0117
Side:足利高氏
オレは今、部屋でそれぞれの紙を見ておる。
藁紙なので良い物ではないが、しかし報告を読むだけならこれで十分だ。
それはともかくとして、我が足利は領地もそれなりに持っておる。
故に色々な報告があるのだが……。
「やはり今年もそこまで米は採れぬか。
もちろん北に比べれば採れておるのだが、しかし西国と比べればなぁ……」
「仕方ありませんよ、兄上。これは東国の宿命のようなものです。
尾張はよく米が採れるそうですが、あの辺りが限界なのでしょう。
後は東に行くほどに米の収穫は減ります。
甲斐など米をほとんど作っていませんよ」
「あそこは主に芋を作っておるからな。
後は妙な病か。それに関しては駿河の北の方もそうらしいが、腹が膨れる病は厄介だ。
昔の稀人が水から虫が入ってくると教えてくれたから、まだ何とかなっておるらしいが……」
「甲斐では相当に埋め立てたと聞きます。
川底も掘り、泥濘なども可能な限り減らしたと書にもありました。
そのうえで出来る限り水に入らぬようにと、米の作付けもせぬという徹底ぶりですからね」
「オレも読んだが、仕方ないのであろうな」
「しかしそこまでした御蔭で、腹の膨れる病の者は滅多に出ぬようになっています。
米は古くから病の出た事が無い所でのみ作っておるとか」
「それしかあるまいよ。とはいえ甲斐の国の麦は有名だからな。
あれはあれで美味い物だし、オレは好きな料理だ。
北のせんべい汁も好きだが、甲斐のほうとうも好きだぞ」
「昔に伝えた稀人が言うには、かぼちゃという野菜が無いので本物ではないと言っていたとか。
かぼちゃというのは、いったいどんな野菜なんでしょうね?」
「そなたら話をしておらずに報告をまとめんか。
いつまでダラダラと話しとるだけなんじゃ。
話すなとは言わぬが手を動かせ」
「申し訳ございませぬ」
「申し訳ありません」
父上に謝って書き出すが、この作業は苦痛でしかない。
仕方がないのだが、何を書いておるのか分からんような汚い字の者がおるのだ。
その所為で無駄に時間が掛かるのが腹立たしい。もうちょっと綺麗に書けぬものか。
それに公家のような字を書く阿呆もおる。
己の家の由緒正しい字か何か知らぬが、稀人がなぜ楷書を広めたのか知らぬはずがあるまい。
ワザとか? それとも足利家に対する嫌がらせか?
いい加減にせよと言いたくなるわ。
見て分からぬような字を書いておきながら、読めんヤツは教養が無いとばかりに言う。
教養が無いのはお前だ! としか思わぬわ。阿呆め。
っと、腹を立てていても仕方ない。とりあえず何とか読み取って書いていかねば。
つくづく稀人が言った、誰が読んでも間違わない字が大事だという事の意味が分かる。
読む側になれば公家文字である草書など論外でしかない。
話にならぬどころか紙の無駄使いでしかないのがハッキリと分かる。
草書を書いてくる阿呆より、基本をしっかり学んだ楷書の方が遥かに素晴らしい。
ミミズが這った字など、なぜわざわざ読まねばならんのか。
「妙に腹を立てておるようじゃが……もしかして草書か?」
「ええ。幾つかありますが、どうしてこやつらは阿呆なのでしょう。
その昔に稀人が伝えた事を全く理解しておりませぬ。
だから下に置かれるのだという事すら分かっておらぬのは呆れるしかありませんな」
「こちらにもありましたが酷いものです。
あれが素晴らしいと思っているのかもしれませんが、相手に伝わらぬ文字になんの意味があるというのか。
まあ、必死に読むので全く伝わらぬわけではありませんが、完全に嫌がらせでしょう」
「奴らはそれで周りが見下せると思うておるのであろうよ。
呆れるほど愚かだし、周りからも文を突き返されておる。
読めんから楷書で書いてくれとな」
「武士として、文を送っても突き返されるという事の意味を理解できぬのですか……。
それでは切り崩しにも使えぬという事なのですがな」
「あやつらは古くに公家に習ったというのが自慢の奴らじゃ。
それしか自慢するものがないと白状しておるものなのだがのう。
言うても怒り出すだけで面倒じゃからな、周りも教えたりはせん」
「だからこのままか……。ま、わざわざ恨まれる気はないし、放っておくしかないか」
話しながらも手は止めておらぬが、こんな面倒な者だらけとは思わなんだわ。
誤魔化しも多数あるし、税を抜いておる者もおる。
もちろんそれらは厳しく指導しておるが、一向に無くならん。
これが武士だと言うておる連中かとも思うわ。
おのれらのやっておる事は賊と同じではないかとな。
そう言えば言うたで面倒な事を喚いてくるのであろう。
攻め滅ぼした方が早いと思うのはオレだけか?
