0110
Side:黒金
僕の目の前には巨大な蜘蛛が居る。
その蜘蛛は胴体の上部分が人間の顔をしており、なにやら「ぶつぶつ」と言っているけど、何を言っているのかはサッパリだ。
まずは戦う前に神様の眼で視よう。
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土蜘蛛 甲一級
かつて土蜘蛛と呼ばれて蔑まれた、東国の者達の怨みと憎しみが凝固した妖怪。古くからの怨みと憎しみは強いので侮るでないぞ。これは特に大きいので、合身した大蛇で押さえ込んでしまえ
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神様が戦い方を教えてくれるみたいだ。こういうのは助かるね。
まずは古兵と猛兵を消して、と。
「<水兵・偽神大蛇>! 合身!!」
八体の大蛇を一体に纏め上げ、そして大蛇に土蜘蛛を押さえ込むように命じる。
それで押さえ込めたら、後は斬兵で切れば倒せるだろう。
そう思って大蛇に命令するも、土蜘蛛も激しく抵抗する。
大蛇は八本の首を使い、噛み付こうとしたり巻き付こうとするも、土蜘蛛は巧みにそれを避けて反撃してくる。
糸を吐きつけてきたりするんだけど、その糸は大蛇が引き千切る。
互いに詰め寄れないという戦いが続いているので、僕は斬兵に土蜘蛛の後ろに回るように指示。
斬兵は土蜘蛛の後ろに回るも、土蜘蛛は後ろに回った斬兵に糸を吐き掛けてきた。
その糸を斬兵が避けたその時、土蜘蛛の背後から大蛇が襲いかかる。
どうも大蛇は水兵だからか、陸の上では動きが鈍いみたい。
それでも動けない訳じゃないんだけどさ、どうしても動きが遅いんだよね。
これってもしかしたら八体が一体になって大きいからだろうか? だから重さで動きが悪いのかもしれない。
それはともかく土蜘蛛に絡みついた大蛇は噛み付き、相手の動きを弱めていく。
必死になって暴れる土蜘蛛だけど、空いている隙間から斬兵が切り込み、さらなる傷を与えていく。
何度も何度も繰り返し切っていると、土蜘蛛の抵抗が弱まってきて、最後には霊玉を残して消えていった。
やれやれ、大蛇と斬兵が攻撃してるのに、簡単には倒せないなんてね。
思っていた以上に時間が掛かってビックリする。
ここまで強いんじゃ、陰陽師が殺されるのも分かるよ。並の陰陽師じゃ無理だ。
むしろ強い陰陽師を何十人と用意しないと勝てないんじゃないかな? 源平の頃の大きな骨妖怪も強かったしね。
甲一級の妖怪って、そういう強さなんだと思う。
とりあえず大蛇を消して、斬兵に霊玉を拾ってもらい持って来てもらっていると、何かが空から降りて来た。
バサッバサッバサッバサッ………ストッ。
「ふむ。この辺りに居た土蜘蛛を倒したのはそなたか?」
「うん、そうだけど? そっちはいったい誰?
黒い翼が生えてるけど、そんな人は初めて見たよ」
いきなり空から降りて来たけど、黒い翼が生えている時点で人間じゃないのは分かってる。
妖怪なんだろうけど、こんな見た目の妖怪は聞いた事が無いね。
あと、何でお面を被ってるんだろう?
色々と気になるけど、まずは神様の眼で視てみよう。
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女天狗(烏天狗) 大七級
天狗の中でもそれなりに実力を持つ者の一体じゃの。日の本の妖怪を倒し秩序を守っている者なので戦う必要は無い。なぜ顔を面で隠しているのかは知らぬが、天狗の面とは隠す気があるのか?
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あの赤い鼻がやたらに長いお面は天狗っていうののお面なんだね。
確かに神様の言う通りだ。この妖怪も天狗なんだから、隠せてないと僕も思う。
なんの為にお面をしているのか、さっぱり分からないな。
「天狗の妖怪が僕にいったい何の用なの?
