0135
Side:黒金
久しぶりに葛葉に会ってから三日。
僕達は京の都を出発する事になった。
実はゆっくりしようと思っていた又太郎と仙太郎は、都の公卿や公家に会わなきゃいけなくなって忙しく過ごしていたらしい。
僕と桜は鹿野家の家でゆっくりしていたけどね。
今は紐などで簡易的に太刀の状態にした<白銀>を腰から吊り下げている。
重いからあんまり持ちたくないんだけど、それを言うと五月蠅そうだから黙ってるけどね。
後、<白銀>を触った又太郎と仙太郎は感動していた。
単に頼朝が送ったってだけなんだけど、その意味はやはり大きいみたいだ。
それに抜いてみて分かったらしいが、この<白銀>はかなりの太刀らしい。
実際に相当に腕の良い職人が作ったのは間違いないそうだ。
わざわざ茎までは調べていないけど、きっと名のある職人の名が刻まれているはずだと二人は言う。
僕としては誰が送ったとか、誰が作ったとかはどうでもいいんだけどね。
それでも鎌倉で政を始めた者だから大きいんだろう。
頼朝は間違いなく、東国で最も信奉されているんだ。
それは二人を見ていてもよく分かる。
普段は特にそんな素振りもないんだけどね。
でも頼朝の事になると目が変わるんだよ。
何というか、子供みたいな目になるんだ。
そういう意味では頼朝は凄いんだよね、実際。
僕は会った事がないから分からないけど、一度くらいは会っておくべきだったかな?
そんな事を考えつつも暢気な感じで僕達は進む。
兵士達も休めたからか元気なようだし、僕達も元気は回復した。
というか、又太郎の機嫌の悪さが回復した?
いや、正しくは方向が変わったというべきかな。
「本当に面倒であったぞ。
一応オレ達も作法は学んでいるとはいえ、粗相をすると面倒なので気を使うしな。
それを考えると公卿や公家と会うのは疲れる。
まるで見張られているようであったわ」
「とはいえ作法をしっかりとしておかねば、東国の者は作法も知らぬと笑われますしね。
おかげで兄上の申される通り疲れただけだった。
正直に言って関わりたくない」
「だから言ったじゃん、あいつらと関わりたいヤツなんていないって。
そういう面倒な連中だから誰もが嫌がるんだよ。
平気で嫌味とか言ってくる連中だし、まともな公卿や公家なんて少ないんだ」
「本当にそうだな。
なるべく関わりたくないというところだ。正直に言って面倒にすぎる。
公卿や公家と武士は違うのだとハッキリと分かったわ。
それと、妙にこちらを探りてきたのは何故であろうな?」
「<大覚寺統>も<持明院統>も関わってこようとしていたので、おそらくは朝廷内のイザコザにこちらを巻き込もうというところでは?
