0115
Side:桜
一夜が明けた。黒金が出した影兵というのは非常に感触が良い。
最初はポヨンポヨンしているし、何だか変な感じがしていたんだけど……。
気付いたら朝までぐっすり寝ているんだもの、ちょっと驚くわ。
それにしても大きな屋敷ねえ。
人間の中にも貧しい者から裕福な者まで居るけれど、ここは特筆して裕福なのでしょう。
稀人である黒金が居るんだもの、この屋敷のどこかに重要な者が居るのでしょうね。
稀人が居る以上、必ず大きな事が起こる。
実際に黒金の名前を聞いたのは百年以上前だったと思うけど、まさかその後に再び現れるとはね。
いったい神様も何が目的で黒金を神隠しにされるのかしら?
そのうえ歳をとらないなんて、何の為にそこまでしているのか本当に分からないわ。
それほど長い時を生きる必要があるのかしらね?
何度も神隠しに遭いながら生きていくとか? そんな事も無いわけじゃないんでしょう。
「くぅ…………くぅ………」
黒金が寝ているわ。
こう見ていると可愛い童にしか見えないのよね。
実際の霊力は驚くほど高いけど、見た目にはまったく表れていない。
それもどうなのかと思わなくもないけれど。
それはともかくとして、黒金の霊力って透明なのよね。
もちろん色として言っているわけじゃなく、感覚的に透き通ってる感じかしら。
その所為かもしれないけれど、若干漏れている霊力も透き通っている。
それは黒金を抱き締めていると吸収できるんだけど、私自身が洗われるような霊力なのよ。
山姫として一段上がるというか、山姥から遠ざかれると言うべきかしら。
そういう霊力を持っている。
元々の予定では黒金から貰ったら、ゆっくりと吸収しようと思ってたんだけど、思っているよりも早く終わりそう。
その場合は黒金を抱いている必要があるけど、説明すれば大丈夫よね。
「ん? うーん……! はぁ……おはよう」
「はい、おはよう。よく寝ていたわね? 疲れてたの?」
「昨日は山姥を倒して帰ってくるまでだから、大変だったし疲れたよ。
桜は体力が高いから、そんな事は無いんだろうけどね。それに片道だけだし」
「ま、それはそうね。
いつも起きている時間に起きたけれど、ここは小屋じゃないから私のやる事が無いのよ。
だから未だにゆっくりしてるんだけどさ。ちょっと抱いていい?」
「なんで? 昨日もしてたけど、何の意味があるのさ」
「あれ? 気付いてないの? 黒金は常に微量の霊力を放出しているわ。
おそらく内側から溢れている分なんでしょうけどね。それを吸収したいのよ。
特に黒金の霊力は透き通っていて、他の霊力とは違うから」
「違う?」
「ええ。霊力には濁りというのがあるの。
そして濁っている霊力ほど、私のような山女には悪影響が出る。
つまり山姥になるという事ね。
山姫は強くなりにくいと女天狗殿が言っていたでしょう? あれはその為よ」
「えーっと………濁っている霊力は吸収できない?」
「いえ、出来るわ。ただし少ない量しか吸収できないの。
なぜなら濁りを吸収し過ぎると山姥になるから。
でも黒金の霊力は透き通ってるから、むしろ吸収すると私が浄化される感じね。
だから昨日、抱きしめていたのよ」
「抱き締めなくても吸収できない?」
「無理。
黒金から出ている霊力は透き通ってるけど、黒金から離れると濁りと混ざってしまうわ。
そうなると透き通っていない霊力になってしまうのよ。
だから透き通った霊力を吸収する為には密着している必要があるの」
「なるほど。それなら仕方ないのかな?」
「ええ、仕方ないの♪」
私は黒金に近付いて、後ろから抱き締める。
こう、全てが柔らかくて抱き心地が良いのよねー。
子供って事もあるんでしょうけど、透き通った霊力を吸収できるからか、余計に気分がいいわ。
このまま抱き締めていたいけど、そのうち朝餉に呼ばれるでしょうし、それまでのお楽しみね。
それにしても柔らかいわー、色々なところが柔らかくて子供って素敵。
…
……
………
自分で用意しなくても朝餉が出るってありがたいわね。
自分のより美味しいし、そういう意味でも来てよかったわ。
「今日は前執権様のところに行くようじゃが、粗相などせぬようにの。
ま、前執権様は黒金を気に入っておるからして、問題はなかろうがな」
「うん、大丈夫だと思う。
前に行った時も同じだったけど、倒した事を報告して霊玉の鑑定を受けるだけだからね。
特に何かがある訳でもないし、すぐに終わるよ。
桜は留守番ね。連れて行くと五月蝿そうだから」
「えっ? 私も行くけれど?」
「止めておいた方がいいですよ。
貴女の美貌なら、絶対によからぬ事を考える者が近付いてきます。
なので屋敷に居た方がいいでしょう。
黒金殿が帰ってくるまで待っているべきです」
「うーん………鬱陶しい人間の欲に関わりたくもないし、そうしましょうか」
「ついでに桜は霊力を扱う練習ね。
行く前に少し教えるから、その練習をひたすらしようか?
神様も霊力の扱い方を教えろって言ってたし」
「えっ!?」
「ちゃんとしっかり教えるよ。
甲三級で霊力は高いけど、使い方を全く分かってないみたいだしね。
だから霊力は七十九もあるのに、術技が九しかないんだよ。
なんか【霊波】っぽいのが使えるだけでしょ? そこもなんとかしなきゃね」
「えぇ…………本当にするの?」
「する」
「……分かった。知らないよりはマシでしょうからね」
あーあー、面倒な修行とかしたくなかったんだけどなぁ……。
ここで逃げても仕方ないし、変なのに教えられるくらいなら黒金に教えてもらった方がいいわ。
流石におかしな事は教えないでしょうしね。
その後、黒金が多少教えてくれたので、部屋で繰り返し練習する。
まず自分の霊力を上手く動かす事すら出来ていなかったみたい。
私が出来たのは霊的な攻撃と他の者の霊力を感じる事だけみたいね。
そちらは妖怪として生きていれば自然と身につくものだから、実質は霊的な攻撃だけなのよ。
黒金が【霊波】と呼んでいるものに比べたら、確かに拙いというか適当って感じだったわ。
これじゃあ駄目なのも当然ね。
神様が黒金に教えろと言われるぐらい、私の技術が下手だとは思わなかったわ。
呆れるというか何というか……。
私が今までの自分にガックリしながら練習していると、黒金が帰ってきた。
特徴的な霊力だから分かりやすいのよね。で、そのままこの部屋に来ているみたい。
ガラッ
「ただいまー。いやぁ、五月蝿かったよ。
前の執権に報告して霊玉を見せたまでは良かったんだけどさ、陰陽所の所長が売ってくれってしつこかったんだ。
ビックリするほどにしつこくて参るよ、本当」
「大妖怪の霊玉だから仕方ないとは思うわよ。
そう簡単に手に入るような物じゃないもの。
人間でも欲しがる者は居るでしょうし、それだけ価値のある物よ」
「僕お金たくさん持ってるから、別にこれを売って儲けようとか思わないんだよねー。
で、桜はこれを欲しがってたけど、なんで?」
「私達妖怪は、他の者の霊力を吸収して強くなるのよ。
当然、霊玉から霊力を吸収するのだけれど、そもそもの目的はソレなわけね。
妖怪を食べるというより、その霊玉を喰らうの」
「これを食べる?」
「正しくは黒金にもしたように吸収するの。自分が強くなる為に」
だから私は欲しかったのよ。




