0134
Side:黒金
それにしても広い屋敷だなぁ……。
かつて二部屋しかない家に住んでいたとは思えないよ。
あそこでの暮らしも悪くなかったんだけどねー。
まあ、艶と葛葉と夫婦になったから手狭になったんだけどさ。
こんな広い屋敷で使用人も居るような暮らじゃなかったんだけど……。
何を考えて移ったんだろうね?
やっぱり公家の娘と婚姻を結ぶと屋敷に住まなきゃ駄目なんだろうか?
それとも何かあったのかな?
僕達は葛葉の後ろをついていき、そして奥の一室に案内された。
明らかにこの部屋というか離れだけ豪華だね? 葛葉らしい気はするけどさ。
「何を考えているか分かるけど、私が豪華な部屋にしたくてしてるわけじゃないわよ?
元々ここは斯明の寝室だったところよ。
そして斯明が亡くなった後は、艶が使っていたの。そして今は私ね」
「斯明は妖怪というか凶妖と戦って死んだって聞いたけど、本当?」
「本当よ。ただし足りていないけどね。
正しくはあの戦いで駿慶ちゃんも晴海ちゃんも亡くなってるわ。
見た事も無い妖怪で、しかも呪いを振り撒くようなヤツだったの。
今も覚えてるけど灰色の人の形をしたものよ」
「灰色の人の形……」
「怨念とか呪縛とか、まさにそういうものとしか形容できなかったわね「失礼します」」
戸を開けた人がお茶を持ってきてくれたので、僕達は飲んで一息吐く。
気づいていなかったけど、喉が渇いていたみたいだ。
麦湯はいいね、体に染み渡るようだよ。
「その灰色の人型に対して三人で封じ込めようとしたの。
その結果、封印する事は出来たんだけど、命を吸い取られるような形で亡くなったわ。
加茂家の技も安倍家の技も教えられていたからね。それで何とか出来たってわけ」
「そうだったんだ。
その時に僕は居なかったから、どうしようもないね。
居れば何とか出来たかもしれないけど、今更な事を言っても意味は無いし」
「そうね。それと斯明と艶から黒金に伝えてほしいっていう言葉があるわ。
斯明は「好きに生きろ」ってさ。
鹿野家はこうして残ったけど、黒金がそれに囚われる必要はない。
だから好きに生きろという事よ」
「……そっか。なら好きに生きさせてもらうよ。
で、艶は?」
「艶はねえ………ま、いいか。
「黒金が気に入った子が子孫に居たら、その子をお願い」ってさ。
黒金の血を我が家に入れたいって事でしょうね。
もちろん実力とかじゃなく、見た目的な意味でね」
「見た目って……」
「貴女が誰かは知らないけど、自分が美人なのは分かってるでしょう?
ようするに、そういう美人になる子が欲しかったという事よ。
もっと色々と考えてたんだけど、最後は素直に言いたい事を言えばいいと思ってね。
それで決めたってわけ」
「なるほどね。とはいえ僕は成長しないから駄目かなぁ………。
こっちに来てさ、もう十四年にもなるのに未だに変わらないんだよ。
だから無理じゃない?」
「十四年って………。もっと早く顔を出しなさいよ。
なんで十四年も京の都に来ないの!」
「ここに居る又太郎の前に出たんだけど、壇ノ浦で蹴り落とされて気づいたらそうだったんだ。
しかも神様の眼で「まだまだ時がある」って感じで出てるしさ。
という事は、今回は又太郎と一緒に居るべきだと思ったんだよ」
「又太郎?」
「初めてお目にかかります。それがし、足利又太郎高氏と申す者。現在、京の都に軍勢を率いて来た者となります。
こちらはそれがしの弟で仙太郎と申します」
「足利仙太郎高国と申します。よろしくお願いいたします」
「私はそういう固い挨拶は無理ね。
一応黒金と相談して決めた名前で桜というの、よろしく。
妖怪としては山姫となるわ」
「私は鹿野葛葉よ。
鹿野家の者ではあるけれど、当主は別に居るからそのつもりでね。
それにしても驚いたわね、鎌倉から来た軍勢に黒金が居たなんて。
それに山姫を引っ掛けてきてるし。意外に侮れないのかしら?」
「別に引っ掛かったわけじゃないのだけれど?
