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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:桜



 私が吸収すると言うと、そっと霊玉を渡してくれた黒金(くろかね)

 私はありがたくそれを受け取ると、黒金(くろかね)の後ろに回って抱き締める。

 そしてゆっくりと霊玉の中の霊力を吸収し始める。


 「ぐっ!? これはまた、凄い怨念ね。

 怨みと憎しみをそれだけ溜め込んでたんでしょうけど、まさかここまでとは思わなかったわ。

 流石は大八級。黒金(くろかね)が居てくれなかったら吸収できなかったわね」


 「そんなに大変?」


 「ええ。ここまでとは思ってなかったし、ここまでだからこそ山姥(やまんば)だったのだと思うわ。

 狂っていたのだし、そこからも力を付けていたのだもの。こうなるのも仕方がないのでしょうね」


 「なら止めておく?」


 「いえ、黒金(くろかね)の霊力を吸収しながら、ゆっくりと霊玉の霊力を吸収していくわ。

 同族の霊力だもの、せめて私が吸収してやらないとね。

 もしかしたら私がなっていたかもしれない末路だし」


 そう思うと、やはりこれは私が吸収しなければいけないと思う。

 他の種族に取られたら山姥(やまんば)も浮かばれないでしょうよ。

 こいつは狂ったままだったんだもの。山姫から狂ったわけじゃないから……。


 それにしても怨みと憎しみが本当に強いわね。

 長年の結果でしょうけど、もしかしたら平氏って奴らや源氏って奴らの怨念まで吸収していたのかしら。

 あの山姥(やまんば)がどこから来たのか知らないのよね。


 とはいえ来た時には狂っていたし、あの時にはギリギリで山女だった。

 だからこそ倒したりしなかったのだしね。

 それが仇になるとは思わなかったけど、あの時は倒す気になれなかったのも事実だもの。


 それを考えると尚の事、私が吸収しないと駄目ね。

 責任という意味でも私しか居ないでしょう。

 ゆっくりと、しかし確実に霊力を吸収していく。

 霊玉が少しずつ少しずつ小さくなっているのが証拠。


 そうやって吸収していくけど、やはり怨みと憎しみが強い。

 苦しくなると止め、黒金(くろかね)の霊力を吸収する。

 やっぱり思った通り、明らかに黒金(くろかね)の霊力は私を浄化しているわ。

 御蔭で物凄く助かっている。


 本来なら苦しんで苦しんで少しずつ浄化し、再び吸収するという事を繰り返さなくちゃいけない。

 だから時間がかかるし、吸収するのを躊躇(ためら)う事も多い。

 自分が山姥(やまんば)になる事を考えると二の足を踏んでしまうのよね。


 黒金(くろかね)の霊力を吸収するとすぐに浄化される。

 その事は大きな意味を持つのだけれど、私だけの秘密にしておいた方がいいわね。

 有象無象の妖怪が黒金(くろかね)を誘拐したり拉致したりするかもしれないもの。


 黒金(くろかね)だって神様の加護があるとはいえ、大量の妖怪に襲われたら多勢に無勢よ。

 それも力を持ちたい連中って、ある程度の実力を持っているし。

 それを考えたら、いたずらに広めてはいけない事だわ。


 長い時間を掛けて、やっと霊玉の霊力を吸収し終わった。

 明らかに自分の中の霊力が増大しているのが分かる。

 それでも大級には成れていないわね、これは。

 大級になるのにどれほどの霊力を持たなければいけないのかしら?


 「霊玉が消えたって事は終わった?」


 「ええ。やっと終わったわ。

 物凄い怨みと憎しみだったけれど、黒金(くろかね)の御蔭で浄化しながら吸収できた。

 それが無ければとても無理だったわね。

 間違いなく簡単に山姥(やまんば)に変貌していたでしょう」


 「そう、それなら良かったよ」


 「ありがとう黒金(くろかね)