何だかこうなってくると、頼朝公が争う世にしたのも間違っておらん気がするわ。
下らぬ事をしておるヤツは争いで滅ぼした方が良かろう。味方だと戦を起こしにくいからな。
相争う世なら敵に回ってくれよう、その時に潰せばよい。
………頼朝公も様々な者に悩まされたであろう。
となると、本当に攻め滅ぼす為に争う世を作られたのかもしれん。
愚か者が醜く争う世。しかし賢き者が争えば、愚か者だけ滅ぼせるのでは?
いや、これは口にせぬ方がよいな。父上も仙太郎も合力してくれまい。
とはいえ愚か者を滅ぼすというのは必要であろう。
それは間違い無いし、その事に頼朝公が気付いておらぬはずも無い。
少し考えておかねばならんな。
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Side:黒金
ドゴン!!
「ほら。石を投げれば鳥は獲れるのよ」
桜がそんな事を言っているけど、石が当たった音がおかしい。なにさ、あの音。
どう考えても石を投げた音じゃないし、鳥に当たった音でもない。
普通の人は石を投げてもそんな音はしないって。
とはいえ妖怪だし、明らかに体力がおかしかったから予想は出来てたけどさ。
それにしたってメチャクチャだよ。
「うん、まあ、そうだね。とはいえそれは桜しか出来ないかなぁ……」
「えー。黒金は無理でしょうけど、霊兵にやらせたら出来るんじゃない?」
「いやぁ、どうだろう?」
そもそもなんだけど、する必要があるのかな?
猛兵が矢を射れば済むし、わざわざ石を投げる必要性が無いと思うんだよね。
それでもやらなきゃ五月蝿いだろうから仕方ないか。
僕は古兵に命じて石を持たせ、そして鳥に投げさせた。
ドコッ
おっと、予想以上の音がしたし当たったけど、でも鳥はまだ生きてるね。
流石に石で鳥を落とす桜はやっぱりおかしいと思う。
ドゴン!!
「黒金、ちゃんと止めは刺さなきゃ駄目よ。
逃げられるところだったし、痛みの中で生かされるのは可哀想よ」
「それはそうだね。ごめん。
ちょっと考え事をしてたんだ。悪い事をしたなぁ」
確かに桜の言っている事は正しい。痛みを与えたまま生かすなんて最低だ。
それならさっさと殺してやるべきだし、余計に苦しませる必要なんてどこにも無い。
とりあえず桜が二羽獲ってくれたから大丈夫かな?
でも桜も食べるから、今日はもう一羽ぐらい獲って帰った方が良いかもしれない。
どっちにしようかと思案していると、木々の合間から熊が出てきた。
どうやら音が気になって来たみたいだ。
仕方ないし、已むを得ない。わざわざ来なきゃ殺されなかったのに。
こへ……
ドゴォッ!!!
「熊が出てくるとは思ってなかったけど、運が良かったわね。
たくさんの肉が手に入ったわ。殺してちょうだい」
「うん、分かった……」
桜が熊を繰り飛ばしたんだけど、顎だったからか一撃で気絶した。
もちろん古兵が首を切って殺すんだけど、熊が一撃で気絶する力ってなんだろう?




