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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 千寿王が産まれてから、もう七ヶ月が過ぎた。

 今日は元徳三年の一月二十九日だ。

 少し前にまさかの事が起きた。

 それは先代の執権が、内管領(ないかんれい)である長崎高資(たかすけ)を殺そうとしたらしいんだ。


 先代の執権はその事を否定していて、自分はそんな事を考えていないと言ったらしい。

 とはいえ、相当に執権と内管領(ないかんれい)の間は悪くなった。

 元々からして好き勝手をしていたから良くないんだけど、一段と悪くなってしまったみたい。


 「流石に内管領(ないかんれい)も命を狙われたとなれば話は別じゃろう。

 ゴホッ! ゴホッ!」


 「大丈夫ですか、父上? 今年になってから、少し元気がありませぬが……」


 「まあ、ワシもいい歳なのは間違いない。

 いつ死ぬかは分からんからの、そなたも継ぐ用意はしておけ。

 まだまだ死ぬ気は無いが、その時がいつ訪れるかは分からんからの」


 「………分かりました。

 とはいえ父上が亡くなるまでは父上が当主をお続けくだされ。

 それがしは、それからで良いので」


 「そうか……分かった。

 ならば最後までワシが務めさせてもらうかの。

 それはともかく、(さきの)執権様が関わっていないとしても、側近連中がやろうとしたのは間違いあるまい。

 (さきの)執権様に何もなくとも、側近連中には何かあろう」


 「でしょうね。流石に内管領(ないかんれい)としても何かしなければ示しがつきませぬ。

 黒金(くろかね)ではありませぬが、舐められたら負けなのは変わりませぬので」


 「じゃの。殺すという事は無くとも、配流というのは十分にあり得る話じゃ。

 側近が居なくなれば、また(さきの)執権様の力は落ちる。

 今の執権様の力も強くはないからの、内管領(ないかんれい)は嫡流を変える気かもしれん。

 自分の操りやすい者にの」


 「我が金沢北条家ですか……。

 内管領(ないかんれい)に都合よく使われる事を望むなどないと思うのですが、嫡流になれると(ささや)かれると乗りかねないのが何とも……」


 「赤橋家が嫡流じゃが、庶流も嫡流になれる機会を狙っておるからのう。

 決して嫡流が変わるという事が無いわけではない。

 嫌な事ではあるが、起こり得ると考えておかねばならん。

 でなければ、我が足利家の権勢も傾きかねんでな」


 「家を保つというのは大変ですね。改めてそう思います」


 「それこそが祖先が続けてきた事であり、そなたらが継ぐ事だ。

 足利の家を盛り立てよ、とまでは言わぬが、落ちぬようにせよ。

 我が足利家は北条家の次の家格の家じゃ。

 これ以上は上がないと言っていい。

 それ故に有象無象に落とされる事があってはならん。

 よいな?」


 「「はっ!」」



 義観さんはちょっと体調が良くないようだ。

 でも僕には神様の眼があり、そろそろ義観さんが死ぬ事は分かっている。

 もちろん誰にも言わないけどね。

 言ったところで意味ないし、そこまで()えるというのも問題だ。


 実際には()えるというより、神様が教えてくれるのが正しいんだけどさ。

 それでも人の死ぬ時期が分かるというのは駄目だよ。

 神様から聞かされたところで、僕は表に出す気は一切ない。

 人の死ぬ時期が分かるなんてのは絶対に駄目。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は元徳三年の五月三日だ。