 あいつは私が逃がした所為でもあったのよ。だからこそせめて私が吸収してやらないといけない、そう思っていた。

 あいつは山に来た当初、まだ山女だったの。それでも狂っているような気配はあったけどね。

 それでも山姫になる可能性は無いわけではなかった」


 「でも山姥(やまんば)になった」


 「ええ。そして気付いた時には対処できなくなっていたわ。

 怨みと憎しみが強く、私が戦うと私まで山姥(やまんば)になる恐れがあった。

 そうなると簡単には戦えないのよ。手当たり次第に妖怪を食い始めるから」


 「山から妖怪が減るから、力を強くできない?」


 「そう。強い妖怪が居る山はほとんどそうよ。

 山の強い奴に許しを得て、そして霊玉を細々と集める。そうするしかないの。

 それにそういうヤツが牛耳ってる山は、たいてい妖怪が発生しやすい。

 つまりエサが豊富な山」


 「妖怪が発生し辛い山でも、妖怪が生まれないわけじゃないんでしょ?」


 「ええ。でもそういう山は人間が居る事が多いのよ。

 だから場合によっては退治されてしまうわけ。

 私も甲三級だから、そう簡単に退治されたりはしないけど、だからといって絶対は無い。

 だから人間が来ないところの方がいいのよ」


 「じゃあ、ここは良くないんじゃ?」


 「襲ってこないなら問題ないわ。むしろ襲って来ないって分かってるなら、人里の方がいいのよ。

 妖怪が近付き難いからね」


 「人間じゃなくて、妖怪にも襲われるわけかー。霊力が欲しいから」


 「そう。それが妖怪というものだけど、面倒ではあるの。

 小屋だと当然襲われるわ、それも時間に関係なくよ。

 夜に急に襲ってくるヤツとか多いの、こっちは眠たいのに」


 「それはやだね。寝ているところを起こされるとか、本当にイヤだし」


 コンコン


 「黒金(くろかね)殿。桜殿。

 そろそろ昼餉ですので、お越し下さい」


 「はーい」


 「分かりました」


 誰かは知らないけれど伝えに来たので私と黒金(くろかね)は食事をする部屋へ。

 私が抱いて連れて行きたかったのだけど、流石に断られたわ。残念。


 部屋について食事を始めると、気になる会話を始めたわね?


 「黒金(くろかね)、一昨日、昨日と山に行ってないが大丈夫か?

 そろそろ肉が無くなりそうだが」


 「そう言われてもね?

 一昨日と昨日のは依頼だから仕方ないし、今日は前の執権の所に報告に行かなきゃいけなかったんだ。

 午後から山に行ってもいいけど、今までの事を考えると鳥かなぁ」


 「鳥は一日で食えるようになるから良いな。

 猪や熊だと時間が掛かるが、鳥は一日早いので助かる。

 前みたいに狼を大量に持って帰ってこられると大変だが……」


 「あれは仕方ないよ。

 群れが襲ってきたんだし、あいつら逃げなかったからね。群れを殲滅するしかなかった。

 それに放置して帰るのも勿体ないからさ、持って帰って来て食べるしかないじゃない」


 「まあ、あれだけ肉が食えた事もなかったから、良かったのではないか?

 狼の肉と聞いてどうかと思ったが、普通に食えて美味かったからのう。

 たまにある蛇肉も……まあ、悪くは無い」


 「オレは結構好きだがな、蛇肉。カリッと焼かれておるし、しっかりと火を通せば腹も悪くならん。

 別に焦げておるわけでもないしな」


 「私は黒金(くろかね)がやっていた揚げ物なら大丈夫ですかね?

 あれは美味しかったですし、猪の脂で揚げているからか思っていた以上に味が濃かったので」


 「あれは確かにそうでしたね。

 蛇と聞いてどうかと思いましたが、黒金(くろかね)殿が神様の眼で御覧になっている以上は大丈夫ですし」


 「ええ。それに精がつく肉というのも助かります。

 歳をとると、なかなか元気が出ないものですから」


 「そういう意味では、内臓も含めて食べた方が良いんだよね。

 ま、今日の午後から獲りに行ってくるよ。皆も食べたそうだし」


 「私も行くわ。山では石を投げて手に入れてたし、役に立てると思う」


 「「「「「………」」」」」


 「石を投げて獲るの?」


 「ええ。鳥ぐらいなら石を投げれば済むでしょ?」


 「「「「「「………」」」」」」


 あれ? 人間は違うのかしら……?


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