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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利高氏



 「本日より兵を率いて都に行けと、そう申されるのですか?」


 「そうだ。承久の乱において泰時公をお助けし、勝利に導いたのはそなたの祖、足利義氏である。

 その事になぞらえての出兵だ。これは執権様が御命じであられる事ぞ?」


 「それがしの父は一昨日亡くなったところでございます。

 喪どころか忌明けすらしておりませぬ。

 それでも、それがしに出兵せよと?」


 「この事は(さきの)執権様も認めておられる事ぞ! まさか拒否するのではあるまいな!!」


 「………かしこまりました。兵を率いて都に参ります」


 「ふんっ! 分かればよいのだ、分かれば。足利などその為に生かしておるだけぞ。

 さっさと行って潰してこい!!」


 「失礼いたしまする」


 父上はようも耐えられたものだ。このような姿こそが内管領(ないかんれい)の真の姿だとは。

 それに……(さきの)執権様もしょせんは変わらんか。

 己の子を執権にする為に蠢動(しゅんどう)しておられるようであるしな。


 もはや鎌倉など沈めばよいのではなかろうか。

 申し訳ないが、オレは父上ほど執権家を信じてもおらぬぞ。

 それに当主であった父上が亡くなったのだ。

 そのオレに対して出陣せよとは、碌なものではない。


 …

 ……

 ………


 屋敷に戻ったオレは家族を集め、内管領(ないかんれい)から命じられた事を皆に伝える。

 すると、皆もあり得ぬとして驚く。

 それはそうであろう、当主であり父が亡くなったのだ。

 少なくとも喪中に戦に出ろなどというのはおかしい。守るのでもない戦だぞ。


 「喪が明けぬどころか、忌明けすらしておらぬのに都に兵を率いて行けとは……。

 執権様の命とはいえ、いったい何を考えておられるのか」


 「足利など戦の為に生かしておるだけの家なのだとさ。

 もちろん言うておったのは内管領(ないかんれい)だが、(さきの)執権様も同じだそうだ。

 いい加減、呆れてくるわ。誰があのような者どもに忠義を尽くすというのやら」


 「兄上」


 「分かっておる。さりとて、ここには身内しかおらん。

 父上が亡くなったのは一昨日だぞ? そして今日呼び出され戦に行ってこいだ。

 あまりにもふざけすぎておろう。信じられんわ」


 「喪って確か一年だよね? で、忌明けっていうのが四十九日。

 そして義観さんの葬儀が昨日で亡くなったのが一昨日。

 あまりにも早すぎるね」


 「そうねえ。

 なんというか、そこまでしても勝たなければいけないんでしょうけど、言い方とか色々が悪すぎるわ。

 あまりにもあまりじゃない? 妖怪の私でもそう思うわよ」


 「流石に私でさえどうかと思います。戦の為だけに生かしているとは……。

 内管領(ないかんれい)は驕りに驕っているようですね。

 我が赤橋家はそうでもないと思っていたのですが……」


 「それはともかくとして、戦に出るのであれば準備をするしかありませんね。

 しかも急がねばならぬのでしょう? どうやら喪中の者を大将にしてでも勝ちたいようですから」


 金沢の方も声に険が混じっているな。当たり前だが、父上に砂を掛けられたようなものだ。

 しかも、あの物言い。完全に我が足利家を見下しておるのだからな。あのような言葉を許すはずも無し。

 当たり前だが俺も許さん。父上と我が足利家に対する侮辱、絶対に忘れんぞ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:楠木正成



 ワシが帝の決起に賛同して挙兵したまでは良かった。

 そして大塔宮様が我が赤坂城に来られたのも良い。

 しかしながら、鎌倉の軍がこちらに来ておるだと!?

 確か数は七万とか言うておらなんだか? そうそう簡単に勝てる兵の数ではないぞ。


 「楠木よ、大丈夫か?

