0107
Side:黒金
又太郎と越前の方の子供が生まれて一年が過ぎた。
今日は嘉暦三年の七月十二日だ。
呆れてくるが、未だに蝦夷の事は終わっておらず、ついに和談が成立したらしい。
要するに君達の要望を叶えるから、もう暴れないでね。って事になる。
どう考えても鎌倉の負けでしかなく、これには内管領と外戚の双方に対して厳しい目が向けられた。
やらかしたのは当時の内管領だけど、なあなあにして終わらせたのは外戚らしいんだ。
鎌倉の名が落ちるような事を許したからか、外戚の方にも相当の批判が向いている。
やはり舐められたら負けの武士なんだなと、こういうところを見ていると思う。
源平の頃とは違うけど、その本質はあんまり変わってない気がするね。
それが善い事か悪い事かは知らないけどさ。
それはともかく、これで決着はしたようだ。
やっと蝦夷の事が終わったと思うも、誰もが納得のいかない終わり方になってしまってる。
このままだと良くないんだけど、誰も内管領と外戚を黙らせる事が出来ない。
今の執権も従ってるだけだし、いつまでこんな事が続くんだろうね?
そのうち誰かが立ち上がって打倒されても文句は言えないよ。
かつての平氏だって、源氏が立ち上がって潰されたんだしね。
しかもここは鎌倉で頼朝の拠点だったところだよ。
にも関わらず、誰かが立ち上がるっていう事を考えもしないのかな?
僕には理解できないね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日は七月三十日。なぜか急に山に行きたいと言い出した赤橋の方。
仕方なく男装して連れて行く羽目に。ちなみに理由は息抜きだ。
今までも何度か山に行きたいと言っていたので、それが叶った形になる。
男装しているのは女性の姿だと、それだけで襲ってくる奴らが居るからだ。
まあ、出てきたところで殺すんだけど、安全ならそっちの方が良いに決まってる。
ちなみに目立たないように又太郎と仙太郎しか来ていない。当然、僕も居る。
「山に来るというのも良いものですね。
山が彩づいているのは見ますが、しかし手で触れた事はありませんでしたから。
殿方はこういう事をされておられるのですか。
少々ズルい気はします」
「とはいえ危険な所でもあるからな。
少ないし鎌倉から近い山だからいいが、遠くに行くと賊がおるのが当たり前であったりもする。
鎌倉は豊かだからな。そこに繋がる街道や山道で人を襲うのだ」
「持っている荷や銭を奪おうと襲ってくるのです。
賊というのは殺しても殺しても出てきましてね、いつまで経っても居なくならないのですよ。
それに、それだけではありませんし」
「<猛兵・剛射隼人>! やれ!」
「「!!!」」
「あのように妖怪も出てきます。こちらの方が恐ろしいかもしれません。
なので女子を外に出そうとしないのも、仕方がない事なのです。
武士の家の男子とて、なかなか外に出してもらえませんので」
「では賊はどうやって山で生きているのでしょう? 妖怪が出るのですよね?」
「奴らの中には【霊波】が使える者がおるのだ。
陰陽師が小遣い稼ぎに教えたりするのでな、その所為もあって山賊でも妖怪が倒せたりする。
古き時には修験者がやっていた事ではあるのだが……今は僧兵も使えるな」
「やっぱりそうだったんだ。
昔は寺の連中も妖怪に対して戦う力を持ってなかったんだけどね。
誰かが修験者から習ったかな?
そもそも元々の陰陽師は符術と式神が主だったから、【霊波】を使う人って多くなかったんだよ」
「物語で見る陰陽師ですね。
符を飛ばして火を放ったり、土の塊を放つのでしょう?
それが当たり前だと思っていたのですが……」
「なぜか武士みたいになってるんだよねえ、今の陰陽師って。
いや、どちらかと言うと、家を継げなかった武士の子が陰陽師を名乗ってる?
