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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利高氏



 なぜオレがわざわざ京の都まで行って戦わねばならんのだ。いい加減にしてほしいわ。

 今は馬の背に乗ってゆるりと進んでおるが、黒金(くろかね)の出してくれた影兵ではないので休憩も多くとらねばならん。

 余計に面倒だが仕方あるまいな。


 オレだけでなく仙太郎も機嫌が良くないが、こんな事は当たり前だ。

 我が足利一族も機嫌の良い者などおらぬ。

 父上が亡くなった次の日に出陣など、あまりに足利家を舐め腐っておる。

 特に内管領(ないかんれい)、あやつは絶対に許さんからな。


 それと、今回の出陣にはなぜか黒金(くろかね)達がついてきた。

 特について来てくれとは言っていないのだが、正直に言って助かる。

 心がささくれ立ちそうになるが、黒金(くろかね)と話していると落ち着くのだ。

 そうでなければ今すぐ鎌倉に帰っているであろう。


 おっと、そろそろ休憩か。

 それにしても京の都は遠い。

 わざわざ行く気にもならんが、それでも命令だからな。仕方がない。


 「ふぅ………。まだまだ時間が掛かるな。京の都というのは本当に遠い。

 仕方がないとはいえ、ついた時には戦が終わっておるのではあるまいか?

 それならそれでオレの所為ではないがな。

 とりあえず終わっておったならすぐに帰るぞ」


 「まあ、構いませんけどね。

 実際、我が家は未だに喪中どころか忌明けすらしていないのです。

 何故にこんな事になったのやら」


 「仕方ないんだろうけど、本当に遠いね。

 僕は元々京の都に居たけど、源氏がこんなに遠いところから来ていたとは思わなかったよ。

 実際に自分で進むのは違うけど、こう長い移動は西に行った時以来じゃないかなぁ」


 「そういえば黒金(くろかね)が言っていた壇ノ浦って、西国にあるのよね。

 そこまで行った事があるというのは凄いわ。

 私なんてずっとあの山に居たから、外の事なんてあんまり知らないのよ。

 それで困った事も無かったし」


 「それはそうでしょう。動かずとも済むのなら、動く者は多くおりませんよ。

 実際に村の者なんて一生村の外に出ないのが当たり前だとか聞きますしね。

 年貢だって取りに行きますし、行商の者から買うぐらいだそうなので」


 「そういえば村の人って妖怪をどうしてるんだろう?

 昔はどうだったかなんて聞いた事が無いんだよねー。

 おそらくは陰陽師か修験者が居たんだと思うけど」


 「オレも詳しくなど知らんが、おそらくそんなところではないか?

