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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 桜が蹴り飛ばした熊は古兵が殺して影兵が処理する。

 しかし……尋常じゃない蹴りの威力だったね。

 クマが一撃で気絶するって絶対におかしいと思うけど、桜の中では普通みたいだ。

 どう考えてもあり得ないと思うんだけど?


 桜がなぜ今まで普通に生きてこれたかが分かるような威力ではあった。

 冗談でもなんでもなく、あれだけの威力をしていれば襲った奴らは返り討ちだよ。

 殴り殺されるか蹴り殺されるか、どのみちどちらかの末路しかなかっただろうね。


 「それにしても凄い威力の蹴りだったね。

 桜はそっちの強さを活かした方が良いと思う。

 ただしそれに耐えられる武器があるかどうかは別だけど……」


 「それはね、実際に困るところなのよ。

 私も色々な物を持ってみた事があるけど、あまり頑丈な武器ってないから……。

 こう、どうしても壊れそうで持たなかったの。

 耐えられそうな武器があればいいんだけど、どこかにないかしら?」


 「山姥(やまんば)はボロボロの包丁を持ってたけど、あれはどこから出したんだろう?

 なぜか古兵の剣ともやりあえてたけどね? もしかして霊力か何かで出したんだろうか?」


 「そういうのはあるかもしれないわ。

 狂っていたからこそ出来たのかもしれないし、大妖怪にまでなったから出来たのかも。

 その辺りは大級になれていない私じゃ分からないわね。

 他に理由があるかもしれないし」


 「そうなんだ。

 まあ、霊兵が出している武器も、何で出来ているのか分からないからね。

 どこから出しているか分からない武器というのは、あっても不思議じゃないし、色々とやってみたら?

 もちろん練習が先だけど」


 「それはね。

 とはいえ、私、霊力っていまいちよく分からないのよ。

 今まで碌に使ってこなかったからでしょうけど。

 それに使い方もおかしかったみたいだし」


 「その程度の使い方でよく今までやってこれたよね。

 そこがちょっとビックリする。

 だってその程度でも妖怪に勝ててきたわけだしさ。

 そんな事もあるのかと驚くよ」


 「そうかしら? こう……力を入れて殴れば、どうにでもなるものよ。

 そこまで難しく考えなくてもいいの、簡単な事だもの」


 それが普通の人には出来ない事なんだよ。

 もしかしたら普通の妖怪にも無理かもしれないけどさ。

 出来るのは多くないっていうか、むしろ難しい事をやってきたんだと思うよ?

 本人に全く自覚は無さそうだけど。


 それはともかく終わったから、さっさと帰ろう。

 このまま山に居ても仕方ないし、内臓の処理もあるからね。

 急がないと夕餉に食べられなくなっちゃうよ。


 「夕餉に間に合わなくなるかもしれないから、さっさと帰ろうか。

 このまま居続けても意味ないし」


 「そうね。

 夕餉に間に合わなくなるっていうのはいけないわ。

 すぐに帰りましょ」


 意外というか、結構食いしん坊な気がする。

 だからこそ、あんな馬鹿力が使えるんだろうか?

 いやいや、食いしん坊なのが全員あんなメチャクチャな力が使えるわけないじゃん。

 流石に他の食いしん坊な人達が怒ってくるよ。


 下らない事を考えてないで、さっさと足利家の屋敷に帰ろう。


 …

 ……

 ………


 戻った僕はすぐに庭で内臓系の調理を行う。

 といっても今まで通りにかす肉を作り、肝臓や心臓を食べられるようにするだけだ。

 流石に他の部位は山で捨ててきている。

 熊のどこかは薬になるらしいけど、僕にとっては知った事じゃない。


 食べる方が先だし、食べる為に獲ってきてるんだ。

 わざわざ薬にする為に獲ってきてるんじゃないんだよ。

 そのうえ薬師に知り合いなんて居ないからね、尚の事、考えても意味が無い。

 実際、腐らせるだけなら、僕達が食べた方が遥かにマシだ。


 他の部位も動物が食べるかもしれないし、腐ったら虫が食うでしょ。

 だったら置いてくるべきだ。

 まあ、本当のところは持って帰ってきても埋めるくいしか出来ないからなんだけど。


 「あちち!」


 それはともかく、かす肉を作っている横で勝手に食べているのはなぜかな?

