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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利高氏



 我らは伊賀路を抜けて、ようやく千早赤坂にある赤坂城までやってきた。

 ゆっくりと進軍せざるを得ぬし、ここまで大軍を連れてくるのに時が掛かった。

 正直に言って、このような大軍が必要であったかは謎だ。

 相手は城に篭もっておる小勢であろうに。


 それでも連れて来た以上は、何か活躍をさせねば立場が無いというのも分からんではない。

 とはいえ時間が掛かるし面倒このうえないわ。

 軍はもっと少ない方が良いと思うし、その方が銭が掛からんであろう。

 なんだか無駄に銭を掛けておるようにしか思えん。


 とりあえず着陣したので軍議を行うが、早速とばかりに金沢貞冬が言い出した。

 まあ、この者は手柄が無ければマズい立場になると聞いた。

 どうも笠置(かさぎ)山攻めでは愚痴を聞いたり言ったりしておっただけらしいのだ。

 挽回したいのであろうな。


 「オレは金沢殿に先陣を切ってもらってもいいのだが、他の方々は如何(いかが)であろうか?」


 「私は後醍醐帝を捕縛した功があるので無理に手柄を欲してはおらぬ。

 包囲を正しくし、相手を逃がさぬようにしておくだけで十分だ。

 他の方々が手柄をとられればよい」


 「私は無理に手柄を欲してはおらぬ。

 それでも貰えるなら貰うが、無理をして失敗しては目も当てられん。

 それに相手は戦上手と聞く。

 そのような男が篭もっておる城だ、簡単ではあるまい」


 「オレは忌明けもしておらぬ故、そもそも功を得る気が無い。

 なので諸将で功を得て頂いて構わぬ。

 正直に言って、オレがここにおるのは(げん)担ぎのようなものだ。

 祖、足利義氏公が北条家を大勝に導いたので縁起が良い。それだけだな」


 「「「………」」」


 なんとなく三人は察したようだな。内管領(ないかんれい)が無理を言ってオレに命じた事を。

 そもそも忌明けもしておらぬ者に戦をさせるなど、あまりにも常識が無さすぎる。

 喪が明けておらぬとしても、半年も経っていれば分からぬではない。

 しかしオレは忌明けすらしておらぬのだぞ。


 常識的に考えてもあり得んのだ。

 まるで蛮族の如きやりようなのだから、誰もオレが前に出ずとも文句は言うまい。

 仮にオレが内管領(ないかんれい)に反感を持ったと思われても構わぬ。

 多くの武士はむしろオレに同情するだろう。そちらの方が大事だ。


 それはともかく金沢殿が先陣を切るので、お手並み拝見というところか。

 功を焦って失敗するのか、それとも汚名返上となるかは知らぬがな。

 オレ達はゆるりと見物させてもらおう。


 …

 ……

 ………


 「アレは駄目だねー。流石にいいようにやられ過ぎかな?」


 「そうね。流石にあれでは駄目よ。

 相手に翻弄されてるっていうか、相手の手の平の上で踊らされてるわ。

 戦上手って聞いてたけど、相当に上手みたいよ?

 上手く矢が飛んできて分断されてるっぽいし、ここからでもそれが分かるくらいだもの」


 「あれは駄目ですね。おそらく攻めても落ちないでしょう。

 無理攻めすれば勝てるでしょうが、それをすると……功になるかは難しくなる。

 やはり金沢殿としては、戦上手以上に戦が上手いのを見せつけて勝ちたいところ」


 「それは無理だろう。

 元々愚痴を聞いたり言ったりしておっただけなのだ、戦場(いくさば)で尻が軽い者など論外。話にもならん。

 将は泰然自若とし、どっしりと構えておかねばならんのだ。

 たとえ心の中が不安で満たされていようともな」


 「大将が不安だと、兵も不安になるからね。

 大将は常に勝てるという姿を見せなきゃいけない。

 大変だと思うけど、それが将だからね。

 だからこそ九郎はニコニコしてたのかもしれないけどさ」


 「そういえば義経公は目が笑っていないと言っていたが、しかし顔は笑っておられたのであったな。

 それが義経公の強さなのかもしれん。

 いつも笑顔で居る者と、深刻そうな顔をしている者では違うからな。

 オレもそうした方が良いであろうか?」


 「無理に兄上がされる必要は無いのでは? それに合っていなければ大変になるだけですよ。

 兄上はどっしりとしておけばいいのではないですかね?

