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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 今日は元徳二年の二月十一日。

 実は子供が出来ているんじゃないかと言われていた赤橋の方だけど、昨日正式に産婆が子供が出来ていると認めたようだ。

 出来ていると思って出来ていなかったら問題だから、慎重に判断していたらしい。


 しかし明らかにお腹が大きいので、これは間違いなく子供が出来ているという事で決まった。

 ここまで時間が掛かったのは、間違えていたら首を斬るような武士が居るからだ。

 その所為で早くに伝えるのは難しいみたい。

 余程に確信できないと判断できないよね、殺されるんじゃ。


 「そんな事はせんのだがな。

 しかし愚かな者がおる所為で、オレ達までがそう思われる。

 まったく困ったものだ」


 「兄上、赤橋の方。おめでとうございます。

 ようやく第一子ですが、男子(おのこ)だといいですね」


 「ありがとう仙太郎殿。

 それにしても苦労をいたしました。

 搾り取っているにも関わらず、なかなか出来ぬのです。

 私に問題があるのかと悩む事も多かったのですが、肩の荷が下りたような気がしますよ」


 「おめでとうじゃが、ようやっと第一子じゃ。

 めでたい席で言いたくはないが、そろそろ落ち着くのじゃぞ。又太郎」


 「父上。祝いの席でそれは止めてくれ」


 「「「「「ははははははは………!」」」」」


 又太郎は二度もやってきたからね、信用が無いんだよ。

 それは仕方がないし、赤橋の方に子供が出来たらまた……と、義観さんが心配しても仕方がないだろうに。

 それ程の事をやってきたんだと自覚しなよ。


 おめでたい事だから、振る舞い酒とか色々とあって大変らしい。

 なので僕達は邪魔にならないように狩りにでも行っていようかな?

 子供が出来ているなら、良い物というか縁起の良い物を食べた方がいいだろうしね。


 斯明(かくめい)の家だと、僕が市場に行って色々と縁起が良いってヤツを買ってきたり、山に行って鳥を獲ってきたりとしてたんだ。

 (つや)葛葉(くずは)もモリモリ食べてたから、吐くって事はなかったね。


 他の妊婦は吐いたりとか大変だと聞いて斯明(かくめい)がオロオロしていたのを覚えてる。

 あの時は(つや)葛葉(くずは)と笑ったっけ。

 どっちが妊娠しているのか分からないって。


 あの時と同じように鳥でも獲りにいこうっと。

 どうやら桜も行くようだし、妖怪退治もしながら適当に狩ればいいだろう。

 猛兵でも桜でも問題なく狩れるから、鳥を手に入れるのは特に難しくない。

 僕達はね。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は六月十八日。ついに赤橋の方が産気づいた。

 又太郎は異常なほどにオロオロしていて、仙太郎は目を閉じて瞑想をしている。

 ように見えるけど、さっきから指が(せわ)しなく動いている。

 この兄弟は態度が違うものの、動揺しているところは変わらない。


 こういう部分を見ると、やっぱり二人は兄弟なんだなと思うよ。

 いつもは似てないなと思うのに、こういう時は本当によく似てる。

 そしてそれを見て呆れている義観さん。

 特に又太郎に呆れているらしい。


 「越前の方が産んだ時もそなたはオロオロしておったが、今回も変わらんのか。

 少しはどっしりと構えぬか、仙太郎もじゃがな。

 泰然自若としておるフリをするでない。

 先程から指が(せわ)しなく動いておるぞ」


 「本当に。

 少しは落ち着くという事が出来ませんか、貴方達は。

 もういいい歳でしょうに、今でもこのように慌てているのでは困りますよ。

 特に又太郎は家を継ぐのです。どっしりと構えていなければいけません」


 「そ、それは分かっておりますとも。そう、分かっておりますとも……」


 駄目だこりゃ。

 完全に分かってないし、金沢の方の言葉が通り過ぎていっちゃってる。

 聞いてないというか、聞こえていないというか。

 返事はするけど、理解しているとは思えない。本当にそんな状態だ。

 果たして大丈夫なんだろうか?


