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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 又太郎と越前の方の子供が生まれて一年が過ぎた。

 今日は嘉暦(かりゃく)三年の七月十二日だ。

 呆れてくるが、未だに蝦夷(えぞ)の事は終わっておらず、ついに和談が成立したらしい。


 要するに君達の要望を叶えるから、もう暴れないでね。って事になる。

 どう考えても鎌倉の負けでしかなく、これには内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)の双方に対して厳しい目が向けられた。


 やらかしたのは当時の内管領(ないかんれい)だけど、なあなあにして終わらせたのは外戚(がいせき)らしいんだ。

 鎌倉の名が落ちるような事を許したからか、外戚(がいせき)の方にも相当の批判が向いている。


 やはり舐められたら負けの武士なんだなと、こういうところを見ていると思う。

 源平の頃とは違うけど、その本質はあんまり変わってない気がするね。

 それが善い事か悪い事かは知らないけどさ。


 それはともかく、これで決着はしたようだ。

 やっと蝦夷(えぞ)の事が終わったと思うも、誰もが納得のいかない終わり方になってしまってる。

 このままだと良くないんだけど、誰も内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)を黙らせる事が出来ない。


 今の執権も従ってるだけだし、いつまでこんな事が続くんだろうね?

 そのうち誰かが立ち上がって打倒されても文句は言えないよ。

 かつての平氏だって、源氏が立ち上がって潰されたんだしね。

 しかもここは鎌倉で頼朝の拠点だったところだよ。


 にも関わらず、誰かが立ち上がるっていう事を考えもしないのかな?

 僕には理解できないね。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は七月三十日。なぜか急に山に行きたいと言い出した赤橋の方。

 仕方なく男装して連れて行く羽目に。ちなみに理由は息抜きだ。

 今までも何度か山に行きたいと言っていたので、それが叶った形になる。


 男装しているのは女性の姿だと、それだけで襲ってくる奴らが居るからだ。

 まあ、出てきたところで殺すんだけど、安全ならそっちの方が良いに決まってる。

 ちなみに目立たないように又太郎と仙太郎しか来ていない。当然、僕も居る。


 「山に来るというのも良いものですね。

 山が(いろ)づいているのは見ますが、しかし手で触れた事はありませんでしたから。

 殿方はこういう事をされておられるのですか。

 少々ズルい気はします」


 「とはいえ危険な所でもあるからな。

 少ないし鎌倉から近い山だからいいが、遠くに行くと賊がおるのが当たり前であったりもする。

 鎌倉は豊かだからな。そこに繋がる街道や山道で人を襲うのだ」


 「持っている荷や銭を奪おうと襲ってくるのです。

 賊というのは殺しても殺しても出てきましてね、いつまで経っても居なくならないのですよ。

 それに、それだけではありませんし」


 「<猛兵・剛射隼人>! やれ!」


 「「!!!」」


 「あのように妖怪も出てきます。こちらの方が恐ろしいかもしれません。

 なので女子(おなご)を外に出そうとしないのも、仕方がない事なのです。

 武士の家の男子(おのこ)とて、なかなか外に出してもらえませんので」


 「では賊はどうやって山で生きているのでしょう? 妖怪が出るのですよね?」


 「奴らの中には【霊波】が使える者がおるのだ。

 陰陽師が小遣い稼ぎに教えたりするのでな、その所為もあって山賊でも妖怪が倒せたりする。

 古き時には修験者がやっていた事ではあるのだが……今は僧兵も使えるな」


 「やっぱりそうだったんだ。

 昔は寺の連中も妖怪に対して戦う力を持ってなかったんだけどね。

 誰かが修験者から習ったかな?

 そもそも元々の陰陽師は符術と式神が主だったから、【霊波】を使う人って多くなかったんだよ」


 「物語で見る陰陽師ですね。

 符を飛ばして火を放ったり、土の塊を放つのでしょう?

 それが当たり前だと思っていたのですが……」


 「なぜか武士みたいになってるんだよねえ、今の陰陽師って。

 いや、どちらかと言うと、家を継げなかった武士の子が陰陽師を名乗ってる?

