0121
Side:黒金
今日は三月の二十四日だ。
特に何かがある日じゃないけど、それなりには暖かくなってきた。
僕と桜は今日も山に来ていて、適当に妖怪を退治している。
相変わらず桜の力に耐えられる武器が見つからないので、桜は素手で戦っているよ。
「はぁっ!!」
ズドン!!
今も餓鬼が出てたんだけど、殴って一撃で倒した。
とはいえ妖怪に対しては力より霊力の方が重要で、それがどれだけ込められているかが威力に大きく出る。
もちろん使い方も色々と考えなきゃいけないし、より上手く扱った方が威力も高い。
例えばただ込めただけじゃ、相手に上手く霊力が伝わらない。
しかも無駄に霊力を使うだけで損をしてしまう。
霊力の込め方は、無駄なく表面にだ。
手なら手全体じゃなくて、相手に当たる所に集中させる。
これが基本となる。
この基本なんだけど、霊力を綺麗に扱えないと上手く出来ない。
なぜなら表面近くは霊力が漏れやすいからだ。
僕の体から僅かに出ていたっていう霊力は、僕もまだまだ未熟だった証でもあった。
今は漏れないようになったけど桜が五月蠅いので、桜が近い時だけはわざと制御をしていない。
桜にとっては僕の綺麗な霊力は重要らしく、最近は抱きしめてくる事が増えた。
もしかしたら山姫が甲一級から大九級に上がる為には、清浄さが必要なのかもしれない。
そんな事を桜が言っているのを聞いている。
それが本当かは知らないけどね。
でも未だに桜は甲一級で止まってるんだよ。
格を見ようとすれば見れるので、それでは甲一級とハッキリ出ているんだ。
不思議だけど、大八級の霊玉で足りないんだからビックリするしかないよ。
いったいどういう事なのかとも思うけど、それだけ甲級と大級の差は大きいというしかないんだろう。
山の中で妖怪を退治しつつ、今日は何を狩って帰ろうかと思っていると、何やら空から大きな霊力が来た。
ここ最近は遠くまで調べられるようになったけど、それでも速く突っ込んでくるのは難しい。
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Side:桜
バサッバサッバサッバサッ……トスッ
「ふむ。久しぶりに見に来たが、意外と格が上がっているようで驚きだ。
それに、霊力の使い方が随分とマシになったのではないか?
あの小屋を出る頃は新米のような酷さだったというのに」
「知ってたのなら少しは教えてくれても良かったんじゃない?」
「それは出来んよ。
我々の霊力の使い方は天狗が長年の修行で編み出してきたものだ。
流石に他の者に教えるわけにもいかんし、そんな事をすればどんな仕置きを受けるか分からん。
そういう事情があるのだよ」
「なるほど。天狗も大変なんだね。
それはともかく何しに来たの? 久しぶりに見るけど」
「今日は近くに来ていたので見に来ただけだ、特に事情があったわけではない。
それと山姫の小屋だが、旅人が勝手に利用していたぞ?
既に必要ないみたいだから構わんのだろうがな。
それと山姥の方の小屋は壊れていた」
「向こうのはどうでもいいわ。
あいつは狂っていたし、そんな狂っていた状況じゃまともな小屋は作れなかったでしょうしね。
むしろ狂っている状態でも小屋が作れた事に驚くわ」
「それはまあ確かにな。
しかし本当に小屋に未練は無さそうだ。
おそらくは無いだろうと思っていたが、まったくとはな」
「どういうこと?」
「我ら天狗の仲間は人里にも居るという事だ。
もちろん人間には分からんようにしているがな。
そういう者達から人間が何をしているかという報せは入るのだよ。
そして山姫は知られているわけだ」
「なんで私の事を知って勝手に話にあげるわけ?
