0109
Side:黒金
今日、僕は鎌倉から離れた山に来ている。
こちらは伊豆の方らしいんだけど、こっちの方で大きな妖怪が目撃されたらしい。
地元の人が鎌倉の武士に報告して、そこから僕に話があった。
すぐに僕に話があったと言うよりも、元々は地元の陰陽師に調査を頼んだらしいんだけど、その人達が帰ってこない。
だからこそ僕にまで話が来たんだそうだ。
皆には心配されたけど、僕は一人でも問題ないので来ている。
というより、他の人が居ると邪魔なんだよね。
逃げるにしたって一人の方が良いし、他の人を助けながらじゃ簡単には逃げられない。
僕は伊豆の下田というところに来ている。近くに町があるので話を聞きに行こう。
町に着いた僕は陰陽所に行き、まずは話を聞く。
ここで話を聞くのが一番手っ取り早いからね。
それと執権の命令書もあるから大丈夫だと思うけど、子供に見えるから陰陽師だと信用されないかもしれないかも。
「すみません。この辺りで大きな妖怪が出るって聞いたんですけど、それってどこですか?」
「どこで聞いたのか知らないが、童が首を突っ込む事じゃねえ。とっとと帰りな」
「やっぱりそうなったか、じゃあ、これ。執権様からの命令書ね」
僕はそう言って執権からの命令書を見せる。
渡したのを読んでいくと、段々と困惑した顔をし始めた。
まあ、僕が稀人で協力しろと書いてあるからね。
納得はし辛いと思う、納得はね。
「お前さんが伝説の稀人って言われてもなぁ……
俄かには信じられねえんだが?」
「まあ、そう言うと思ったよ。
<古兵・勇壮猛夫>! <猛兵・剛射隼人>! <斬兵・豪壮武辺>!
これで分かった?」
僕は古兵、猛兵、斬兵を一気に呼び出す。
中で僕を見ながらニヤニヤしていた人が居たんだけど、古兵達を見た瞬間に黙ったよ。
僕の霊兵は見た目も強そうだからね、舐めていると切るよ。
「………これがお前さんの力、か?
執権様からの命令書って事は鎌倉から来たんだろうし、一人しか見えねえから変だとは思ってたが……
こんなのが居たんじゃ賊も逃げるわな」
「これで分かってもらえたと思うけど、だから僕一人で来たんだよ。
それで、大きな妖怪の事に関して聞きたいんだけど」
「おう、噂の大きな妖怪な。あれここから西の方の山で目撃されてんだ。
ただし行って帰ってきたヤツがほとんど居ねえ。
帰ってきた奴らは居るが、それは大きな妖怪とやらに出会えてない奴らばっかりだ」
「ふーん。
となると、出会った人は問答無用で殺されてるって事かぁ。甲級の可能性が高そうだね。
大級になると分からないけど、甲一級までなら倒した事があるから、たぶん大丈夫だと思う」
「甲一級! お前さん凄いな。そこまで大物を倒した事があるなら、すまねえが頼むぜ。
大きな妖怪の話はいつまで経っても消えねえんだ。
不気味でなぁ、オレ達もどうにかしてえんだが……」
「とりあえず僕が行ってくるよ。何かここっていう特徴とかある?」
「大きな妖怪が出るんじゃねえかと言われてるところでは、「バリバリボリボリ」という音がするらしい。
誰もが音だけで、音の原因を見ちゃいねえんだがな。恐くてよ」
「となると何かが喰われてるんだと思うけど、妖怪を喰ってるのかな?