私の住んでいた山に後で山姥が来たのよ。
そいつを放っておいたら強くなりすぎてね、それで黒金が退治にきたってわけ。
で、退治されたのはよかったんだけど、人里では私まで山姥だと疑われてたの。
それで仕方なくよ」
「なるほど。災難だとは思うけど、強くなる前に退治してやれば良かったでしょうに。
どうせ同族だからと情けを掛けたら手がつけられなくなったんじゃないの?
過去にも似たような事があったからね。予想通りでしょ?」
「………」
あっさりと葛葉に見抜かれたね。
とはいえ同族に情けを掛けるってよくある事みたいだ。
良くない事になるとはいえ、やっぱり躊躇うものなのかな? 僕なら容赦なく殺すけどね。
無闇に生かした方が可哀そうだし。
「黒金はいつまで京に居られるの?」
「兵は数日休んだら出発するみたいだよ。
だからそれについていく事になるかな?
それがどうかした?」
「色々と話したりとかしたかったけど、それは無理そうね。
まあ、今の時代に黒金が来たと分かっただけで十分だし、斯明と艶の言葉を伝えられて肩の荷が下りてよかったわ。
……あっ! 忘れてた。これ黒金のだから持っていきなさい」
そう言って葛葉は立ち上がると、飾られていた木刀を持ってこっちに来た。
……木刀じゃないや、あれ太刀だ。
「これ黒金にって送られてきた太刀よ。
壇ノ浦から帰ってこなかったから、そのまま保管してたの。
糸を含めてボロボロになってたから、已む無く白木拵えにして残してあるわ。
これが頼朝から送られた<白銀>よ」
「おおっ! それが黒金が言っていた頼朝公から送られたという太刀か!
まさかこの目で見られるとは……」
「本当ですね、兄上。
ずっと話だけは聞いていましたが、本当にあるのかは見た事が無かったので信じきれなかった。
当時のまま残っていないのは仕方ないとしても、それが頼朝公から拝領した太刀……」
「そんなに喜ぶ事かしら、単に頼朝が送っただけでしょうに。
価値なんて太刀以上には無いわよ?」
「東国の人にとっては違うみたいだよ。
どうしても畿内から虐げられていたっていう感情が無くならないからだろうね。
あの当時の地方に行った平氏も色々とやらかしてたみたいだし」
「ああ、それに関しては色々と聞くわね。
イマイチよく分からなかったけど、頼朝の送った太刀ってだけで喜ぶのを見たら理解したわ。
とはいえ、その頼朝もとっくに死んでるけど」
「暗殺されたみたいだよ。
頼朝の墓に行ったら、神様がそう教えてくれたから。
しかも<愚か者が醜く争う世>を作ろうとしてたんだってさ。
自分が暗殺される事も知ってたみたい」
「それはまた………
逃げられないなら、あえてそうしてやろうって事かしらね。
業の深いと言うべきか、それとも人間の本質なんてこんなものと言うべきか。
北条っていうのが天下をとってる以上は、その北条ってのが暗殺したんでしょう」
「だろうね。僕もそう思う。
もしかしたら頼朝も変わらなかったのかもしれない。
前相国だって妖怪を倒した後に、頼朝の首を墓前にって言って死んだんだしね」
「「えっ!?」」
「あれ? 言わなかったっけ? 前相国は妖怪に操られていて、その妖怪を僕が倒したんだよ。
でも死の間際で、それでも頼朝の首を求めてたんだ。
それだけが心残りって言ってたんだけど、頼朝にはどんな心残りがあったんだろう?」
考えても分からないけど、おそらくはあったはずだ。
それが分かったところで意味はないけど、気にはなるかな?
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