 なんと、とんでもない(しら)せが鎌倉に(もたら)された。

 それは後醍醐帝が本当に鎌倉を滅ぼそうとしているという事だ。

 どうやら、とうとう本当の事になってしまったらしい。

 もしかしたらと思ってたけど、本当にやるとはね。


 「この一報を受けて、今回はすぐに追討使を派遣する事を決めたらしい。

 決まったのは長崎高貞(たかさだ)じゃの。

 とりあえず京の都に行って調べるらしいが、今回も六波羅(ろくはら)への密告じゃからのう」


 「それでは前と同じく信用できないのでは? 挙句に六波羅(ろくはら)が勝手な事をしているやもしれません。

 むしろ軽々に動くなと言わねばならないと思います」


 「それがのう……今回は六波羅(ろくはら)に密告した人が人なんじゃよ。

 帝の側近である吉田定房からの密告なのだ。

 帝の側近からの密告では、流石に前と同じには考えられん。

 そうじゃろう?」


 「帝の側近がですか……。

 朝廷内、ではありませんね。

 幾らなんでも帝の側近が帝を(おとしい)れるような讒言(ざんげん)は致さぬでしょう。

 という事は……」


 「おそらくは間違いないじゃろうな。

 前回の事が余程に腹に据えかねられたのであろう。

 実際、文の内容は激怒しておられる御言葉からであった。

 なにせ<逆鱗以て甚だし>じゃからの」


 「そこまでの怒りが、帝の反鎌倉の原因という事ですか。

 だとすれば六波羅(ろくはら)内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)の所為ではありませんか。

 本当に碌な事をしませんね」


 「今更それを言っても詮無き事ではあるが、しかし後から見れば痛恨事であった事は間違いない。

 帝が反鎌倉を言われるなど、日の本が割れる大戦になる恐れすらあるのだ。

 その原因を作り出してしもうたのだからの」


 それを聞いた皆が溜息を吐くが、それも仕方がないだろう。

 鎌倉の不手際で帝が反鎌倉になるとか、笑い話にもならないよ。

 まったく。


 まだ本当にそうかは決まってないけど、今回は流石に事実だろうなと僕も思う。

 前回の事を有耶無耶にしたのが失敗だろうね。

 帝は真の下手人を見つけろと言ってきてたんだし、それをしなかったのは鎌倉だ。


 もちろん<大覚寺統嫡流>や<自明院統>で間違いないと僕も思う。

 しかし今度はそれらを処罰できるのかって話になるんだ。

 朝廷の偉い連中は処罰するのが難しい。

 特に面倒な事になりかねないから、及び腰になったのも分かる。

 僕だって同じ立場なら御免被ると言いたいだろうしね。


 というか、最初はどっちかが後醍醐帝を潰そうとしたんだろうけど、それに対して鎌倉を利用して逆に両者を潰そうとしたんじゃない? 後醍醐帝は。

 もしそうだとしたら、<大覚寺統庶流>も<大覚寺統嫡流>も<自明院統>も変わらないとしか思わないよ。


 迷惑だから揉め事は朝廷の中だけでやってよとしか思わないね。

 正直に言って鎌倉に持ってこられても困るんだよ、あそこの争いなんてさ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は六月の二十三日。

 京の都で後醍醐帝が鎌倉を倒そうとしている話だけど、未だに続報が聞こえてこない。

 京の都に行った連中は取り調べをしてるんだろうけど、ここまで続報が無いとまた讒言(ざんげん)だったんじゃないかという気がしてくる。


 それとも取り調べがなかなか上手くいかないんだろうか?

 朝廷や公卿に公家が相手だと面倒くさそうだし、簡単にはいかない気がするもんね。

 あいつらの相手なんてしたくないし、なら時間が掛かっても仕方ないか。


 「相変わらずだが、黒金(くろかね)の公卿や公家に対する言葉は容赦がないな。

 そういう方々なのであろうし、そうでなければ生き残れぬのであろうが……」


 「仕方あるまい。

 我ら武士でさえおらぬ世から生きておられる家だ、我らの事など成り上がり者としか思われていまい。

 なればこそ、そのように嫌われるのであろう」


 「公卿や公家は武士を嫌っており、だから武士も嫌うという事ですか。

 分からぬではありませんが、それって争いを止めぬ野蛮な者としか思えません。

 それを分かっておられぬのでしょうか?」


 「我々は別。そのようなところではないか?

 下々の者は言う事を聞いて当然、我らのやる事に口を出すな。そんなところであろうよ。

 下らぬとしか思えんがな」


 誰がやっても同じであり、野蛮な事は野蛮な事なんだけどね。

 公卿や公家は頭がおかしいから、そんな事も分からないんじゃないかな?


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