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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:桜



 海に行って戻ってきた私と黒金(くろかね)は、今台所で色々としている。

 私は灰汁を取っていて、黒金(くろかね)は魚を刺身にしているわ。

 新鮮だと生で食べられるらしいけど、大丈夫かしら? そう思ってたら、影兵で全部処理してるんだそうよ。


 肉もそうだけど、寄生虫という虫が居るみたい。

 その虫を影兵が吸い取って殺してしまっているんですって。

 だから安全に食べられるらしいわ。

 身の中に居るらしいんだけど、それを小さな小さな針にして突き刺して引き抜くみたい。


 どういう事かイマイチ分からないけど、気にしたら負けな気がするから無視するわ。

 なぜ? って思っても、黒金(くろかね)の霊兵だからで終わっちゃうもの。

 なら考えたって無駄なのよね。

 それはともかく、灰汁取りが終わったから、台所の者に後は任せる。


 私は切ったり焼いたりしか出来ないから、料理を期待されても困るのよ。

 そもそも一人で生きてきた者に、難しい事を期待されてもねえ……。

 煮物も出来るけど、出来るのは煮込む事だけなのよ。

 それ以外に出来る事なんて無いわ。


 そもそも料理を碌に知らないし、教えてくれるような旅人も居なかったからね。

 だって旅人も似たような事しか出来ないんだもの。

 聞いたところでどうしようもないのよ。

 出来るなら教えてもらうんだけど……。


 …

 ……

 ………


 出来る事が終わったら、私達は部屋に戻る。

 そして影兵に服や顔などを綺麗にしてもらった。

 今日は海の近くに居たからか、潮風を受けて変な感じだったのよね。

 影兵の御蔭でスッキリしたけど、体は夕餉を食べた後ね。


 そろそろかなと思って黒金(くろかね)と行くと、ちょうど皆も集まってきていた。

 食事をする部屋はいつもの皆が集まる部屋。

 家臣達や他の者は別の部屋で食べるし、台所方は台所で食事をする。

 そういうのは決まっているみたい。


 中には当主だけが別に食事をする家もあるらしいけど、あまり多くはないみたい。

 昔はそうだったらしいけど、稀人(まれびと)の食事の作法が広まってこうなったんですって。

 当主だけで食事とか侘しいとしか思えないわ。


 そんな事を考えつつ話をしていたら、食事が運ばれてきた。

 小屋に住んでた頃は鍋からが当たり前だったのに、今や膳で出てくるんだから不思議よねえ。

 最近は違和感すら無くなってきたけど。


 「おっ! 今日は魚!? 刺身が乗っているとはどういう事だ?」


 「それ今日海に行って獲ってきたんだよ。

 桜が行きたいって言ってたから、一緒に行ったんだ。

 水兵を使ったら簡単に獲ってきてくれてね、それで冷やして持って帰ってきたんだよ。

 そうしたら新鮮なまま食べられるらしいから」


 「ほう、それは凄いのう。

 まさか鎌倉で新鮮な海の幸が食べられるとは思わなかったわ。

 近くに思えて遠いからのう。

 黒金(くろかね)の黒馬ならば素早く移動できるが、普通はそう簡単ではない。

 それに冷やすなどは出来んのだからして、新鮮な物は難しい」


 「馬を酷使すれば可能かもしれんが、そこまでするのもな……。

 新鮮な魚が食べたいというだけでそんな事をすれば、足利家としてバカにされてしまう。

 流石に黒金(くろかね)でもなければ、鎌倉で新鮮な刺身は食べられなんだであろう」


 「刺身で食べられるなんて凄いですね。

 私も初めて食べますよ。

 父上や兄上ならあるでしょうけど」


 「いや、オレもないぞ? あるのは父上だけであろう。

 ……うん、美味いな。魚の味を強く感じるし、この味噌だまりにつけて食うのが素晴らしい。

 醤油もあるし、刺身は美味いな」


 「うん、美味しいですね。

 本当に魚を食べているという感じがします。

 肉も出ていますけど、今日は魚だからか多くありませんね」


 「美味しいですね。

 魚を生で食べるなんて初めてですが、素晴らしい味と歯ごたえだと思います。

 これは本当に美味しい」


 「本当にありがたいですね。

 新鮮なお刺身が食べられるとは思いませんでした。

 しかし、こんな物を食べてこられたとは……」


 「ええ、本当に」


 「そなたら勘違いしとらんか?

