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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 鎌倉に戻った僕は先代の執権に霊玉を見せて説明。

 そして執権からの命令書を返したら足利家の屋敷に戻った。

 すると早速と言わんばかりに詰め寄られ、金沢の方、上杉の方、赤橋の方に連れて行かれる。


 どうやら伊豆の方の事はよく分からず、詳しい話が聞きたかったらしい。

 なので僕は途中で見た風景とかの色々を語っていく。

 そして土蜘蛛の(くだり)になると少し微妙な表情をしたものの、無事に倒せた事には喜ばれた。


 ただし、僕は先代の執権にも足利家の人にも黒霧(くろぎり)の話はしていない。

 しても仕方ないし、向こうも迷惑だろうと思ったからだ。

 なので、そのまま誰にも話す事はなかった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は嘉暦(かりゃく)四年の一月二十八日だ。

 すでに正月も明けているけど、この日、僕は東へと移動している。

 目的の場所は荏原(えはら)郡という場所だ。そこの森でなにやら妖怪が出たらしい。


 再び妖怪退治に出た僕は、黒馬で一気に駆け抜けて行き、荏原(えはら)郡に到着した。

 ここにある町で色々と聞き込むんだけど、また同じ事になったりしないかな?

 いちいち面倒だけど見た目が子供だから舐められやすんいだよね。


 とりあえず陰陽所に入って詳しく話を聞くかな。


 「すみません。ここの近くの森に強い妖怪が出たって聞いて来たんですけど」


 「あん? ここは(わらし)の来るところじゃねえ。とっとと失せろ!!」


 「言うと思ったけどね。じゃあ、これ。執権様からの命令書」


 「はあ? 執権からの命令書だと? ふざけてんのか、このガキ!!

 こんなも「破くと攻められるよ?」んを出し……」


 「一応言っておくと、それ本物だから。

 破ると、この町は攻め滅ぼされるよ。

 冗談でも何でもなく」


 「……………これが本物だとしたら、おめえに合力しろって書いてあるんだが?」


 「僕は噂になっている妖怪を退治しに来ているからね。

 だから協力しろと言われるのは普通の事だと思うよ?」


 なんだか面倒だなぁ。

 そう思っていたら、近くに居た奴らがニヤニヤしながらこっちに来た。

 バカな事を考えているのが丸分かりだけど、僕は容赦しないよ?


 「おいおい、お前みたいなガキがいったい何の用だってんだ?

 それに妖怪を退治にしに来ただと? はっ! 寝言は寝てから言いな。

 とにかくここから、さっさと失せろ」


 「必要な情報を聞いたら出ていくさ。

 それより強い妖怪の情報が欲しいんだけど?」


 「てめえ……失せろっつってんのが、分からねえのか!!

 これ以上ウダウダ言うなら斬り殺すぞ!!」


 「その太刀を抜くの?

 別に抜いてもいいけど、代わりに死ぬ覚悟をしなよ?

 死んでもいいっていうなら抜いてもいいけどね」


 「っ! この、ガキィ!! ブチ殺してやる!!!」


 キンッ!


 「<古兵・勇壮猛夫>! <斬兵・豪壮武辺>! 殺せ!」


 「「!!!」」


 ザシュッ! ズドン!!


 太刀を抜いた男は古兵に首を切られ、斬兵に真っ二つにされた。

 他の男達もニヤニヤしていたけど、まったく反応も何も出来ていないね。

 正直に言って遅すぎる。話にならないよ。


 「「「「「なっ!?」」」」」


 「太刀を抜いた以上は殺す。僕を舐めているお前達も死ぬ覚悟があると見做(みな)すよ、当然ね。

 舐められたら負けなんだ、なら舐めてきたヤツは殺すしかないだろう?

 僕はわざわざ執権様の命令書まで持って来たんだ。僕以外にも舐めているよねえ?」


 「「「「「………」」」」」


 「で、どうするの? このまま情報を渡す?

 ……それとも執権様を舐めていたと報告しようか?」


 「………すまねぇ!! この通りだ!! ワシが悪かった!!

 だから頼む、報告だけは止めてくれ! 皆殺しにされちまう!!」


 「なら最初から情報を渡せば良かったんだよ。

 渡したところで損は無いんだしさ? 出さなかったのは舐めてたからだよね?