 又太郎もそうだったけど、どうして手を出さずにはいられないんだろう。不思議で仕方がないけどさ。

 そんなにお腹が減ってるわけでもないでしょ。


 にも関わらず、どうしても手を出したいんだろうね。

 とにかく口に入れて味わってみないと気が済まないって感じ。

 僕には理解できないけど、二人には共通する何かがありそうだ。

 調べる気も意味も無いけどね。


 「うー………これ噛み切れないんだけど?」


 「ある程度噛んだら飲み込めばいいよ。

 別にお腹が痛くなるわけでもないし、そういう食べ物と考えればいいだけ。

 っていうか、今まで食べた事ないの? 肉が獲れた時ってどうしてた?」


 「包丁で切ったら焼くだけよ。

 狂ってた時は生で食べていたし、冷静になってすぐの頃も生で食べていた気はするけどね。

 包丁なり鍋を手に入れてからは、普通に切ったり焼いたりしてたわ。

 旅人を助けたら教えてくれたりしたし」


 「へー、でもよく人前に出れたね。

 その時って裸でしょ? 妖怪だったんだし」


 「流石に裸じゃないわ、木の皮とかを剥がして身にまとうのよ。

 もしくは草と蔦を使って身にまとうぐらいかしら。それでも裸ではないわね。

 あと、冷静になる前に襲った人間の持ち物もあったから、そこまでの苦労はなかったわよ」


 「あー、なるほど。そういう事もあるのか。

 それなりの物を持っていた場合は、手に入れられるもんね。

 冷静でないなら使おうとは思わないだろうけど、冷静にさえなれば使うとは思う。

 火はどうしてたのか知らないけど」


 「旅人が火打石を持っていたからね。それを見て探したりよ。

 意外と言ったらなんだけど、見つける事は難しくないの。

 探せばあるし」


 「妖怪だから霊力でつけてたのかと思ったら、そうじゃなかったのか。

 まあ、あの術技の低さを考えたら、それは無いかな。

 やっぱり教えていくしかないね。

 少しずつでもいいから、しっかり覚えていこう。

 神様からも言われてるし」


 「それねえ……仕方ないんだろうけど、なぜ神様がそんな事を言ってくるのかしら?

 別に今までも何とかなってきたのに……」


 「………今()たらさ、「こういうヤツだからこそ、しっかり教えろ」って神様が言ってるよ。

 なんだか見透かされてるね?」


 「………はぁ。

 何というか、完全にバレてる感じねえ。

 確かに面倒くさいなって思ってるけど、だから厳しく教えろっていうのも、どうなのかしら?」


 「見透かされてるんだから、何を言っても無駄だと思うけど?

 神様達が聞く耳を持つとは思えないけどね」


 「そうでしょうけど、面倒なのよ、細かい事って」


 神様の加護の眼には()えているものがまだある。

 神様は脳筋って書いてるけど、これはおそらく脳が筋肉で出来てるって事だろうね。

 力だけで暴れてるから、なんとなく想像がつくし。

 それに、だからこそ教えろって事なんだろう。


 大変だけど、神様からも言われてる通りにしっかり教えよう。

 上手くなれば桜はさらに強くなるだろうしね。

 そうなって悪い事はないんだから、僕が教えていくかな。


 そろそろ夕餉の時間だから、結局は間に合わなかった。

 鳥の肉もまだ無理だし、今日の夕餉は肉なしだ。

 諦めてもらおう。




 夕餉の席で又太郎がガッカリしてたけど、他の人達もガッカリしてた。

 僕に文句を言ってくる事はなかったけど、言われたって先代の執権の所為だって言うだけだしね。

 実際に事実だから誰も言い返せないし。


 まあ、だからこそ皆ガッカリしていただけで何も言わなかったんだけど、誰かさんだけはその中で文句を言ってた。

 とはいえ熟成させなきゃ美味しくならないんだから仕方ない。


 いい加減に諦めて寝なさい。

 桜はしつこいね。


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