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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:大仏(おさらぎ)貞直



 私の思った通り、風は夕方になっても止むような事はなく、それどころか少し雨が混じるようになった。

 しかし少しの雨でしかないので、そこまで大きな影響は受けまい。

 ようやくだ、待ちに待った反撃の時がようやく訪れる。

 随分と待たされたが、それも今日で終わりだ。


 「皆の者、軍議に集まってもらってかたじけない。

 しかし諸将の腹に溜まったものを、ようやくぶつける時が来た。

 この風は夜になっても止む事はあるまい。我らは夜になったら笠置(かさぎ)山に火をつける。

 幾ら要害の笠置(かさぎ)山とて、今の時季に火が回ればよく燃えよう。

 後は諸将の奮戦のみである」


 「火をつけるのか? 笠置(かさぎ)山の上には帝がおられるのだぞ」


 「大丈夫だ。そもそもそこに火が回る前に帝は逃げられる。そこを捕縛すればよいだけだ。

 何より周りの者が逃がすであろう。そこを確実にこちらが捕らえる。

 それに要害たる笠置(かさぎ)山から出さえすれば、後は簡単に勝つ事が出来るのだ。

 あそこに篭もられる事だけが厄介なのだからな」


 「それはまあ、そうであろう。ワシはこの策に賛成じゃ。

 さっさと終わらせて帰りたいからの」


 「ワシも賛成だ。いい加減この戦も終わりにさせてもらいたい。

 兵のやる気も既に無いし、ワシらとてやる気も無くなっておる。

 ここで一気に終わらせてしまうべきであろう。

 ついでに今までの鬱憤(うっぷん)を叩きつけてくれるわ」


 「そうだ。どうせ火をつけられれば、奴らは篭もる事が出来ん。

 出てきたところを皆殺しにしてくれようぞ。今までの全てを叩き返すようにのう!」


 皆も口々にやる気のある言葉を言い出した。

 どうやら今までの鬱憤(うっぷん)を叩きつけられるというのが嬉しいみたいだな。私にとっては何でもいい。

 ここで勝利し、戦を終わらせられれば何でもいいのだ。

 それでは準備をしてもらおうか。火攻めの準備をな。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:千種(ちぐさ)忠顕



 今日も無事に鎌倉を叩き返せたので、やれやれというところだ。

 諸将の間では、ワシは勇なき者と言われておるようだ。むしろワシを大将から下ろそうという気配すらある。

 まあ、下ろすなら好きにすればよい。そうなればワシは堂々と山を下りる。

 このような奴らと付き合いきれるか。


 ヒュー、ヒュゥー……


 風が強い日だ。雨も多少降っておるので、寝にくくて仕方がない。

 しかしそれでも眠らねばならぬ。大将は未だワシなのだ。

 眠れず頭が碌に動かぬので勝てませんでは、天下に恥を晒してしまうわ。

 そうなるくらいなら眠って英気を養わねば。


 ヒュー、ヒュゥー……


 それにしても五月蠅い風じゃのう。寝るに寝れんではないか。雨も降っておるのが余計に腹立たしい。

 眠りの邪魔をされても困るのだがな。強いて言うのであれば、敵も眠りにくいという事か。

 明日は然したる攻撃もあるまい。眠れぬではまともに戦えんからな。


 ヒュー、ヒュゥー………敵襲だー!!


 「!?」


 なに!? 敵襲じゃと! そんなバカな、このような風の強い……風の強いだと!? しまった、もしや火攻めか!?


 ワシは天幕の外に出ると、敵を調べられるところに出て様子を見る。

 すると明かりがポツポツと見えたので間違いない。

 奴らこの風を利用して火攻めをしてこようとしておる!