 (しら)せを持って来た者によれば、笠置(かさぎ)山の帝は無事かどうかも分からぬという。

 おそらくは無事だと思うが、鎌倉の者どもがこちらに来る事は間違いあるまい」


 「大丈夫かどうかは分かりませぬ、さりとてやれるだけの事はすべてやる所存。

 その為に様々な罠を作りてきましたので。……やれるな?」


 「「「「「はっ!」」」」」


 ワシが声を掛けると、弟や息子達が気合十分の顔をしながら示す。

 それはよいのだが、七万は簡単ではないぞ。最悪は逃げる事を考えておかねばならんな。

 もちろん七万の全てをこちらに向けてくる事はあるまいが。

 命さえあれば幾らでもやり直せる。だからこそ逃げねばならん、確実に。


 「先に申しておきたい事があるまする」


 「なんじゃ?」


 「もし勝てぬとなれば、それがしは一目散に逃げまする。その時は大塔宮様も共にお逃げくだされ。

 命があれば負けてはおりませぬ、ならば勝つまで戦えばよいだけのこと。

 そのように思うて共にお逃げくだされ」


 「……相分かった。勝つまで逃げればよいだけか。

 ふふふ、確かにそなたの申す通りであるな」


 「お前達もだ。

 むやみに命を散らすでないぞ、そのような事をするぐらいであればさっさと逃げろ。

 逃げても恥ではない、負けて終わるのが恥なのだ。

 己で勝てぬのであれば子や孫に託せ。勝つまでな」


 「「「「「はっ!」」」」」


 うむ。ここまで言うておけば、城を枕に討ち死になどせぬであろう。

 七万の相手に勝つのは流石に無理じゃ。さりとて、守り続ければまた変わろう。

 日の本全土で反鎌倉の狼煙(のろし)が上がれば、敵の兵数も変わる。

 そうなれば……


 …

 ……

 ………


 「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」


 「おーおー、来おったのう。

 それにしても少ない数だが……兄者、本隊は笠置(かさぎ)山か?」


 「で、あろうよ。帝がおられるのが笠置(かさぎ)山だ。

 その笠置(かさぎ)山を差し置いてワシの方に全軍を持ってくるなどあり得ん。

 我が楠木は然程(さほど)に有名ではないからの」


 「またまた。父上、我らは六波羅(ろくはら)の求めで何度も悪党を討伐してきたのですぞ?

 我ら楠木一党より有名な者など、さしておりますまい。もちろん居ないわけではありませんが」


 「そうそう。「鎌倉軍など恐るるに足らず、蹴散らしてくれようぞ」と言えばいいでしょうに」


 「そうやって相手を舐めておると足を掬われるぞ。少数の敵とて舐めてよいわけがあるまい。

 何より少数の敵と言いながら、我らよりは多いのだしな。

 それに笠置(かさぎ)山も気になる」


 「戦の方は上手くいっていると聞きますぞ?

 鎌倉は要害たる笠置(かさぎ)山を攻めあぐねておるらしいですしな。

 このまま守りに徹すれば、鎌倉は撤退せざるを得ますまい。

 何より七万もの兵の兵糧がいつまでもあるとは思えませぬ」


 「それは分かっておるが、そんな事は鎌倉とて分かっておるはずだ。

 総掛かりで攻められれば、幾ら要害といっても持たぬ。それに総掛かりが一番怖い。

 七万もの兵があるならば小細工など要らぬのだからな。一度で叩き潰してしまえばよい」


 「しかし鎌倉はそれをしておりませぬが……」


 「それはせぬであろう。最初からの総掛かりは行いたくても行えぬ。

 何故なら手柄を寄越せという愚か者がおるからな。

 戦に勝つ事よりも、己が手柄を挙げる事を望む者がおる以上は難しいのだ。

 結局はそれぞれの者に攻めさせるしかない」


 「そうしてみれば、守りが堅くて突破できぬと」


 「そういう事であろうな。

 おっと、弓矢だけで敵が退いたのう。向こうも無理攻めなどしたくないのであろう。

 これならば十分戦えるな。これなら」


 兵が増えればこの先どうなるかは分からん。

 まだ九月の十四日。笠置(かさぎ)山攻めは二日からと聞いておるから、本当にこれからじゃな。

 果たしてどこまで耐えられるのやら……

 とはいえ踏ん張るしかあるまいな。


 帝に呼応して挙兵した以上は、戦うしか道は無い。


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