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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 「烏天狗殿の言っている事はともかく、無事に西のを倒せたようね。

 貴方ほどの霊力があれば勝てると思ったけれど、存外に余裕で勝ったみたいじゃない?

 大級に到達している妖怪を倒せる者はそうそう居ないわよ。誇っていいと思うわ」


 「そうだな。人間ならば軍を持って戦わねば勝てまい。

 基本的に大級の妖怪が暴れるならば、倒すのは我ら大妖怪なのだがな。

 稀人(まれびと)とはいえ、人間が倒せるようになるとは。

 世の移り変わりと言えるのかもしれん」


 「ところで倒せたという事は霊玉を手に入れたのでしょう?

 私が持っている物ならば何でもあげるから、それを私にくれないかしら?」


 「お前……。それが目当てで言い出したのではなかろうな?」


 「いえ、違うわよ。元々から西のを倒しに来ているみたいだったもの。

 だから話したのだし、あれが居ては私も困るからね。ついでもあって教えたのよ。

 それで、どう?」


 「残念だけど、これは妖怪を倒した証として持って帰らなきゃいけないんだよ。

 その後は貰えるんだけどね。だから証として見せるまでは無理。

 それよりも、このままここに住んでると間違えられると思うよ?」


 「えっ?」


 「だって噂の中にはボロ小屋と綺麗な小屋の二つがあったし、という事は山姫も知られているよね?

 今度は退治してくれとか言われたのが来るかもしれないよ?

 そもそも山姥(やまんば)と同じだと思われてるっぽいし」


 「………冗談でしょう? 私はここに昔から住んでるのよ?

 なんでその私が西のに間違われて狙われなければいけないわけ!?

 あっちの方が後から来た癖に!!」


 「弱い間に倒してしまわぬからだろう。

 近しい者だと憐れんでいたら向こうの方が強くなって手出しできなくなり、やがて今の状態になってしまったのだ。

 そもそも自業自得ではないか」


 「うっ……」


 「そのうえ退治してもらったのにその言い(ぐさ)はなかろう。

 なれば自分でなんとかすれば良かったのだ。

 まあ、山姫は強くなりにくいから仕方がないがな」


 「そうなのよ。

 いっそ狂ったら強くなれるんでしょうけど、狂った同族を見るとね。ああなりたくはないわ。

 しかし……人間どもが襲ってくるとなると、ここにはもう住めないわね。

 どうしようかしら?」


 「どうしようも何も住まいの場所を変えるしかあるまい。他にあるか?」


 「長い時間をかけて、少しずつ色々な物を集めてきたのに……。壊れる時は簡単に壊れるのね」


 「仕方があるまい、そんなものであろう。しかし長い時をかけてとは、どういう事だ?」


 「霊玉を売って買った物とか色々とあるの。私としては思い出みたいなものだしね。

 それを捨てなきゃいけないってのも辛いのよ。もちろんそうするしかないんだけどさ。

 とはいえ何処に行こうかしら? 縄張りがあるから新参は苦労するのよねえ」


 「そうなの?」


 「ええ。山は特にそうでね、それぞれの妖怪の縄張りだったりするのよ。

 その山の主みたいなものかしら?

