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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利高氏



 未だに京の都には着かぬが、こればっかりは仕方あるまいな。

 オレ達はようやく三河を越えて尾張に入ったが、当地の者達が挨拶に来て鬱陶(うっとう)しい。

 とはいえ足利家の当主として悪く思われるわけにはいかんので、応対はきちんとしておるがな。


 それにしても面倒だわ。

 兵達には刈田などは許さんと言うておるし、今のところは愚かな真似をしておらん。

 全くない訳ではないが、銭で賠償したのと首を渡したからな。

 目の前で斬り落としてやったので、流石に相手も矛を納めた。


 それに兵達もハッキリと分かったであろう、下らぬ事をすれば斬られると。

 特に黒金(くろかね)がやってくれたからな。

 本来は大将が自らやるのが望ましいのだが、オレがまだ忌明けもしておらぬというと皆が黙った。

 当然ながら、その後はオレにやれという者などおらぬ。


 それが当たり前なのだ。にも関わらず内管領(ないかんれい)め。

 ヤツには人心というものが無いのだ、あるのは獣心だけに違いあるまいよ。

 まともならば忌明けもしておらぬ者に出兵せよなどと言うはずが無い。

 そんな事は当たり前の事だ。


 ……それにしても尾張は米がよく育っておるようだな。既に刈り取りが終わった田であるがよく分かる。

 関東では米の育ちが西ほど良くない。代わりに麦などが盛んだが、それでもここまで育つと羨ましくもなろうもの。

 西は豊かだと言われるはずだ。


 まあ、尾張は日の本一の米所とも言われる国。

 ある意味では当然の事なのであろうがな。

 とはいえ当地の者に聞いたところ、川がよく溢れるらしいので、尾張には尾張の苦労があるのも事実か。

 誰しも楽ではない、そう聞くと少し安心する自分もおる。


 関東だけが苦労をしておるというのも業腹だからな。

 そうでないと知れて良かった。

 少々旅の気分ではあるが、しかして悪い事ではないのであろう。

 ささくれ立っていた心が洗われるようでもあるしな。


 しかしここが尾張だという事は、この後は美濃に行き、そして不破の関を越えて近江の国へ。

 そして西へと進んで、やっと山城の国か。

 遠いな、あまりに遠い。下らぬ事でもなければ、いちいち京の都になど来ぬというのに。

 まったく……。


 …

 ……

 ………


 今日は十月の二日だ。ようやっと京の都についたわ。

 大軍であるが故に移動するのに時間が掛かり、その所為で驚くほどに苦労をした。

 あまりにも遅いので仕方ないのだが、それぞれの所で挨拶を受けたりなど色々とした所為でもある。


 いい加減に疲れたが、さっさと京の都に入りたいものだ。

 しかし軍を入れるわけにもいかぬし、どこか泊めてもらえる所も探さねばならん。

 それにこの後どうするかも話し合わねばならんからな。

 あくまでもオレが大将なのだ。諸将と話して決めねばならん。


 「という事で話し合いをするのは構わんのだが、そもそもオレ達は関東の者。畿内の地など知らぬ。

 よってまずはそれを知らねばならんのだが……」


 「既に戦をしておりますし、とっくに後醍醐帝は捕縛されておるようです。

 どうも九月の二十八日に帝の篭もる笠置(かさぎ)山という山に火をつけたようで。

 そこで逃げ惑った帝を捕縛したそうですな」


 「そうなのか? だったらオレ達のやる事はないな。さっさと鎌倉に帰るか。

 時間の無駄でしかなかったようだが、命じた方々の責であろう。

 オレは知らん」


 「いえいえ、お待ちを。

 その後に帝の決起に同調した河内は千早赤坂の楠木と申す者が抵抗しております。

 赤坂城という所に篭もっておるのですが、これが落とせぬようで……」


 「しかしな。オレ達の役目は帝の捕縛であろう? それが終わっておる以上は、もう終わりでよいと思うぞ。

 その楠木と申す者など、そのうち勝てよう?

