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Side:黒金
あれから更に一月半ぐらい過ぎた。今日は八月の十三日。
またもや朝廷は元号を変えると言い出したらしく、次の元号は元弘なんだってさ。
でも、その改元を鎌倉は受け入れないと言っている。
理由は後醍醐帝が反鎌倉を掲げた元号かもしれないからだ。
当然ながら鎌倉は認めないとしているし、どうも<自明院統>もこれを認めないと言っているらしい。
何故なら元号を改める理由が無いからだそうだ。
災害とか病気が蔓延したり、あるいは院や帝が亡くなったりすると変えるらしいんだけど、今はどれも無いって聞いた。
だから改元する正当な理由が無い。
それが鎌倉と<自明院統>の言い分なんだって。
僕からしたら面倒な元号が変わらない方がありがたいから、変えないでいいと思うよ。
正直に言ってころころと変わりすぎなんだ。
いい加減にしろと言いたい。
元号を気持ち一つでほいほい変えるんじゃないっての、まったく。
分かり難くて仕方ない。
今の元号を百年ぐらい続けてから次に変えるべきだ。
いちいち日の本中に報せなきゃいけないらしいしさ。
そんな無駄な事をなぜするのやら。
そんな事をしても良くならないなんて、昔から変わらないのにね。
なぜ未だにこんな事をするんだか。
ま、いいや。考えても無駄だから止めよう。
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今日は八月の二十九日。
なんと京の都で調べていた長崎高貞らは、嫌疑が濃厚となった為に御所を六波羅の軍勢で包囲したらしい。
その事までは良かったんだけど、後醍醐帝には逃げられたんだそうだ。
その際に後醍醐帝は女性の着物を着ていたらしく、六波羅はその事に気づかなかったんだって。
やっている事が以仁王と同じなんだけど分かってるのかな?
既に知らない可能性もありそう。
それはともかくとして、後醍醐帝はどこに行ったか分からないらしい。
なんだかまた六波羅が失敗した気がするなぁ。
こいつら何回失敗すれば気が済むんだろうね、本当。
これに対して先代の執権は、一族の大仏貞直と金沢貞冬の二人を派遣。
後醍醐帝を捕縛するようにと言っていたらしい。
流石に殺すのはね、憚られるようだ。
源平の頃にもさっさと殺さないからだって事があったけど、今回も同じ結果になるかも。
と、何となく思った。
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…………今日は九月の六日。
義観さんが倒れ、そのまま起きる事もなく亡くなった。五十九歳だったらしい。
流石に若いと思うんだけど、ここ最近体調がすぐれない事が多かったんだ。
しかし倒れたらそのまま逝くとは思わなかったな。
今は喪主として又太郎がすべてを仕切っているけど、仙太郎も協力して二人で葬儀を行うらしい。
まだまだこれからだと思っていたけど、やっぱり神様の言う通りに亡くなってしまったか。
僕も手伝える事は手伝い、色々とやっている。
とはいえ屋敷の中は重苦しいし、そんな雰囲気になってしまうのは仕方ないと思う。
実際、当主が亡くなったんだから当たり前だけど、義観さんの当主が長かったからだろうね。
その分だけ信頼されていたし、尊敬もされていた。
それを又太郎が継がなきゃいけない。
果たして出来るんだろうか? っていう不安もあるんだろうと思う。
とはいえ当主を継いだばかりって上手くいくはずも無いし、まだまだこれからだと思うけどね。
色々な思い出が出てくるけど、それらは仕舞ってしまおう。
思い出しても辛いだけだし。
それよりも足利家が上手くいくように、僕も多少は協力するかな。
その方が義観さんも喜ぶだろう。
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Side:後醍醐帝側の武士
帝が鎌倉を滅ぼされるとの事で駆け付けたが、挙兵を笠置山でされるとは思わなんだ。
様々な方を介して帝に合力いたす事はお伝えしたが、これでは些か以上に兵が足りぬ。
少なくとも鎌倉は数万という兵を用意するであろう。
我らがかき集められたのは三千というところか。とてもではないが戦えん。
どうするべきであろうかな?
「千種殿、千種殿はおられるか!
帝がお呼びであらせられる、すぐに参じよ!!」
どうやら帝はワシをお呼びのようだ。
しかしな……この兵の少なさを何とか致せと言われても困るぞ。
ワシのところの兵とて多くはないのだ。
何故にもっと練ってから決起されなかったのであろうか。明らかに早すぎる。
「千種、罷り越しましてございまする」
「おお、千種か! よう来た!
そなたが頼りじゃ、にっくき鎌倉の者どもめを打ち倒すぞ」
「その事でございまするが……」
「なんじゃ、ここまで来て尻込みしたなどと申すまいな?」
「いえ、左様な事はございませぬ。しかし、おそらくは勝てぬかと存じまする。
笠置山は確かに要害。さりとて多数で攻めればいつかは落ちます、これは致し方なきこと。
なればこそ、二の矢を用意せねばなりますまい」
「ほう、二の矢な。それはいったいなんじゃ?」
「もし笠置山が落ちそうになれば、楠木の赤坂城に篭もるべきでございます。
あそこは城でございますれば、篭城の準備も出来ておりましょう」
「ふむ、篭城か……。勝つ事は出来ぬと?」
「決起が早うございました。こちらは集められても三千でございまする。
しかし鎌倉は万の兵を集めましょうから、兵の数に差がありすぎるのでございます。
これでは如何に戦をしようと勝つ事は無理でございましょう。
勝てるとしたら奇襲ですが、こちらは篭もる側でございますので……」
「奇襲はされる側という事か。
もちろん全く出来ぬわけではなかろうが、明らかに不利じゃの。
しかし六波羅めが御所を取り囲みおってな、もはや決起致すしかなかったのだ」
「なんと、そのような事があったのでございますか。なればこの兵数で戦をするしかありませぬな。
しかし……やはり帝の御身に何かあっては困りまする。
已むを得ぬ時には、どうか赤坂城までお退きをお願い致します」
「相分かった。千種がそう申すのであれば、その方が良いのであろう。
もしもの時は頼むぞ」
「はっ!」
その後、ワシは帝の御前を辞したが……この兵ではとても勝てん。
鎌倉に不満を持っておる者は多い。だが、それで負けたら一族に迷惑が掛かる。
故にそうそう立ち上がる者は多くないのだ。
それ故に時を掛けねばならなかったのだが、仕方ない。
今更な事を言うても取り返しはつかぬし、ここで戦えるだけ戦うしかあるまいな。
最悪の際には帝にはお逃げ頂かねばならん。
鎌倉に勝つ好機を逃すわけにはいかんのだ。
そろそろ日の本の中心を東から京に戻さねばならん。
いつまでも東国の者に従って堪るか。
…
……
………
まさか鎌倉が七万もの軍勢を集めるとは思わなんだ。
ここまで兵数に差があると、どうにもならんぞ。
どれだけの策を練ったところで、兵の数の差は絶対なのだ。
そうそう簡単に覆ったりせんからこそ、皆が大軍を用意するのだからな。
こちらは要害に篭もっておるからこそ、なんとか戦えておるが……。
いずれ万策尽きる時が来る。
その時が来る前に帝にはお逃げいただかねばならん。
赤坂城では楠木が様々な備えをいたしておるであろうが、果たして間に合うか否か。
「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」」」」」
またも鎌倉方が攻めてきたか。
向こうは途切れる事なく攻められるが、こちらの兵数は少ないので交代がすぐに来る。
それが厳しい。
このままこれが続くと、戦えぬようになってしまうな。
落ちる前に兵が降りかねん。
やはり決起には早すぎたのだ。