 そういったのにお伺いを立てないと面倒になるし、追い出される可能性もあるしね」


 「日の本の山には強い妖怪が住んでいるところがある。大抵はそれなりの妖怪が出てくるところだ。

 そこに出てくる妖怪を喰らい、そして強くなる。そういう妖怪が多いのだ。

 中には強くなった後で人里を襲い、打ち倒される者もいるがな」


 「天狗などは強くなるだけなって、後は悠々自適に生きているという感じなのよ。

 それでも強くて暴れる妖怪などは倒してくれるからね、ありがたいんだけど……」


 「なにか含みがある言い方だな?」


 「貴女達の中には「こうしろ、ああしろ」と五月蝿い奴がいるでしょ? あれ、迷惑なのよ。

 私は普通に生きられればいいのに、妖怪を倒せ、その程度の強さじゃ足りないってさ」


 「ああ、あの阿呆どもか。一部に強さを賛美する阿呆どもが居るのは間違い無い。

 私も面倒なので関わらぬし、関わる気もない連中だ。

 言っている事は分からぬでもないが、他の者を巻き込むなと言いたいわ」


 「言ってよ、面倒なんだからさ。

 あいつらもこの辺りを見回るからか、五月蝿く言ってくる事があるのよ。

 迷惑千万でしかないわ」


 「あいつらが聞くのは大天狗の言葉だけだ。

 私が言っても聞きはせん。だから関わりたくないのだ。

 それよりも今後はどうする? 行く場所に当てはあるのか?」


 「あるわけないでしょ。あったらここに居ないで、そっちに行ってるわよ」


 「だったら一緒に行く? 僕は鎌倉の足利家に住まわせてもらってるけど」


 「いや、人間と妖怪が一緒に住むのは無理でしょ」


 「えっ? 京の都じゃ普通に葛葉(くずは)が住んでたけど?

 人を喰ったりしないなら問題ないんじゃないかな」


 「…………うん。だったら行くわ。

 別に私だって好き好んで山の中に住んでるわけじゃないし。

 人間が襲ってくるから山の中に住むしかないだけだもの。

 人間の都に行けるなら行くわ」


 「行くのは構わぬが気をつけろよ。人間は恐怖に弱い。恐がる者は危険だからな」


 「分かってるわ。それより小屋の中の物をまとめるから少し待ってちょうだい。

 あまり多くの物は無いけどもね」


 そう言って山姫は小屋の中に戻って行った。

 僕がなぜ足利家に連れて行く事を考えたかと言うと、神様の眼で連れて行っても問題ないって出てたからだ。

 神様が言うなら大丈夫って分かるし。


 「お待たせ。布で無理矢理に包んできたけど、力を入れてないと布が外れそう。

 思ってるよりも多くの物があったみたい」


 「全て持って行こうとするからであろう。要らない物は置いて行ったらどうだ?」


 「影兵を出すから、その背に積むといいよ」


 僕は影兵を六体出し、その内の五体を馬の姿に変えて荷物を載せる。

 全て乗せ終わったら山姫も黒馬に乗せて出発だ。

 それに合わせて黒霧(くろぎり)は飛んで行ってしまった。


 「とりあえずは荏原(えはら)群の町まで行くけど、山姫って名前は?」


 「妖怪に名前なんて無いわよ。

 天狗ぐらい集団行動をするなら要るでしょうけど、妖怪は基本的に独りで要るから必要ないの。

 なんなら名付けてくれてもいいけど?」


 「名付けてと言われても……ねえ。

 うーん………」


 困ったな。いきなりそんな事を言われても困るぞ?

 ここは荏原(えはら)群で、近くには覚志(かかし)とか駅家(うまや)とか桜田とかもある。

 地名からは駄目かな?


 「地名からじゃ駄目かな。

 近くには御田(みた)とか桜田とか鎌田とかがあるよ。

 隣には橘樹(たちばな)群とかもあるし。

 どれかを組み合わせて良い感じの名前にならないかな?」


 二人で「あーでもない、こーでもない」と相談した結果、一周回って桜という名前を名乗る事になった。

 橘はたしか、そういう名前を名乗っている人達が京に居たはずなので止めた。


 蒲とか人の名前に使う字じゃないしね。結局のところ桜しか残らなかったんだ。

 僕は名前なんて付けた事も無いし、山姫もそれでいいって言ったから決定。

 まあ、山姫の小屋の近くに桜の木があったらしいしね。ちょうどいいと思う。


 その後は名前がしっかり付いたかなと思って()たらビックリした。


 ―――――――――――――――


 桜 女 二百七十九歳


 体力・七十二

 霊力・七十九

 術技・九

 知恵・四十九

 知識・三十八

 運勢・良


 それなりの年月を生きてきておるが、まだまだ若い妖怪。山に住んでおったからか体力が非常に高いものの、碌に霊力の扱い方を知らぬらしい。そなたが教えてやるがよい、霊力は高い故にな


 ―――――――――――――――


 体力の数字が尋常じゃない。七十を超えた体力なんて初めて見た。

 もしかして力も強いんじゃ……。


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