 言うてよいのか微妙なところだが、黒金(くろかね)が持ってきてくれた物と同じほどの物が出てくるはずがあるまい。

 ここまでの物が出てくると本気で思うておるのか?」


 「「「「「………」」」」」


 まあ、それはないでしょうね。

 誰も黒金(くろかね)みたいに魚を手に入れるのは無理だし、誰も黒金(くろかね)のように冷やせないもの。

 つまりこの味は黒金(くろかね)しか出せないということ。

 たとえどれだけお金を掛けたとしても、同じ事は無理よ。


 だからこそ義観も勘違いしてるって言ったのでしょう。

 実際に自分がそんな事が出来るかと考えたら絶対に無理だし、そんな方法も考えつかない。

 となるとここでしか食べられないのよねえ。

 また黒金(くろかね)を誘って海に行かなくちゃ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は嘉暦(かりゃく)四年の一月一日ね。

 今年も餅を搗くらしいんだけど、黒金(くろかね)が手伝いに来ている。

 まあ、手伝っているのは古兵と影兵であって黒金(くろかね)本人じゃない。

 そして私も手伝っているわ。

 影兵が捏ねてくれていて、私は杵で搗く。


 ドスン……ドスン……ドスン


 杵を力いっぱい振り下ろすと壊れてしまうから、結構加減して振り下ろさないといけないの。

 それが意外に難しくて厄介。

 疲れはしないんだけど、どうしても力が入りそうになってしまう。

 振り下ろす時に力をあまり入れないのが重要みたい。


 杵の重さを利用して下ろすらしいんだけど、慣れていないからか思っているより気を使う。

 壊してもよくないし、私の力なら壊してしまいそうなのよね。

 だから頑張って力を抜いているわ。


 餅って食べた事ないけど、美味しいらしいから気合が入りそうになっちゃう。

 なので力を抜くのが大変なのよ。


 ドスン……ドスン……ドスン


 ふぅ、何とか臼と杵を壊さずに済んだわ。

 やれやれというところね。

 壊してたら弁償しなきゃいけないし、わざわざ山に行って木を見つけてこなきゃいけないところだったわ。

 杵はいいけど、臼が難しい。

 あの大きさの木ってなかなかないし。


 「よーし、終わったなら一つ一つにまとめていくぞ。

 大きさはちゃんと揃えるんだ。じゃないと五月蠅いからな」


 確かに大きいのと小さいのじゃ間違いなく喧嘩になるわね。

 子供同士の喧嘩ならまだマシだけど、食べ物は大人でも喧嘩の元だもの。

 作る側は真剣に作らないと、恨まれても困るだろうし大変ね。


 ……そう思っていたら、私も作る側に回されたわ。

 まあ、出来た餅を適度な大きさにして丸めるだけだからいいけれども。

 そこまで同じ大きさでなくてもいいし、怒ってきたら殴れば済むでしょ。

 私の力に耐えられるなら、耐えてみればいいわ。


 そんな事を口にしながら作っていると、周りの連中がちょっと怯え始めた。

 最近は私の力がちょっと強いというのは分かったけど、山で生きてた頃はなんとも思わなかったのよね。

 旅人はたまに泊めてたけど、そんな事まで聞いた事ないし。


 「よし。全部終わったな。

 ならばこのままにして乾燥させた後、それぞれに分けないといけない。

 勝手に食べたり持って行ったりするなよ」


 「誰がそんな事をするんですか。

 それに、しっかり見張ってますよ。

 我々だって貰えるんですし、そんな下らない事はしませんって」


 「そうそう。

 そんな事すりゃ働き口まで失うんですから、するわけないでしょ。

 そんなこと」


 男達が笑いながら言ってるけど、バカはどこにだって居るけどね?

 そういう事を言っていながら、下らない事をするヤツは居るのよ。

 だからこそしっかり見張っておく必要があるわ。

 それに人間だけとは限らないし。


 虫や鼠や鳥だって何をしてくるか分からない。

 私が確実に守ってみせるわ。

 それにしても餅ってどんな味なのかしらね?

 気になるから早く食べたいけど、今は我慢、我慢。


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