 子供が産まれるまで随分と時間が掛かるんだけど、その間中ずっとこうやってオロオロしている気なのかな?

 仙太郎も注意されたけど指の動きは速いままだしさ。

 産まれるまではどうにもならないかな、これは。


 …

 ……

 ………


 夜中になってやっと産まれたけど、母子共に危険は無かったみたい。

 その事で腰が抜けたらしく、又太郎は立てなくなっていた。

 実はこれ二回目で、越前の方の時も同じように立てなくなっていた。

 仙太郎は又太郎が動かないのでお祝いできないし、なんだか微妙な雰囲気になってる。


 又太郎は未だ立てないので、仕方なく伝えに来てくれた赤橋の方の側仕えが伝えに行ってくれたよ。

 又太郎の腰が抜けて立てないって。

 ま、越前の方の時と同じだし、あの時の又太郎の事も見てたから大丈夫だろう。

 後で文句は言われるだろうけど。


 ちなみに子供の名前は決まっているが、まだ知らせる事はできないんだそうだ。

 子供がきちんと生きられるかどうか分からないので、名前を付けていると辛くなるだけなんだそうだ。

 出来ればちゃんと生きてほしいと思う。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は七月十九日。

 又太郎と赤橋の方の子供はちゃんと育っていて、名前は足利千寿王となったそうだ。

 なんだか難しい名前だなぁ、って思う。

 なんなら又太郎や仙太郎より難しい名前だよ。

 二人と同じくらい簡単な名前にすればいいのに。


 そう思うも、必死に考えて付けた名前なので黙っとこう。

 又太郎は大人になったかなと思うも、実際には何にも変わっていない。

 いつもの又太郎に戻った感じだ。

 それはそれで、ある意味では安心だけどね。

 これが又太郎って気はするし。


 次の日。僕と桜はいつも通りに山へと出かけたが、なぜか又太郎と仙太郎がついてきた。

 最近の二人は足利家の仕事をしているので、あまり山に来たりはしなかったんだけどね?

 何かあったのかな?


 「家の中がこう……緊張感に溢れておってな、それで出てきたのだ。

 まあ、千寿王の夜泣きも含めて色々とあるから仕方ないのだが、相当に参っておるようでな。

 オレも頑張ったのだが、むしろ怒らせてしまう事が多いのだ」


 「赤橋の方も苦労をされておりますから仕方ありません。

 なるべく自らで育てたいと申されましたからね。

 ご自分の子ですし、なにより嫡男です。

 あまり乳母の言う事を聞くようになっても困るのでしょう」


 「で、あろうな。

 次代の足利の子が乳母の言いなりなど、情けなすぎるというのは分かる。

 しかし己をあそこまで追い込んでする事ではないと思うのだが……」


 「それで聞いてくださるなら、とっくに聞いてくださってますよ。

 そうではないのですから無理でしょう」


 「まあな。

 それより我が足利一門の渋川家の娘との婚姻が決まったそうだな?

 父上も色々と考えたうえでの事らしいが、仙太郎はいいのか?」


 「構いません。

 そこまで近い血筋でもありませんし、あくまでも足利一門なだけですからね。

 私は兄上のように他の女性にどうこうはありませんから、側室も要りませんし」


 「うぐ……それを言われると返す言葉が無い。

 とはいえ子供が出来なければ側室をという話は必ず出るぞ。

 それだけは忘れんようにな」


 「私は嫡男ではありませんし、それはないと思いますよ。

 そもそも最悪は竹若丸を養子に迎えればいいと思っていますし」


 「仙太郎……」


 「あの子は神社で暮らしていますからね。近くに置くべきだと思います。

 流石に可哀そうですよ、越前の方との子である新熊野(いまくまの)もそうですが」


 「まあ、な……」



 赤橋の方が決める事だから、又太郎は口を挟めないんだよね。

 それに関しては正室の権利だから、たとえ又太郎が当主でも口を挟めないそうなんだ。

 正室の権利って大きいね。


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