0122
Side:黒金
鎌倉近くの山で黒霧と会ってから五ヶ月ちょっと過ぎた。
今日は嘉暦四年の九月十日だ。
なぜそんな言い方をするかというと、また元号が変わったからだ。
色々、そう色々あるけど口には出さないし考えない事にする。
今度の元号は元徳となるそうだ。
呆れるというかウンザリするというか。本当に朝廷の人達は何を考えているんだろうね。
元号を変えたところで良い事なんてあるわけないのにさ。
元号を変えたらなんでも上手くいくなら、既に上手くいってないとおかしいでしょ。
にも関わらず元号を変えるんだもん、ごちゃごちゃになって困るんだよ。
分かりやすいの一つでいいと思うのに、なぜにこんな下らない事をするんだろうね?
考えるのは止めて、今日の狩りに行ってこよう。
ここ最近は桜が弓を使っている。
結構な銭も溜まったので、何かの武器をと考えていたらしいんだけど、それで選んだのが弓だったんだ。
それも特製の弓で、出来上がるのに二ヶ月も掛かってる。
理由はその大きさと太さにある。
実に十人張りというバカげた弓を桜は注文し、それも軽々と扱うんだからね。
作った職人衆が唖然としてたよ。
矢は普通の矢と同じだけど、威力がバカげているので驚異的な弓となった。
仙太郎と一緒に矢の撃ちあい勝負をしていたけど、まさかの仙太郎の敗北という結果に終わる。
なぜなら威力が高すぎて、仙太郎よりも技術を必要としないんだ。
凄く強い力で矢を飛ばせるから。
近いと真っ直ぐ飛んでいくぐらいだからね。
そしてもう一つ、桜には弓が合っていたんだ。
才があったのか、桜は普通に弓を使っていても仙太郎より上手い。
なので仙太郎は余計にガッカリしていたくらいだ。
明らかなほどの弓の才の差があったので、仕方ないんだろうけどね。
だって一町先の的にすら当てるんだから、十分すぎるでしょ。
ちなみに対決は半町で勝負したけど、仙太郎は十射して当たったのは六本。
桜は十射して当たったのは九本だった。
明らかに差がありすぎて、仙太郎の気落ちはちょっと大きかった。
その後は復活してたけど、それは桜が妖怪でかつ脳筋だと知っているからだ。
流石に桜は足利家のような教えを受けてない、なので当たり前ではあるんだけどね。
それでも弓で負けた事を吞み込めたのなら良かった。
ずっと引きずられても困るし迷惑だから本当に安心したよ。
金沢の方や上杉の方は女性の勝利だと喜んでいたけど、流石に桜を普通の女性に入れるのはズルいと思う。
女性以前に桜は妖怪だし、妖怪の男性と戦わないと公平じゃないよ。
ただ、その妖怪の男性相手でも勝ちそうだけどね。桜は。
そんな事があったものの、現在は狩りで桜の弓の腕前は発揮されている。
何といっても鹿や猪を狙って狩れるようになったからね。これは大きい。
普通に戦う際は未だに殴る蹴るで戦うんだけど、それは諦めた。
桜は壊さないように恐々と武器を使うしかないので、上手くはなれないんだ。
ある程度の力で扱っても壊れない武器なら良いんだけど、そんな物が無い以上はどうにもならない。
なので桜の武器選びはこれで終わりだ。
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時が過ぎるのは早いと思う。
今日は元徳二年の一月一日だ。
桜が来て二度目の正月だけど、相変わらず餅を搗いている。
去年お餅を食べたら気に入ったみたいで、今年は張り切って餅を搗いているよ。
もちろん手加減してね。じゃないと臼と杵が壊れるから。
終わったら皆で餅を同じ大きさにして、あとは乾燥させてから配る。
じゃないと形が変わって見栄えが悪くなるし。
そんな事をしつつも帰ってきた義観さんから話を聞く。
「どうやら前執権様の病は悪いらしい。
今は床に臥せる事が多くなられた。
あれが血の濃さの結果かと思うと、ますます仙太郎の嫁には血の遠い者を選ばねばならん。
