楠木の力ぞ」
「そんな事を言うておらんで早う準備せい。とりあえず骸に油を掛けるんじゃ。
ついでに残っとった獣の脂もここに捨てていく。
派手に燃えるじゃろうから、ワシらの骸だと誤解するであろうよ」
「ところで大塔宮様は?」
「すでに脱出口からお逃げなされた。
大塔宮様がおられれば令旨は出せる。ならば我らは反撃の機会を窺うだけよ。
その時が来たらば城は取り返す。
皆の者、それを忘れるなよ。ここは我らの城ぞ」
「おうよ! 必ず帰ってくるさ。
なあに、少し預けるだけよ。じきに奪い返してみせるわ。
それでは兄者、そろそろ……」
「うむ。火をつけたら脱出口から逃げるぞ。
皆の者、必ず生き延びるのだ! 生き延びれば幾らでも反撃が出来る。
死ぬ事だけは無きようにせよ」
「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」
「では火をつける!」
ワシの城よ、しばしの別れじゃ。
しかしワシは必ずここに戻ってくる。なぜならワシの城なのだからな。
……これ以上はいかんな。さっさと離れねば、ワシがワシの言葉を否定してしまうわ。
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Side:足利高氏
「煙だーーーっ!! 煙が上がってるぞーーーー!!!」
兵が騒ぐので見てみると、確かに城から煙が上がっておる。
となると城に火を放ったか。
これで敵は降伏するか、それとも自害したな。
…………真にそうか? あれだけの戦上手を見せつけて、そうそう簡単に自害を選ぶとは思えん。
ならば城に火をつけて逃げる為か? あれほどの戦上手、最初から城に逃げる為の道を作っておっても不思議ではない。
それがどこかは分からぬが、まんまと逃げられたのかもしれんな。
とはいえオレには関わりなき事だ。
ここでの戦が終われば、なんでもいいのだからな。
北条家の者どもがなんと言うかは知らぬが、あれらとて逃げられたとは言わぬであろう。
ならば、これで戦は終わりだ。
「どうやら戦は終わりのようですね。
弓を持ってきていましたが、射る事もなく済んで良かったですよ。
まあ、私が撃つ前に黒金か桜殿が撃ってくれるでしょうが」
「僕が撃ってただろうね、桜のは矢がもったいないしさ」
「まあ、私も無理に戦に参加したいわけでもないし、撃たなくていいならそれに越した事はないわ。
……それにしても粘られたわね。
三十万もの兵が居ながら耐えられたんだもの、戦上手と言われるのも分かるわ」
「四日目ではあるが、総攻めでこれだからな。とても褒められたものではない。
とはいえ、オレ達からすればどうでもいい事だ。これでやっと帰れる。
兵達も含めてさっさと帰してやらねばな。
わざわざ畿内まで来なければならなかったのだ。早く帰りたかろう」
「私達もそうですし、早く帰りたいのは唯の事実ですからね。
功を得たい者達は別でしょうが」
「そやつらは好きにさせておけばよい。
時間が掛かっては戦費も嵩むし、無駄な事にしかならん。
帰るまでに時間が掛かるが、我らは兵を連れてさっさと帰る。
それ以外は考えなくていい」
…
……
………
「どうやら楠木一党は大きな穴の中で自害していたらしい。
油も獣の脂も使われたらしく、誰が誰か判別がつかぬようだ。
致し方がないが」
「それでも勝ったのだからよかろう。これで我らの勝利で終われる」
「この後は京の都に行って、朝廷にご報告をせねばならん。
それが終わってから、ようやく帰る事が出来る」
「その事だがな、京の都への報告は諸将にお任せ致す。
そもそもオレはこの場におるのがおかしいのだ。
一刻も早く戻りて父上の菩提に祈らねばならぬ。
故に申し訳ないが、諸将でご報告をお願いいたす」
「………大将は足利又太郎殿であるが、仕方ないな。
先代の義観殿の菩提を弔いたいのはよく分かる。
後は我らに任せて早う帰られるが良かろう」
「かたじけない。
鎌倉に戻りたい兵は皆連れていくので、そこは安心されたい。
それでは……」
これでやっと終わったか。随分と面倒な事だったぞ、まったく。
さっさと鎌倉に戻らねば。
……とはいえ、戻ったら戻ったで報告しろと五月蠅いであろうがな。
それは諦めるか。