なんか後ろをつけられているみたいで気持ち悪いんだけど……」
「まあ、そう言うな。
そもそも人里に居る天狗というのは、人間を見張る為に居るのだ。
そして人間どもが何か大きな戦乱でも起こしたら、我らは妖怪を退治したりしているわけだな。
でなければ妖怪で溢れてしまうであろう?」
「つまり天狗は妖怪を退治してくれているわけだ。
まあ、妖怪を退治して霊玉から霊力を取り込むんだろうけどさ」
「それはな。我らとて何の得もなくそんな事はせんよ。
それに稀人の残した言葉に<塵も積もれば山となる>というのがある。
我ら天狗の霊力の強さは、そういう積み重ねにあるのだ。
もちろん修行途中で狂う者も出るのだが……」
「そこは私達と変わらないのね。狂った天狗は自分達で?」
「当然だ。私達の同胞だから私達の手で潰す。
それは当たり前すぎるほどの事になる。
それで手に入る霊玉もまた誰かの糧になるのだ。
我ら天狗というのはそういう者でもあるからな。
業の深い者、と私でも思うぐらいだ」
「そこまでは知らないけど、本当に私達に会いにきただけみたいね。
むしろ安心するというか、それでこそ天狗殿よね。
意外と言ったらなんだけど、天狗殿って寂しがりだしさ」
「そのような事は無いが?」
「いえ、昔からそうでしょうに。
私のところに来たって、何でもない話をし続けたりしてたし」
「そのような事はないが?」
「本人はそう言うでし「そんな事はないが?」ょうけど……。もういいわ」
どうして寂しがりなのを頑なに認めようとしないのかしら?
別に寂しがりでもいいと思うのだけれど……。
「黒霧は美人だから、色々と面倒なのに絡まれるんだって。
だから他の天狗とも疎遠みたいだし、寂しがりでも仕方ないんじゃないかな?」
「………」
なぜか黒金が言うと黙ったわ。
となると、あの面の下はそんなに美人なのねえ。
それで有象無象に絡まれてると……。
それは面倒だし、誰かと話したくなっても仕方ないか。
私だって又太郎が絡んでくるだけで面倒だなと思うんだし。
「それはともかくとして、僕達は狩りをしなきゃいけないから、そろそろ移動するよ。
一緒に行くなら、一緒に行こう」
「あ、ああ。そうだな。
だが、別に寂しいわけじゃないからな?」
「うんうん、分かってるよ」
なんだか黒金の方が大人ねえ……。
間違いなく天狗殿の方が年上なはずなんだけど、そんな感じがしないわ。
それはともかく、天狗殿の名前は黒霧というのね。
初めて知ったけど、いいのかしら?
私もいちいち誰かに言ったりなんてしないけど。
っと、黒金が天狗殿の為に影兵を出したわね。
それを黒馬にして乗せたら、私達は獲物を求めて山を移動する。
たまには天狗殿と一緒に狩りをするのも悪くないわね。
色々な話もあるし。
「そういえば天狗殿は私よりも先に黒金に会ってたけど、黒金の霊力が透き通ってるのは知ってた?」
「いや、まったく知らないが、そもそも透き通ってるとはなんだ?
霊力にそんな違いがあるのか?」
「あれ? 天狗殿は知らなかったの?
霊玉の中の霊力は濁っているでしょう? それとは逆に透き通ってる霊力もあるのよ。
といっても、私だって黒金がそうだったから初めて知ったんだけど」
「なんと、そうだったのか。
特にそんな事は気にも留めていなかったので知らなかった。
しかし透き通っていたからなんなのだ?」
「黒金に抱き着いていれば、その透き通った霊力を吸収できるの。
で、その霊力は自分の中の濁っている霊力を浄化してくれるのよ。
凄いでしょう? その御蔭であの大級だった山姥の霊玉も無事に吸収できたわ」
「無事に吸収できるとは思っていたが、そこまで時間が掛からなかったみたいだな」
「それはね。だって一日で済んだもの」
「一日!? それは早い! 大級の霊玉なら、普通は二月とか三月ぐらいは掛かるぞ。
それが一日とは凄いな」
そうでしょう、そうでしょう。
私の手柄じゃないけど、鼻が高いわね。
でも、幾ら天狗殿とはいえ黒金は渡さないわよ?