 手柄を奪われたなんだと言われとうないのでな、オレとしては帰りたいのだが……」


 「先程も申した通り、抵抗が激しく未だに落ちていませぬ。

 それにこの楠木と申す者、幾度も六波羅(ろくはら)の命を受けて悪党を討伐してきた戦上手。

 そうそうな事では勝てぬと思いまする」


 「そうか。ならさっさと行って終わらせよう。

 とはいえ、帝を捕縛して戻ってきた軍もおる。その者達の休息も必要なので、今すぐの進軍は無理だ。

 それにオレ達が連れて来た兵も数日は休ませねばならん。

 その間は移動も出来んが、それでよいか?」


 「ええ。こちらで必要な物は用意いたしましょう。

 なので揃ってからお願いします」


 六波羅(ろくはら)の者が来たので諸将と共に話を聞いたが、どうやら楠木という戦上手を何とかしてほしいみたいだな。

 というより、六波羅(ろくはら)の者達はその楠木を恐れておるらしい。

 己らで都合よく使ってきた者に牙を剥かれたからであろうが……。


 言い換えれば、奴らは楠木という者が如何(いか)に厄介か知っておるという事だ。

 だからオレ達を都合よく使おうと思ったのであろう。

 こやつらも内管領(ないかんれい)と変わらんな。

 オレからすれば同じ奴らにしか見えん。


 それはともかくとしてだ。

 数日休ませておる間に、どのように進むかの話し合いをせねばな。

 面倒だが、それだけは先に終わらせておかねば。

 後で黒金(くろかね)達と京の都に散策にも行けぬ。


 …

 ……

 ………


 とある寺の一室。

 ここに大仏(おさらぎ)貞直、金沢貞冬、オレと共に来た江間越前入道、そしてオレと仙太郎が揃った。

 黒金(くろかね)と桜は部屋の中の扉前に座っておる。

 護衛をしてくれておるし、実際に古兵が四体も出ておるからな。ありがたい。


 「さて、兵達は数日休ませるとして、我々は先に決めておかねばならぬ事を決めておこう。

 すなわち、楠木と申す者の城をどこから攻めるかだ。

 我らの軍を全て集めれば三十万ほどになる。

 これだけの大軍勢を一ヶ所に集めるは愚策だろう」


 「そうだな。それぞれに振り分けて進軍するが良かろう。

 わざわざ一塊にするなど奇襲してくれと言っておるのと変わらん。

 その城には千の兵で攻めさせておるのであろう? 無理攻めをしておらぬなら未だに残っておるはずだ。

 ならばその者達に今少し時間を稼いでもらえばよい」


 「……私は宇治から大和へと行く道で行こう。その方が行きやすい」


 「ならば私は石清水八幡宮から南進する形で進もう」


 「では私は山崎から淀川に沿って四天王寺へと出る道で進んでゆこう」


 「ではオレ達は伊賀路を西に行く道で進もう。

 これで四軍それぞれの道が決まった。後は兵を数日休ませてから出発するだけだな。

 これで軍議を終わろうか。後は現地で決めるべき事だ」


 「そうだな。我々は勝ったとはいえ笠置(かさぎ)山は要害で苦労をした。

 正直に言って少しゆっくりと休みたい」


 「ああ、本当に大変だったのだ。

 七万をもってしても、あそこまで粘られるとは思ってもいなかった。

 勝てて安堵したが、このまま勝てずに天下万民に恥を晒すかと思い不安であったわ」


 そんな事を言われてもな。文句なら内管領(ないかんれい)に言え。

 ……と思ったが、こやつらに決めたのは(さきの)執権様であったな。

 結局はあの方も内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)と変わらんという事か。


 他の者の事など考えず、己の欲をさらけ出すような醜き争いを繰り返す。

 朝廷がやっておる事を武士である鎌倉の者がやっておるなど、あまりにも愚かに過ぎよう。

 情けないとは思わんの、であろうな。だからこそ下らぬ争いをするのであろうし。


 もはや武士に(あら)ずと言うた方が良いのであろうな。

 (さきの)執権様も同じとは思うておらなんだが、あの方もしょせんは同じ穴の(むじな)

 オレが忠義を尽くす事は永劫に無かろう。


 それだけの事をしてくれたのだ、裏切りがあっても仕方あるまい?

 もちろん今すぐ裏切りはせぬが、(とど)めを刺せるのであれば裏切っても構わぬな。

 オレは足利家の事だけを考えればよい。


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