0106
Side:黒金
今日は嘉暦二年の一月一日。
つまり正月なんだけど、僕は今年も執権の所には行っていない。
特に次の執権で揉めたりとかしていたから、あまり行きたくないんだよね。
なんでも金沢流北条家である北条貞顕を内管領の長崎氏は推していたみたい。
でも赤橋流北条家と外戚の安達氏は執権の弟を推していたんだって。
で、内管領の北条貞顕が執権に就任したって聞いたんだ。
でもさ、連署っていう執権の補佐役も決まらないまま、最後は出家して辞める羽目になったみたい。
執権になれたのは十日だけだったって言うんだから、物凄い抵抗と反発があったんだと思う。
っていうか、こんな争いも内管領と外戚はやってたんだね。
そこに執権も絡んでたみたいだけど。
その後も執権の成り手がいないままに過ぎて、最後は北条(赤橋)守時という人が執権に就く事で決着した。
揉めに揉めてるのは執権も変わらないみたいだ。
なんとも言えないね。本当。
「ほんにのう。前執権様も何をやっておられるのかと思うわ。
とはいえ自分の子を次の執権か、その次の執権にされたいのであろう。
それは仕方ないとも思うがな」
「まあ、新しい執権様が就任されたのだから良かったではないか。
あのままズルズルと続いておったら困っておったところだ。
今の執権様も相変わらずであられるが……」
「内管領と外戚が今も力を持ったままですからね。仕方がないと思います。
なにより、その状況は変わっていませんので……」
「そういえば、この餅は黒金が搗いてくれたんだったな。
実際にやったのは古兵と影兵らしいが」
「そうだね。古兵が杵で搗いて、影兵が捏ねたよ。
影兵は汚れなんて付かないし、古兵は十分な力で搗き続けられるからさ。
後は任せておけば、美味しいお餅の出来上がり」
「それは凄いですね。赤橋家では頑張って男衆が搗いていましたよ」
「我が家でも変わらんなぁ。
黒金ぐらいだろう、霊兵に餅つきをさせるのは。
とはいえ、その方が楽だと言ったらそれまでなのだろうが……」
「うん。とはいえ他の男衆に混じって臨時にやっただけなんだけどね。
人手が足りないっていうから手伝っただけだよ。
そもそもだけど、もち米が高いから滅多にした事は無いしさ。京の都でも数回かな?」
「そんなに少ないのか?」
「さっきも言ったけど、もち米って高いんだよ。
だから平民が食べるのは難しいかな? 数年に一回買って搗くぐらい?
それも臼と杵を持っている人に借りに行ったりしなきゃいけないしね」
「京の都と言っても、平民はそんなものなのですね。
もっと豪勢にしているのだと思いました」
「平民は平民だよ。豪勢にしているのは武士と公卿や公家でしょ。
皇族は当たり前だけど、公卿や公家でも「あれ?」っていう人は居るよ。
あそこ貧しくなったのかな? っていう噂はすぐに流れるから」
「それはそれで厳しいのう。
その噂一つで公卿や公家の面目がどれほど傷つけられるか。
だから必死になって体裁を取り繕うのであろうが、無駄な銭を使い過ぎな気がするぞ」
「それもまた公卿や公家の面目なのですから、どうしようもないのでは?
面目を傷付ける訳にもいきませぬし。
帝か院が<質素倹約令>でも出されるしかないと思います」
「ですね。私も兄上の申される通りだと思います。
流石に帝か院が仰るしか道は無いでしょう。
でなければ身代が傾くまで見栄を張りかねないと思いますし」
「それもまた凄いですが、都の方々ならやりそうですね。
そういう方々だとお見受けしますし」
僕もそう思うよ。あいつらは武士とは違うところで命を懸けてる気がする。
それが善いか悪いかで言えば、絶対に悪い事だろうけどね。
それでも武士と同じく言っても聞かないんじゃないかな?
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今日は六月の十八日。またもや又太郎の悪癖が炸裂した。
仙太郎は知らない事や初めての事だと、すぐに否定する。
それが仙太郎の悪癖だ。未だに治っていない。
じゃあ、又太郎の悪癖は?