……いえ、あれはイザコザに使えるかどうかを見ていたのでしょう。
そういう方々のようですし」
「全て終わったらさっさと帰るべきだな。唯でさえ面倒極まりないのだ。
そのうえ今の帝は<持明院統>の帝となっておる。鎌倉が無理矢理に三種の神器も無いままに帝にしたからな。
後醍醐帝が決起されたからだが、帝を勝手に決めるのはどうなのだ?」
「一応鎌倉が勝手に決めたわけではなく、<持明院統>からの誘いに乗ったという形でしょう。
ですので自分勝手に決めたわけではありません。という言い訳は十分に出来るでしょう。
実際に朝廷のイザコザに乗る形ですし、朝廷の方々が認めている以上は……」
「そうだな。何とも言えんが、それで納得するしかあるまい。
それにしても、やはり面倒だわ。京の都は好きになれん。
あのような謀に巻き込まれるぐらいなら、さっさと鎌倉に戻った方が心安らかに居られるわ」
「鎌倉には今回の事を言い出したのが居るけどね」
「………それでも故郷の方がマシであろう。
実際、京の都は他所だとしか思えんかったしな。
オレの居るべき場所ではない」
「この先どうなるかは分かりませんけどね。
言葉は悪いですが、今回の様々な事で縁が出来てしまったと言えなくもありません。
あの方々はそんなか細い縁であろうが、己らに都合が良ければ利用しそうです。
注意しなければいけませんね」
「本当に嫌になってくるな。
あっちもこっちも謀か。
そして他者を動かし、己は高みの見物とは……。呆れるしかない」
又太郎は余程に今回の事に怒っているんだろうね。いや、根に持ってるって感じか。
とはいえ義観さんの葬儀を行った次の日に出兵じゃ、根に持って当然だけどね。
流石に今回の事は、明らかに鎌倉が悪い。
又太郎も仙太郎も怒るのは当然だ。
それに他の武士もそれは当然だと思ってる。そこが重要だよ。
源平の頃だって、やっちゃ駄目な事をやると凄い反感を持たれたからね。
こういう部分でも鎌倉は傾いている気がしてくる。
本当に倒れるかもしれないなぁ。
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Side:楠木正成
京の都に置いていた者が慌てたように戻ってきた。
その理由を聞き愕然としたわ。
なんじゃ三十万といういうのは、七万ではなかったのか?
鎌倉から兵が来たと言うておるから、正しく東国の軍が来たのであろうが……。
「兄者、如何する? 三十万など、とても防げんぞ。幾らなんでも敵の数が多すぎる。
こんなものどう考えても無理だ。ならば負ける事が分かったうえで、どうにかせねばならん。
戦いもせずに逃げるは無しだぞ?」
「当たり前だ。戦いもせずに逃げるなど武士の恥。そのうえ決起された帝に対して面目が立たぬわ。
可能な限り敵に痛撃を与え、そして城を退くしかあるまい。
三十万が帰ったら再び城を取り戻せばよいのだ。留守居など簡単に叩き潰せる」
「そうです。我らが城なれば弱いところも知っておりますから、取り戻すは容易いこと。
それよりも三十万の相手をする方が大変です。
もちろん一斉に掛かってくるわけではありませぬが……」
「とはいえ相手は間断なく攻めてこよう。
我が五百の兵ではいずれ動けんようになるのは考えずとも分かる。
となると、出来得る限り罠を使って敵を叩き、そのうえで城に火を放って逃げるべきじゃな。
その際には敵兵の骸を手に入れておかねば」
「敵兵の骸をか? 何故そのようなものを……」
大塔宮様はやはりお分かりではないようだ。
逃げる際には確実に逃げられるようにせねばならん。
その為には一度、ワシらが死んだ事にせねばならんのだ。
「大塔宮様。我らが確実に逃げる為には、我らが死んだという事にせねばなりませぬ。
そうせねば追撃を必ず受けますが故に。
ですので敵兵の骸を手に入れておき。それにも火をつけて逃げまする。
敵はそれが我らだと思いましょう。さすれば追撃を受けぬのです。
もちろん敵がそう思ってくれねばなりませぬが……」
「それでも兄者が言われる事をすれば、敵は本当に死んだかが分からぬようになる。
特に焼けた骸など本物かどうかも分からんのだ。
相手は探し回るか? ワシは探さんと思うぞ。三十万を早う帰さんとならんしな」
「三十万ともなれば、相当の兵糧が必要です。
唯でさえ七万の軍勢の兵糧が一月分ほど既に使われているのですから、そこまで長く維持できません。
良いも悪いもなく解散するでしょう。せねば戦費が大変な事になる」
「三十万もの軍である時点で、既に大変だがのう。
銭があるところにはあるのであろうが、無駄使いも甚だしいわ。
この城を落とすつもりなら、三倍の千五百で十分よ。
多くとも四倍の二千であろう。それ以上は多すぎる」
「その数で来られても我らは倒せぬがな。
そう考えると相手の三十万は、確実に我らに勝つ為だとも言えるな。
それでも大げさだが」
確かにのう。五百の城に三十万は多すぎるわ。