そっちの方が正しい気がする」
「それはあるかもしれんな。
【霊波】を習えば使えるし、それが使えれば陰陽師として銭は稼げるし生きていける。
もちろん弱い者は妖怪に殺されてしまうがな。
とはいえそれは仕方ない。戦でも変わらん」
「キー! キー!」
「ありゃりゃ、小猿鬼か。あれって意外とすばしっこくて面倒なんだよね。
又太郎は石を投げられてたし」
「言うな。まさかそんな事をしてくる妖怪が居るとは思わなんだのだ。
しかもすぐに逃げては石を投げてくるしな。だからこいつは嫌いだ」
「この妖怪は弓矢ですら倒せない事が多いそうですからね。
しっかりと符術が使えなければ、おそらく対処が難しいのでしょう。
つまり昔ながらの陰陽師でないと、非常に倒しづらいのです」
「猛兵、やれ」
「「!!!」」
ズドドッ!!
「ギョベェッ!?」
「木の枝の上に居て笑ってましたけど、矢を受けて落ちてしまいましたね。
相手を侮るとああなるのでしょう。
それはともかく、お肉はどうやって狩っているのですか?」
「肉ではなく猪や鹿、もしくは鳥だがな。
稀に大物である熊を獲ってくる事もあるが、アレは黒金だから出来る事だ」
「グルルルルルル………!!」
「そう言っていたら出てきましたよ?
こう、どうして上手く出てきてくれるのかは知りませんが、ちょうどいいので黒金が狩るでしょう。
私達は動かないのが一番いいので、赤橋の方も動かないようにお願いします」
「分かりました」
「<斬兵・豪壮武辺>! 殺せ!」
「!!!」
「グラァァァァァァァァァッ!!!」
長い剣を持った斬兵が現れたからだろうけど、熊は一気に斬兵に近付いて噛みつきに来た。
しかし斬兵はそれを後ろに跳んでかわした後、縦に真っ直ぐ切り裂く。
その結果、熊の頭から中身が零れ落ちて死亡。その場に倒れた。
僕はすぐに影兵を四体だして、血抜きと冷却と虫や汚れの処理をさせる。
熊の周りを影兵が囲んでしまい、中の熊がまったく見えない。
とはいえ影兵はやる事をきっちりやってくれたので終わり、残ったのは熊の死体だけだ。
影兵は離れた所に血などを捨てに行き、僕は包丁を持って熊の解体を始める。
戻ってきた影兵に手伝ってもらいながら切り分け、要らない物は穴を掘って捨てる。
最後は影兵に持たせて終わりだ。
「熊の肉は十分過ぎるほど大きいから、この一頭で終わりだね。
帰って保存しなきゃいけないし、さっさと山を離れよう。見るところも見たしね」
「そうだな。熊の肉も手に入ったし、これ以上いても別のに襲われるだけだ。
あたらに殺したいわけでもないので、さっさと山を下りるに限る。
そんなに大量に持って帰っても食べられんしな」
「ですね。腐らせても困ります。
また来る事も出来ますので帰りましょう」
そう言って僕達は帰りを急ぐ。赤橋の方が「まだ居たい」とか言わなくて良かったよ。
とはいえ熊の死体には顔を歪めていたので、あまり見たいものではなかったんだろう。
とはいえ、お肉の確保はああやってやるんだしね。
知る事が出来て良かったんじゃない? って思う。
自分の食べている物がどこから来ているかとか、知らない人も居るんだよ。
実際、僕も買っているだけで、魚がどうやって泳いでるかとか知らないしさ。
海には行った事があるけど、壇ノ浦は合戦だった。
なので魚とかは見ていない。
そもそもだけど、そんな余裕は無かったしね。
矢が雨のように降ってきたしさ。
その前の屋島攻めは普通に陸を進んだだけだし、僕って殆ど海に行った事が無いんだ。
行ってみたいという気は無いわけじゃないけど、無理に行きたいとも思わない。
蹴り落とされた時の苦しさは忘れてないから。