 そっちの方が正しい気がする」


 「それはあるかもしれんな。

 【霊波】を習えば使えるし、それが使えれば陰陽師として銭は稼げるし生きていける。

 もちろん弱い者は妖怪に殺されてしまうがな。

 とはいえそれは仕方ない。戦でも変わらん」


 「キー! キー!」


 「ありゃりゃ、小猿鬼か。あれって意外とすばしっこくて面倒なんだよね。

 又太郎は石を投げられてたし」


 「言うな。まさかそんな事をしてくる妖怪が居るとは思わなんだのだ。

 しかもすぐに逃げては石を投げてくるしな。だからこいつは嫌いだ」


 「この妖怪は弓矢ですら倒せない事が多いそうですからね。

 しっかりと符術が使えなければ、おそらく対処が難しいのでしょう。

 つまり昔ながらの陰陽師でないと、非常に倒しづらいのです」


 「猛兵、やれ」


 「「!!!」」


 ズドドッ!!


 「ギョベェッ!?」


 「木の枝の上に居て笑ってましたけど、矢を受けて落ちてしまいましたね。

 相手を侮るとああなるのでしょう。

 それはともかく、お肉はどうやって狩っているのですか?」


 「肉ではなく猪や鹿、もしくは鳥だがな。

 稀に大物である熊を獲ってくる事もあるが、アレは黒金(くろかね)だから出来る事だ」


 「グルルルルルル………!!」


 「そう言っていたら出てきましたよ?

 こう、どうして上手く出てきてくれるのかは知りませんが、ちょうどいいので黒金(くろかね)が狩るでしょう。

 私達は動かないのが一番いいので、赤橋の方も動かないようにお願いします」


 「分かりました」


 「<斬兵・豪壮武辺>! 殺せ!」


 「!!!」


 「グラァァァァァァァァァッ!!!」


 長い剣を持った斬兵が現れたからだろうけど、熊は一気に斬兵に近付いて噛みつきに来た。

 しかし斬兵はそれを後ろに跳んでかわした後、縦に真っ直ぐ切り裂く。

 その結果、熊の頭から中身が零れ落ちて死亡。その場に倒れた。


 僕はすぐに影兵を四体だして、血抜きと冷却と虫や汚れの処理をさせる。

 熊の周りを影兵が囲んでしまい、中の熊がまったく見えない。

 とはいえ影兵はやる事をきっちりやってくれたので終わり、残ったのは熊の死体だけだ。


 影兵は離れた所に血などを捨てに行き、僕は包丁を持って熊の解体を始める。

 戻ってきた影兵に手伝ってもらいながら切り分け、要らない物は穴を掘って捨てる。

 最後は影兵に持たせて終わりだ。


 「熊の肉は十分過ぎるほど大きいから、この一頭で終わりだね。

 帰って保存しなきゃいけないし、さっさと山を離れよう。見るところも見たしね」


 「そうだな。熊の肉も手に入ったし、これ以上いても別のに襲われるだけだ。

 あたらに殺したいわけでもないので、さっさと山を下りるに限る。

 そんなに大量に持って帰っても食べられんしな」


 「ですね。腐らせても困ります。

 また来る事も出来ますので帰りましょう」


 そう言って僕達は帰りを急ぐ。赤橋の方が「まだ居たい」とか言わなくて良かったよ。

 とはいえ熊の死体には顔を歪めていたので、あまり見たいものではなかったんだろう。

 とはいえ、お肉の確保はああやってやるんだしね。

 知る事が出来て良かったんじゃない? って思う。


 自分の食べている物がどこから来ているかとか、知らない人も居るんだよ。

 実際、僕も買っているだけで、魚がどうやって泳いでるかとか知らないしさ。


 海には行った事があるけど、壇ノ浦は合戦だった。

 なので魚とかは見ていない。


 そもそもだけど、そんな余裕は無かったしね。

 矢が雨のように降ってきたしさ。

 その前の屋島攻めは普通に陸を進んだだけだし、僕って殆ど海に行った事が無いんだ。


 行ってみたいという気は無いわけじゃないけど、無理に行きたいとも思わない。

 蹴り落とされた時の苦しさは忘れてないから。


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