 村とて妖怪は出るだろうし、戦えねば生きていけまい。

 もしくはそうやって移り住んだ陰陽師や修験者に習ったかだな。

 後はそれを教えていけば戦えよう」


 「ですね。実際に【霊波】は木刀だろうが(くわ)だろうが使えるので、そもそもは無理に太刀を持つ必要もありません。

 あれは人間というか賊とも戦えるように持っているに過ぎませんからね」


 「ならば短刀でもいいと思うのだが、何故か太刀を持ちたがるのだ。

 気持ちは分からんでもないが、下手くそが使っているのを見ると、何とも言えんようになる。

 あれらは本当に太刀を使う気があるのか、とな」


 「見栄えで持っていたり、相手を脅す意味で持っていたりしますからね。

 だから黒金(くろかね)に斬られるんですけど……」


 「それはね。脅しだとしても、抜いた以上は殺される覚悟があると見做すよ。

 当たり前だし、そもそもその気が無いなら抜くべきじゃないしね。

 抜いた時点で殺し合いは確実なんだから、それは殺されたって文句は言えない」


 「私も今ならば分かる。

 昔はなぜ簡単に殺すのだと思ったが、殺さねば自分が殺される以上は殺すのが当たり前なのだ。

 それが嫌なら太刀を抜くなというのは、本当に正しい。

 間違いなく抜いた者が悪いのだ」


 仙太郎も下らん賊に襲われた事もあるしな。

 ああいう輩は何を言ったところで聞きはせぬし、そうなれば後は殺し合いしかないのだ。

 誰も黙って殺される者などおらぬ以上は、どちらかが死ぬしかない。

 太刀を抜くとは、そういう殺し合いを始める合図でもある。


 たとえその事を知らなかったとしても許される事などない。

 だからこそ父上も安易に太刀を抜くなと言われたのだ。

 知らぬという事は、それだけで殺されるかもしれんという事でもある。

 だからこそ多くを知らねばならん。


 「さて、休憩も終わりだし、そろそろ進むか。

 出来ればオレがついた時には終わっておってくれるとありがたいのだがな。

 どうなるのやら」


 「どうでしょう。確かについた時に終わっておればどうにもなりません。

 それなら血の穢れを浴びる事なく帰れるでしょう。

 どうなるかまでは分かりませんが」


 「僕が始末するから大丈夫じゃない? もしくは他の人達に任せればいいよ。

 活躍の場を作らないと五月蠅いだろうし、義観さんの事を言えばいい。

 そしたら誰も「前に出ろ」とは言わないでしょ」


 「そうだな。手柄をやると言えば問題あるまい。

 それじゃ、出発だ」


 そう考えると気が楽だな。

 オレも元々前に出る気は無かったが、他の者達に譲ってやればいい。

 大将とはそういう者であるし、目立つと鬱陶(うっとう)しいかもしれん。

 黒金(くろかね)から聞いた義経公の話もある。

 大人しくしているのが一番だな。今は。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:楠木正成



 鎌倉の者どもが攻めてきておるが、数が少なく大した相手ですらない。

 赤坂城に(ほどこ)した罠は何一つとして使っておらん。

 それが退屈ではあるものの、使わなくてもよいならば、それに越した事は無い。

 それに笠置(かさぎ)山がどうなるか分からんからな。


 「兄者、それにしても敵が弱いうえに然して攻めてもこんぞ。つまらんと言う気はないが、ワザとか?」


 「とりあえずで攻めておるだけであろう。

 もしくはこちらの矢を減らさせる為にやっておるのだと思うぞ」


 「すでにそれは分かっていて、弓隊も狙って撃つようになっております。

 なので然したる意味も無いと思いますが……」


 「そんな事は知らん。そもそも敵さんに聞かねば分かるまいよ、本当のところはな。

 ただ、今のところは散発的な攻撃しかない。それは楽ではあるが、こちらの油断を誘う為かもしれんからの。

 隙だけは見せぬようにせよ」


 「流石にそこまで愚かな者はおらぬよ、兄者。

 そうでなければ、とっくに死んでおる。そうであろう?」


 「まあな。とはいえワシは言わねばならん。上に立つ者としてだ」


 「分かっておるさ」


 本当に分かっておればよいがな。

 それよりも、敵を引き付ける役目が全然できておらんのが何とも言えんわい。

 これは後で怒られるかもしれんのう。

 しかし敵には帝のおられる場所が笠置(かさぎ)山だとバレておるし、そうなるとこちらに大した兵など差し向けまい。


 困った事になっておるが、ワシらはワシらの出来る事をするしかあるまいな。

 まだ攻撃が始まって五日だ。

 今日は十九日であり、未だに鎌倉の軍が増えんという事は、帝の篭もられておる笠置(かさぎ)山は未だに落ちてはおらぬということ。

 これは善き事である。


 とはいえ、守ってばかりでは勝つ事など出来ぬ。

 だからこそ何かを始めるべきかとも思うが、我が城の兵は五百人ほど。

 これでは七万といわれる鎌倉にはとても勝てん。

 守るのは可能だが、攻めるのは無理であろう。


 奇襲ならば出来ん事も無いが、やったところで五百ではな。

 大した痛手も与えられん。

 ならば篭もるしかないのだが、笠置(かさぎ)山が落ちればこちらに来るのは必定。

 その時に七万を相手にどう戦うかだな。


 なるべく敵に痛打を与えねばならぬし、その結果が広がれば変わろう。

 とにかく反鎌倉の狼煙を挙げるにはどうすればよいか、その辺りをしっかり考えて戦わねばならん。


 ここで負けるのは構わんが、ワシは無意味に負ける気は無いぞ。

 必ずや鎌倉の者どもを打ち倒してみせようぞ。


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