 それに、そこのお前達も同じだろ?」


 「「「「うっ……」」」」


 「こいつらにちゃんと言っとく。だから鎌倉への報告だけは止めてくれ!」


 「そうしてほしかったら、さっさと情報を寄越(よこ)しなよ。

 こんなところで問答なんて、いちいちしたくないんだからさ」


 「あ、ああ! 分かってる! すぐに話す!」


 それから話を聞いたところ、森の中というか、小山の中に誰かが住んでいるらしい。

 小屋はボロだったり綺麗だったりと色々で、本当かどうかは分からないとのこと。


 そこに山越えで泊めてもらった者が居たそうだが、夜中に妙な気配がするので起きたら妖怪だったらしく、慌てて逃げたんだそうだ。

 それで助かったらしいが、慌てていた所為でどんな妖怪かは覚えていないとのこと。


 他にもそんな事を言っている人は何人か居たらしいけど、その小屋が見つかる人と見つからない人が居るらしい。

 北西の山だという事は分かったので、まずはそこへと行く事にした。


 ………死体? そんなものはあいつらが片付けるでしょ。

 そもそもこっちを舐めたのが原因なんだし、僕は鎌倉に戻って舐められたという報告をすれば済むだけだ。

 その結果、町の奴らが攻められたって知らないよ。そもそも相手を舐めるのが悪い。




 町の寺に泊まった次の日。朝餉を飯屋で食べたら北西へと出発。

 黒馬に乗って一気に進み、話のあった北西の小山に入った。

 獣道みたいなところしかないけど進み、霊力を元に調べていく。


 土蜘蛛の時と同じで霊力の数が少ない。

 これはおそらく目的の妖怪が他の妖怪を食べているからだろう。

 そう思っていると、大きな霊力を発見した。

 僕はそちらに近付いていきつつ、ある程度の距離から古兵を四体出しておく。


 まずは守りの古兵を出しておくのが正しい。いきなり攻撃してくる可能性もあるからね。

 そう思って進んで行くと、そこには確かに小屋があった。

 ボロではなくて割としっかり丁寧に作られているのが分かる。


 そんな小屋を見つつ近寄ると、小屋の裏から鋭い声が飛んできた。


 「なにやつ! 事と次第によっては殺しますよ!!」


 「僕はここに住んでいる妖怪を退治しに来たんだけど、君が旅人を殺して食おうとした妖怪?」


 「えっ? 私は人間を食べようとした事など、随分前から無いけれど?」


 「えっ? どういうこと? 小山の小屋にそういう妖怪が住んでいるって聞いたんだけど……」


 「………とりあえず勘違いみたいね。傍迷惑(はためいわく)なこと……」


 そう言って小屋から出てきたのは、僕と同じような水干(すいかん)を着た女性だった。

 やたらに美人だけど、何故こんな人が山の中に住んでいるんだろう?


 ―――――――――――――――


 山姫 甲三級


 人間を食う妖怪として幾つかいるものの、この山姫は二百年ほど人間を襲ってはおらぬらしい。どうやら別の者が原因のようだぞ? お主が探しているのはこの者ではない


 ―――――――――――――――


 「あれ? 本当に人間を襲ってないんだ。

 神様の加護の眼で()たら、貴女が原因じゃないみたいだね?

 山の小屋もボロだったり綺麗だったりって言ってて、いまいち判然としないんだ」


 「………神の加護の眼。

 お前が土蜘蛛を退治した稀人(まれびと)(わらし)ね。女天狗殿から聞いているわ。

 それと、貴方が探している人を泊めて喰おうとしている者は、おそらくここから西へ行ったところの者でしょう」


 「知ってるの?」


 「知ってる。あいつは狂ってしまった者だから退治してやって。

 私のように正気を持つ前に狂ってしまってるの。

 ただし強い力を持っててね、私では勝てるかどうか分からないのよ。なので放っておくしかなかった」


 「その妖怪は?」


 「山姥(やまんば)

 私のように正気を保てない者は狂ってしまうの。そして山姥(やまんば)に成り果てる。

 ああなると、もうどうにもならないんだけれど、その分だけ強くなってしまうのよ。困った事に」


 「うーん………正気を保っていると山姫で、正気を保てないと山姥(やまんば)になる?」


 「そうとも言えるし、違うとも言えるわ。

 私達は元々はね、山女という妖怪なのよ。

 そこから正気を持つと山姫、正気を持てないと山姥(やまんば)になる。

 ただし山姫でも正気を失って狂うと山姥(やまんば)になるの。

 西の者はそうではないけれどもね」


 「つまり山姫から山姥(やまんば)になった訳じゃなく、元々から山姥(やまんば)?」


 「そう。そのまま強くなってしまったというわけ。

 山姥(やまんば)は見境無く人間や妖怪を襲うから強くなりやすいの。

 だから気をつけた方がいいわ」


 「分かった。ありがとう」


 「西の者を倒せたら、一度ここに戻ってきてちょうだい。お礼もあるし」


 「うん、そうする」


 そこで話を終え、僕は西の方へと向かっていく。

 それにしても元は同じ妖怪というのも変わってるね?

 それに山女なんていう妖怪、初めて聞いたよ。そんな妖怪、居たんだね。


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