「又太郎殿、孕ませた女子が居るとはどういう事ですか!!」
「申し訳ない。一目惚れであったのだ。
駄目だと分かっていたのだが、駄目だと思っているほどに抗い難く……」
「なんという事をするのです。
そもそも女子が子を産むというのは大変なのですよ。
私は産んだ事が無いとはいえ、その大変さは教えられています。
にも関わらず軽々にこのような事をされては困るのですよ!」
「本当に面目次第も無い」
そう、またもや女性との間に子供を作ったらしい。又太郎は本当にこの悪癖がある。
なぜ駄目だと言われた事をするんだろうか?
不思議で仕方がないけど、それが又太郎だと言ったらそれで終わりなんだよね。
「又太郎殿。越前殿を側室にするのは仕方がないでしょう、放り出す方が問題です。
しかし代わりにその子は認めません。
私は正室として、その子を認めるわけにはいかないのです。分かりましたね?」
「う、うむ。分かった。
えーっと、竹若丸は……」
「は? どういう事ですか!?」
思わず義観さんと仙太郎が天を仰ぎ、金沢の方と上杉の方が溜息を吐いた。
又太郎って本当に隠せないよねえ。
自分から言い出すんだから、揉め事を起こしたいとしか思えない。
結局、竹若丸の事も白状させられたが、この子に関しては赤橋の方も認める事にしたらしい。
どうやら相手の女性が既に他の武士の妻だからだそうだ。
その子も放ってしまうと天涯孤独になってしまうので、流石にそれはしないとのこと。
それにしても、どうして又太郎は悪癖が治らないんだろうね?
そう思ったけど、そもそも仙太郎も治ってないし、どっちもどっちだった。
結局この兄弟は、って感じ。
どうやら生まれてある程度育ったら、寺に入れられるそうだ。
これは子供に対する事と言うより、又太郎の悪癖を止めさせる為にやるみたい。
越前殿も居るけど、何も言っていない。仕方ないと思っているんだろう。
どうやら子供を教育するだけじゃなくて、どの子供を認めるかも正室の権利みたいだ。
なので正室に認められない子は、その父親の子とは認められないんだって。
流石にそれをやったのは又太郎だし、どうしようもない。
相変わらずだけど、どうして周りに説明しないんだろうね。
自分勝手にやって隠せなくなってから大事になる。
又太郎は前もやらかしたけど、本当にこの悪癖は治ってくれないと困るよ。
子供が可愛そうだと思わないのかな、本当。
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今日は七月一日。
まだ揉めている蝦夷に大して、宇都宮高貞と小田高知を派遣したんだって。
未だに治まってないんだから呆れるしかない。いつまで争い続けるつもりなんだろう?
僕達は呆れながらも、この先を話し合う。
といっても、僕はもっぱら聞き役だけどね。
「やはりワシの読み通り治まる事は無かったの。
当たってほしくはなかったが、流石に早々治まったりはせん。
ここまで揉め続けた以上は、双方に一定の何かが無ければ無理じゃ。
ただしそんな裁定をすると、また鎌倉の名が落ちかねんがの」
「なあなあで終わらせてしまうからか。
最初から双方にある程度を渡して手打ちにしていれば、こうはなっておらんのであろうがな。
それを言っても遅いし、なにより内管領が賄賂でやらかしておる」
「そうよ。結局はそこなのだ。
それさえ無ければやりようはあったというのに、それ一つで何をやっても鎌倉の名が下がる。
まっこと碌でもない事をやってくれたものよ。
お主らも賄賂など受け取るな、突き返せ」
「当然です! そのような物を受け取るなど、後で悪い結果になるだけでしょう」
「贈り物はともかく賄賂はいかんな」
「贈り物も賄賂では?」
「そうするとこっちからも贈れぬようになるぞ? 流石にそれはマズかろう。
足利家としては色々と一族や庶家にも贈らねばならん立場だ。
流石に贈り物を否定する訳にはいかんよ」
「そうじゃの。それに受け取らんとなれば面目がどうだと騒ぐ者もおる。
賄賂は悪い事ではあるが、全てが全て悪いとは言えん。
仙太郎は最初から贈り物は受け取らんと言うておけばよい。
それなら面目を言い出したりはせんであろう」
「そうですね。後で問題になるのは嫌なので、最初から受け取らない事を言っておきます」
色々と大変なんだね、家が大きいと。




