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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 僕は桜も黒馬に乗せたまま荏原(えはら)群の町まで行き、そこである程度の物を売り払った。

 なんだかんだと言って、売る事に躊躇(ためら)いは無いらしい。

 新しい生活の為にも銭は必要だし、物を大量に持っても行けないしね。


 僕が説明したからか、多くの物を持っていっても仕方ないと思ったみたいだ。

 それらが終わったら、一気に黒馬を走らせて鎌倉へと戻る。

 なかなかに大変だったけど、それでも疲れない黒馬だからこそ早く帰る事が出来た。


 とはいえ流石に夕方なので飯屋に行って夕餉にし、その後はすぐに足利家の屋敷へ。

 歩いて戻ったけど、その際に屋敷の人にビックリされる。


 「黒金(くろかね)殿、そちらの方はいったい……」


 「ああ、義観さんに紹介しなきゃいけないけど、一緒に住まわせてもらえないか頼む人。

 僕が使わせてもらってる部屋で寝られるから大丈夫だよ」


 「そ、そうですか……」


 その後に屋敷に上がるも、屋敷の人もチラチラと見てくる。

 元々から人が多いけど、やたらに見てくるなぁ……桜を。

 美人だから分からなくもないけど、そこまでかな?


 義観さんの居る場所を聞いたら、ちょうど夕餉の最中だったので部屋に移動して声を賭ける。


 コンコン


 「義観さん。黒金(くろかね)ですけど、入っていいですか?」


 「おおっ! 黒金(くろかね)、帰ってきたんじゃな。構わんぞ、入ってくれ」


 「失礼します」 「失礼します」


 ガラッ


 戸を開けて中に入ると、いつもの皆が居た。

 んだけど、皆も桜に目が釘付けだなぁ。

 そこまでかな? 実は美人度でいえば黒霧(くろぎり)の方が上なんだけど、やっぱり言わない方がいいね。


 僕は適当に座らせてもらい話を始めようとするも、何故か桜が僕の後ろに座って抱いてくる。

 そのうえ膝に乗せるって、どう考えても子供扱いだよね?


 ……なぜ枕を抱くように抱いてくるのかは分からないけど、とりあえず話を始めよう。

 どうせ聞いたところでバカバカしい答えが返ってくるだけだろうし。


 「執権の依頼通りに東の荏原(えはら)群に行って、妖怪を討伐してきたよ。

 それは終わったんだけど、色々あってさ。

 後ろに居るのは桜という名前で、ここに住まわせてほしいんだけど」


 「だ、駄目です! 絶対に駄目です!!」


 なぜか赤橋の方が猛烈に反対してきた。

 そこまで反対しなくても大丈夫だ、ああ……そういう事か。

 これは赤橋の方が勘違いしてるね。


 「おそらくだけど赤橋の方は勘違いしているよ。

 桜は山姫っていう妖怪だから。又太郎が手を出すとかあり得ないからね?

 そんな事をしようものなら喰われるよ?」


 「な、何を言うのだ、黒金(くろかね)

 そんな事をするわけないだろう!」


 その又太郎の言葉を受けて、この場の桜以外の全員が方太郎の顔を見る。

 すると居心地が悪くなったのか、又太郎は「ゴホン!」と咳をした後に食事を再開した。

 何を考えていたか非常に分かりやすいね。


 「しかし、妖怪と聞けば頷く事は出来んのだがな?」


 「大丈夫。神様の眼で()たら、神様も問題ないって言ってたから。

 二百年以上、人間を襲ってないらしいし」


 「二百年より前は襲っていたのですよね?」


 「その頃にはまだ正気が無かったんじゃない?」


 「そうね。私が正気を持って以降は、人間を襲った事は無いわ。

 ただしそれ以前と言われたら、分からないとしか言い様が無いのよね。

 覚えていないわけだし」


 「覚えていないのですか?」


 今度は仙太郎が疑問に思ったのか話してきた。

 けど、前に説明したはずだけどね? 忘れたのかな?


 「前に説明した事あるでしょ。妖怪は人間の持つ恨みと憎しみから生まれる。

 そして生まれてからある程度の期間は見境なく襲うんだって。

 その間は妖怪に自分なんていう意識は無いよ」


 「あれはそういう意味だったのか!?