ま、とりあえず妖怪の少ない山を探すか。ここから西らしいし」
「おう。すまねえが頼むわ。
いつまで経っても噂が消えねえんでな、恐がっちまった奴らは離れて行ったんだ。
このまま離れて行かれても困るんで、頼むよ」
「分かった」
どうやら陰陽所だけで十分な話が聞けたようだ。
僕は猛兵と斬兵を消すも、古兵は出したままで移動する。
もちろん執権の命令書は返してもらったよ。
……陰陽所の中の奴らが後ろをつけてくると思ったけど、それは無いみたいだ。
まずは下田の町で今日は休んで、明日から探そう。
僕はそう思い、泊まれる場所を探す。すると町中の寺で休む事が出来た。
小銀板一枚を支払う羽目になったけど仕方ない。
古兵で守り影兵の上に寝れば、どこでも寝られるんだけど、雨に濡れるのは嫌だからね。
もちろん雨が降るかは分からないんだけどさ。
それでも雨が降った時の事を考えておいた方がいい。雨が降ってからじゃ手遅れだからね。
僕はお寺の人に言って町中で食事をする為に寺を出た。
そして適当な飯屋に入って食事をし、ゆっくりと歩いて戻る。
寺の人に案内された場所は他の坊主も寝ている所だったが気にせず、僕は古兵と影兵を出して寝転がった。
「いったいなんじゃ、それは! おのれは妖怪か!!」
「違うって。これは霊兵と言って、陰陽師の中には使える人も稀にいるんだよ。
で、これは僕の霊兵で古兵と影兵。
古兵は古の兵の格好をしていて、影兵は名の通り影のような兵。
どっちも身を守る為に出しただけ」
「身を守るって……」
「申し訳ないんだけど、身を守るのが癖になってるんだ。
武士の中にも寝込みを襲ってくるヤツが居るし、寺でもそういう事があるって聞くからさ」
「………ここでは聞かんが、他の寺ではあったと聞くな。
お主のような童が身を守らんとするのも分からぬではない。
襲うヤツは童でも襲うというし」
「拙僧も聞いた事があるな。
あまりに無体な事をすると思うが、何故そのような事をするのやら。
……おっと、大人しく寝なければ五月蝿いぞ」
「そうだな。怒られる。
そなたも身を守るのはよいが、さっさと寝るとよい。
見回りが来た時に五月蝿いと咎められるでな」
「分かった」
僕は影兵の上に寝転がり、そのまま目を瞑る。
古兵も僕の近くに居るし、影兵の中に埋まるようにして寝ているので安心だ。
何かあっても古兵と影兵を突破するのは簡単じゃない。
そして何かあったら起きて大量に呼び出せばいい。それで死ぬ事は無いはずだ。
時間さえ稼げれば逃げられるだろう。
それじゃ、おやすみなさい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
寺に泊まった次の日。
僕は朝早くに寺を出ると、飯屋に行って食事をしてから西の山へと向かう。
とにかくこちらの方で霊力の反応が少ない山を探っていくしかない。
とはいえ陰陽師が歩いて行ける場所だから、そこまで遠くはないはず。
黒馬に乗ってウロウロとしていると、一つの山の反応が妙に少ないのが分かった。
となるとそこの可能性が高いね。そう思った僕は黒馬で一気に進んで行く。
疲れない黒馬は移動が早くて助かるよ。
そのまま黒馬を走らせると、大きな霊力を発見した。
間違いなくこの大きな霊力こそが、町でも聞いた大きな妖怪だろう。
僕はそれに向かって黒馬を走らせる。
近くまで行くと古兵を四体、猛兵を四体、斬兵を四体出して準備。霊兵を前に出して慎重に進む。
強い妖怪だろうから、多分だけど僕の事に気付いているだろう。ここは慎重に動くべきだ。
一番前が古兵、次が斬兵、そして後ろに猛兵。で一番後ろに黒馬に乗った僕。
そんな形で進んで行くと、木が少ない広場みたいな場所にそいつは居た。
「キシキシキシキシキシ……」
それは巨大な蜘蛛で、体の上の部分は人の顔をしている。
こんな妖怪を見たのは初めてだけど、物凄く大きい。
源平の頃に出会った、あの大きな骨妖怪ほどじゃないけど、十分以上に大きいな。
小さな小屋ぐらいの大きさの蜘蛛って、どう考えても大き過ぎるでしょ。
しかも胴体の上部分が人の顔って意味が分からないしさ。
いったい何があればこんな妖怪が生まれるんだろう?
どんな怨みや憎しみが元になっているのか知らないけど、ここで僕が退治させてもらうよ。
流石にこんな強そうなのは野放しに出来ない。