確かにここに居た土蜘蛛は倒したけど、僕は倒してこいと言われたから来ただけだよ。
そっちは何故ここに?」
「私は見回りをしているだけだ。
人間の手には負えん妖怪というのも世には居る。私はそれを監視したり時には倒したりしているのだ。
ここに居た土蜘蛛も監視対象だったのだがな。まさか倒されるとは思わなかった」
「んー? ……わざわざ監視しなくても、貴女が倒せばいいんじゃないの?
大七級って事は大妖怪なんだから、甲一級の土蜘蛛なら倒せるはずでしょ」
「………なぜ私が大七級だと?」
「僕は稀人で神様の加護の眼を持つんだ。
だから君が女天狗? 烏天狗? で大七級なのは視えてるんだよ。
そのうえ神様も、お面を着けてる理由は分からないって言ってるし」
「…………はぁ。神の加護があるならば、分かって当然か。
私が面を被っているのは有象無象の天狗や見習いが五月蝿いからだ。
………これで分かるか?」
「おお、綺麗な顔をしているね。……なるほど、美人だから周りが五月蝿いと」
「お前も美しい顔をしているから、同じように困ったりなどしているのではないのか?」
「そんな事は無いね? 襲ってきたヤツは全部殺してきたからかな?
そういう事をしてると変なのは寄ってこなくなるよ」
「………ぷっ、あははははははははは!
いや、驚いた。お前は凄いヤツだな。
秩序ある社会において、殺す事で秩序を作ろうとするとは。
いやいや、本当によくやるものだ」
そう言いながらお面を被る女天狗。
そういえばあの翼って寝る時に邪魔になったりしないのかな? 不思議だけど。
「どうした? こっちをジッと見て」
「いや、その翼って寝る時に邪魔になったりしないの? って思ってさ」
「そもそもだが、この翼は霊力で作っているだけなので消せるぞ。このようにな」
そう言うと、女天狗の背中の翼はパッと消えてなくなった。
凄いなー、翼が霊力で作れるなんて飛び放題じゃないか。いいなぁ……
「お前の表情で何を考えているかは分かるが、飛ぶのに結構な霊力を使うので遠くまでは飛べんぞ?
それでも結構な距離を飛ぶ事は可能だがな」
「どっち?」
「飛び上がったりするのに大きく霊力を使うのだ。
滑空と言えば分かるか? 風を捉えて飛ぶだけならば霊力は消費せん。
飛ぶのに重要なのは風を捉えられるかどうかだ。
これは修行を経なければ上手くはならんのでな」
「へー……」
「まあ、ここに居た土蜘蛛を退治したのは分かった。
あと、お前は勘違いしているが、ここに居た土蜘蛛を倒す場合、安全を考えれば私と同格の者がもう一人か二人必要だ。
お前みたいに霊兵がたくさん出せるわけでもないのでな」
「確かに一人じゃ大変かもしれないね。妖怪の格だけじゃ決まらないんだ」
「まあな。土蜘蛛は大きい事もあり、押し倒されると抵抗が難しい。
大きな者はそれだけで脅威とも言えるのだ。
……さて、私は見に来ただけなのでな。これで失礼する」
「おっと、僕もそろそろ戻らないとね。
あっ、そうそう。僕の名前は黒金だよ。そっちは?」
「私か? …………まあ、お前なら構わんか。
私の名は黒霧だ。黒い霧という字を書くのだよ。
では私は行く、さらばだ」
黒霧という天狗は走ったと思うと跳び上がり、そのまま黒い翼を出して飛んでいった。
あの天狗、思ってるよりも強いはず。正直に言って、あの土蜘蛛にだって一人で勝てるはずだ。
もちろん安全に倒すなら多い方がいいだろうけど、わざわざ必要かな?
一人で簡単に倒しそうだけど……まあ、いいか。さっさと帰ろう。
この霊玉は証拠として出さなきゃいけないから、鎌倉まで持って帰らないといけない。
黒馬で一気に駆け抜けたら、今日中に帰る事が出来るかな?
とりあえず町に戻って早めの昼餉を食べたら帰ろう。
思ってるよりも早く終わったから助かるよ。
見つけるのに時間が掛かるって事も考えられたからね。
それが無かった御蔭だろう。良かった、良かった。