 つまり妖怪とは元々狂ったように人を襲うというわけだな?」


 「人だけじゃないよ。そもそも妖怪は霊力をたくさん手に入れようとするんだ。その理由までは知らないけどね。

 だから妖怪は妖怪を襲う。そしてある程度の霊力を持って強くなると、段々冷静になってくんだよ」


 「そうね。言い換えれば冷静な妖怪というのは強者であるという事よ。

 それでも私は甲級であって大級までいっていないわ。

 黒金(くろかね)が言うには甲三級らしいわね、私は」


 「甲三級だと……!?」


 今度は又太郎がその強さに驚いた。

 とはいえ、そこまで驚く事じゃないけど。


 「そこは大丈夫だよ、桜は山姫だからね。

 僕が倒してきた山姥(やまんば)とは違うよ。

 それにあいつは大八級という大妖怪だったし」


 「「「「「大妖怪!?」」」」」


 「それでも勝ったから問題無い。ただしビックリするほど強かったけどね。

 流石は大妖怪だと思える程ではあったけど、それでも勝てない相手じゃない。

 あれ以上となると、流石に大変だと思うけど」


 「大妖怪すら倒したのか。凄いな……」


 「本当にのう……。ま、そこまで言うなら大丈夫じゃろう。

 駄目ならば、おそらく黒金(くろかね)が引導を渡すじゃろうからの。

 それに都にも大妖怪がおるのだからして、問題はあるまい。

 普通に話も出来るみたいじゃし」


 「まあ、兄上が絶対に手出し出来ない女性ですから、私も構わないと思います。

 喰われるかもしれない相手には手を出さないでしょう」


 「…………仕方ありませんね。ここで強く言うと私が悪女みたいですから、許しましょう。

 とはいえ、どこか適当な部屋はあったでしょうか?」


 「私は黒金(くろかね)と一緒に寝るので構いませんよ。

 特にどうこうはありませんし、黒金(くろかね)なら安全ですからね。

 こう見えて山姫は人間の欲に敏感ですから」


 「ああ、うむ。それなら大丈夫じゃの。

 そもそも黒金(くろかね)は古兵や影兵を置いて寝とる。

 もし又太郎が下らぬ事をしようとしても叩き出すじゃろう」


 「だから、せぬというのに」


 「兄上……。二度もやった方が信用される事は、残念ながら無いです」


 「仙太郎……」


 他の皆も又太郎を厳しい目で見てる。

 ま、当たり前だけどね、あんな事を二度もやったら流石に信用されない。


 その後、僕は何があったかを話し、山女と山姫と山姥(やまんば)の事を皆は理解した。

 ちなみに女性達は山姫に美しさの秘訣を聞いていたけど、山姫になった時からこうだったという答えでガッカリしたようだ。


 流石に人間と妖怪は違うと思うから、聞いたって意味無いと思うんだよね。

 だって、妖怪みたいに発生しないし。

 ………あれ? じゃあ子葉と双葉はどうなるんだろう?


 よく分からないから、いいや。考えるの止めよう。

 それより部屋に戻ってゆっくり寝て、明日先代の執権のところに行かなきゃね。


 部屋に戻った僕は影兵を二体と古兵を二体出して、影兵を布団にしたら寝る。

 灯りを古兵に消して貰おうと思ったら、桜がビックリしていた。


 「えっと……コレに寝るの?」


 「そうだよ。影兵は夏は涼しく冬は暖かいんだ。

 そのうえ寝ている間に何かあっても守ってくれるしね。

 一番安全で安心なんだよ」


 「そう………。なら寝てみようかしら」


 そう言って影兵の上に寝転がったものの、体がズブズブと沈んでいって驚く桜。


 「こ、これ!?」


 「落ち着いて。途中で止まるし息は出来るから。

 それに寝返りの時にはちゃんと形が変わるよ。

 そもそも枕の部分も出来てるでしょ? 影兵は形が自在に変わるから大丈夫。

 落ち着いたら寝ればいいだけだよ。すぐに慣れる」


 「そ、そう、なのね……」


 「子供達だってすぐに慣れてたから、大丈夫、大丈夫」


 古兵に灯りを消してもらい、僕は目を瞑った。

 桜もすぐに慣れるだろうし問題は無い。どうせ眠たくなったら寝るんだしね。

 それに明日もやる事があるから早く寝なきゃ。


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