改めて思ったわ」
「そこまでですか……。
前執権様の御体の悪さが、まさか血が濃い事が原因だったとは知りませんでした。
それに、その事は私も口が裂けても言えません。
場合によっては外戚の安達家に暗殺される恐れがありますので」
「やはり安達家はそこまでしますか……。
力を握った外戚のやる事など古から変わらぬと言いますが、しかし主と共に破滅するしかないのですよね。
黒金殿が申されている事は神様の御言葉です。
という事は……」
「外戚の地位を独占するという事は、つまり力ある者に娘を嫁がせ続けるという事じゃ。
当然その家は血が濃くなりすぎ、やがては滅びる。
外戚とは真に碌な事をせん者達なのであろうの」
「血が濃くなりすぎると病に臥せりがちになり、そして死にやすくなる。
そのような血筋が残れるはずもなく、待っているのは破滅だけです。
知っていれば絶対に避けるべき事なのですが、知らなければそんな恐ろしい事ができてしまう」
仙太郎も少し怯えながら話してるね。
自分もそうだったらと思うと怖いんだろう。
それに金沢の方も複雑な顔をしてる。
自分の血の所為で嫡男の体が弱かったかもしれないんだ、色々と思うところがあるんだろうね。
そんな、ちょっと暗い雰囲気になった室内を明るくする話題もあったようだ。
「前執権様は臥せっておられるが、今の執権様はそれなりに熟しておられるようだ。
特に内管領も外戚も邪魔はしておらん。
蝦夷の事や、後醍醐帝の事で失敗もあったからであろうがな」
「あれは大きな失敗でしたからな。
特に大きな失敗をしたのは六波羅ですが、しかし内管領も外戚も綺麗に纏める事はできませんでした。
それが反発を生んでおります」
「執権家に対する反発ではなく、内管領と外戚に対する反発である事が救いじゃ。
流石に鎌倉が乱れるような事はあってはならん。
それが起きれば大乱になるかもしれぬからな。
そうすれば、また戦じゃ」
「その戦でどれだけの者が亡くなるかを考えると、あってほしくはありませんね」
「妖怪の事を考えても無い方がいいね。
それこそ妖怪が大量に生まれても不思議じゃないし、呪術師とかが密かに動くかもしれない。
僕は居なくなったとは思っていないんだよね。
絶対にどこかに隠れてるよ、呪術師の連中は」
「仮に呪術師に呪われたら、どうすればよいのだ?」
「呪術師の呪いに対しては陰陽師が知ってるんだけど、今は太刀を振り回すだけの陰陽師しか居ないからなぁ……。
符術などを使える本物の陰陽師を家臣に加えた方が良いと思う。
もしくは銭で雇うかだね。昔は平氏も源氏も銭で雇ってたし」
「そうか。呪いを何とかできる陰陽師を雇えばいいわけだな。
それなら陰陽所に行って探せば見つかるかもしれん。
ただ、もっと早く動いておくべきではあったが」
「それは言っても仕方あるまい。
今は呪術を使う事が禁じられておる。
なればこそ、呪術に対する備えも疎かにならざるを得ん。
脅威が無ければ備えはせんよ。
銭の無駄だと切って捨てられる」
「銭の無駄で、命を無駄に捨てる事なく済む。
そう考えれば安上がりだと思うぞ、オレは。
命は銭では買えんのだからして、銭を出してでも命は守るべきであろう」
「そうじゃの。少しずつでもよいから、役に立つ陰陽師を雇うべきじゃな。
ところで黒金は呪術に対してどうすればよいかは知らぬのか?」
「ごめん。申し訳ないんだけど、僕は呪術に関しては知らない。
なぜなら神様の加護で呪いが見えるし、それに霊力を注ぐとはね返せるんだ。
だから対策を覚える必要も無かったんだよね」
僕が呪いをはね返せるってところで驚いてるけど、呪い返しは普通に陰陽師でも出来る事だよ。
むしろ呪いを見れる事が珍しいんだけどね?
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