 義経公には義経公のなさりようがあったというだけでしょう。

 兄上がその真似をする必要はありませんよ」


 「そうか………そうだな。

 オレにはオレのやり方があるし、そこまで無理に誰かの真似をする必要もないか。

 それにやったところで上手くいくとは思えん。

 元々そうだったからこそ、義経公は上手くいったのだろうしな」


 「ええ、そう思います。

 ………今日は完全に負けですね。これを見ていて攻め勝てるとは誰も思わないでしょう。

 金沢殿が下手というより、相手が戦上手だったと言うべきです。

 あれは簡単には落ちないでしょうし、どうなるのやら」


 「オレの方に何とかしろと言ってこなければいいのだがな。そうなると困るぞ。

 いちいち面倒だし、オレとて上手くいくか分からんのだ。

 一応は(げん)担ぎでおるのだから、負けると一気に雰囲気が悪化しかねん」


 「それだけはマズいですし、何とか他の御三方で勝ってもらいたいところです。

 難しい……でしょうかね? 相手は戦上手ですし」


 「止めてくれ。そんな事を言っていたら、本気でそうなりかねん。

 流石にそれは困るし勘弁してほしい。オレは指揮をする事すら嫌だぞ」


 「気持ちは分かりますけど、あの調子を見ていると可能性はあると思いますよ。

 幾らなんでも駄目すぎますし」


 「他の二人がおる。あの二人なら何とかしてくれるはずだ。

 オレは出来れば喪明けまで戦などしたくない。

 何故父上の菩提を弔う事さえ、まともに出来んのだ。

 オレだけではなく父上も愚弄しておるのだぞ。あんなヤツの思い通りになって堪るか」


 「………」


 仙太郎とて何も言えまい。

 あれだけ尽くしてきた父上でさえ、奴らは心の中で軽んじておったのだ。

 まさに連中は平家と同じよ。

 <平家にあらずんば人にあらず>。連中はそれと同じようにしか思っておらんのだ。

 いい加減にせよと思うわ。


 父を愚弄されて何も思わぬ者など、武士におる筈があるまい。

 そのような事すら内管領(ないかんれい)(さきの)執権様も分かっておらぬのだ。

 我らは源氏であるが、北条はしょせん東国の豪族よ。その程度の事も知らんのだ。


 己らが上に立って当たり前とでも思うておるのであろうが、源氏を舐めるなよ。

 時が来たらば確実に滅ぼしてやるぞ。

 父を愚弄された以上は容赦などせぬ。


 「あーあー、これは本当に駄目だね。

 攻めていた兵士達もやる気がなくなったみたい。

 散発的になったし、今日はもう終わりかな。

 明日仕切り直しで攻める事になりそう」


 黒金(くろかね)は戦に何度も出た事があるので分かるのであろうな。

 それにしても十四年も過ぎたというのに、本当に何も変わっておらん。

 それが黒金(くろかね)の良さでもあるが。


 「撤退しちゃったわねえ。どうやらもう攻める事はないみたい。

 まだまだ夕方まで時間はあるけど、このまま攻めたところで防がれ続けるだけでしょうし、仕方ないのかしら?

 戦っていうのも大変だわ」


 「僕達は妖怪が出たら退治するぐらいでいいよ。

 一応、陰陽師もついて来てくれてるから、そこまで僕達に声は掛からないと思うけども」


 「掛からない方がいいんじゃない?

 もし私達に声が掛かるとしたら、それだけ強い妖怪が出たって事だもの。

 なら無い方がいいわ」


 確かにそうだな。黒金(くろかね)が出なければいかん妖怪など考えたくもない。

 仙太郎も固まっておるしな。それぐらい黒金(くろかね)は強いのだ。

 だからこそ、その状況になったら一目散に逃げねばならん。恥など考える必要もない。


 大妖怪が倒せる黒金(くろかね)が出なければいけない時点で、間違いなく甲級であろうよ。

 それなりの陰陽師がおる以上、合力いたせば乙級ならば勝てるであろうからな。


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