 このままでは笠置(かさぎ)山に火が回って戦いどころではなくなってしまうぞ。


 焼けた山など丸裸にしかならん。それでは今までのように戦う事など出来んのだからな。

 確実に敵が攻めてくるが、厄介な状況だ。特に闇に乗じて攻めて来られると防ぐのが難しい。


 ここは帝の御身を守る為に、すぐにも逃げる事を具申せねば。

 とにかく急ぐしかあるまいな。このままでは負けて終わりだ。


 …

 ……

 ………


 「すぐにお逃げの準備を! 敵は笠置(かさぎ)山に火をつけておりまする。

 このまま火攻めにされれば逃げるところがありませぬ。

 まだ火が回っていない今の内に逃げねば、捕まるしかなくなりまする」


 「そ、そうじゃの。逃げねばなるまい。

 それにしても千種(ちぐさ)の申した通りになったのう。

 重ね重ね、そなたの申す事を正しく聞いておれば良かったと思うわ」


 「それは今言っても詮無き事でございますれば、今は楠木の城である赤坂城までお逃げを!」


 「うむ。急ぐぞ、逃げねばならぬ」


 「「「「「ははっ!」」」」」


 ワシはしょせん武士でしかないからな。帝と共に逃げる事は出来ぬ。

 せめて少しでも敵を蹴散らして、帝が逃げる時を稼がねば。

 既に逃げる際の場所は決めてある。後はそこに先回りして敵兵を倒すのみよ。

 それでは行くか。


 手勢を連れて決めてあった逃げ道に居る鎌倉の兵を倒す。

 ワシも逃げねばならんので仕方がないが、帝は無事に逃げられたであろうか?

 っと、今は己の事を優先せねばならん。帝の御身は側近の方々が守っておられよう。

 そう信じるしかないな。


 「ふんっ!!」


 「ぐぁっ!?」


 まだまだ甘いわ。このような夜中に長い槍を持って山に登るなど阿呆か。

 木々を上手く使われれば槍など邪魔にしかならんのだ。素早く近づいて脇差で突く方がよっぽど早い。

 しょせんは戦も知らん者どもか。


 「そなた名のある者であろう。ワシは京の都はきぶぉ!?」


 「阿呆か。長々と喚いておる暇があるなら、さっさと殺せ。目の前におるのは敵ぞ」


 何を考えておるのか知らぬが、源平の頃ではないのだ。

 わざわざ名を名乗りあう事などするわけがなかろう。

 元寇の時に左様なしきたりなど無くなっておるわ。愚か者め。

 とはいえ、そんな愚か者であった御蔭で助かっておるのだがな。


 それはそうと、このまま行けば笠置(かさぎ)山から出られそうだの。

 今のうちに赤坂城まで行かねばならぬ。

 帝が行かれる以上はワシも行かねばならぬからな。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:金沢(かねさわ)貞冬



 「行け行け行け行け行けーーーーっ!!

 笠置(かさぎ)山に篭もる愚か者どもを纏めて始末するのだーーー!!!」


 帝の事は大仏(おさらぎ)が何とか致すであろう。それよりも私は敵を倒した手柄をとらねばならん。

 このままでは何の役にも立たなんだと(さきの)執権様に報告をされてしまう。そんな事になれば終わりだ。

 そうなる前に確実に手柄を挙げておく必要がある。


 兵を率いて奮戦したとなれば、流石にお怒りにはなられまい。

 まさか軍を発したにも関わらず、ここまで苦戦するとは思わなんだわ。こちらは七万で攻めておるのだぞ。

 にも関わらず今日は九月の二十八日。ここまで何も出来ずに攻めあぐねるとは思わなんだ。


 武士として恥でもあるが、それ以上に色々とマズい。

 唯でさえ鎌倉の名が落ちているかもしれぬ時に、このような事になるとは。鎌倉の名が落ちた責すら私の所為にされかねん。

 特に内管領(ないかんれい)の長崎は何をしてくるか分からん。家の為にも手柄を立てておかねば。


 「行け行け行け行け行けーーーー!!! 向こうは混乱して戦どころではないぞーー!!

 今ならば武功の取り放題である!! 行け行け行け行け行け行けーーーっ!!!」


 とにかくひたすら声を上げて攻めさせねば。

 もはや総掛かりと変わらぬが、それでも勝てば良いのだ。

 負けるよりは遥かに良いし、勝ったのであれば文句も言えまい。

 せめて家に迷惑が掛からぬようにせねば。


 私が家を傾けた者などと言われとうないからな。

 何がなんでも手柄と言える物を手にせねばならん。何としてもだ。

 その為にも攻めて攻めて攻めねばならんのだ。


 我が家の為にも頼むぞ、兵ども。


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