【26】救出
居酒屋の一室に閉じ込められた私達が、警察介入の元、救出されたのは、夜中の11時頃だった。
私達が使用していたこの店で一番広い個室は玄関から廊下で繋がっていたので気づかなかったが、実は建物が別の「離れ」になっていた。
元は、倉庫に使用していた建物なのだそうだ。それを居酒屋の個室とする為、和風に改築し、建物を繋げてあった。無理に改築した弊害で、この個室を単独で施錠しようとすると、特殊なやり方をしなくてはいけなかった。
簡単に言えば、電動雨戸を閉めるような形で、建物ごと施錠をするのだそうだ。
その、電動雨戸のシステムに故障があり、客である我々8人が閉じ込められる形になってしまった。
……そのように、説明を受けた。
柳君が電話した110番通報はちゃんと警察に届いていて、お店の人も、私達を助け出すためにちゃんと動いていたらしい。
しかし、セキュリティの高さを謳った最新式の電動シャッターは、頑丈だった。元々、玄関等の、他の出入り口があることを想定してつけられる雨戸なので、容易に壊せるようにはできていなかったそうだ。
システムの故障をメーカーに連絡し、修理をしてもらったが、営業時間外ということでメーカーの方も対応が遅く、開錠するのに、かなり時間がかかってしまった、ということだった。
スマホの電波が届きにくいのは、立地的に元々のことで、雨戸が閉まった影響で余計につながらなくなったのだろう、と言われた。
助け出された時、私たちは、なぜか全員寝ていて、酒気帯びの状態だった。
全員が、生きていた。
長時間にわたり、閉鎖環境にあったことからか、一部、錯乱状態の発言をする者もあった。
しかし、皆、健康状態に問題はなく、傍目には何の問題もあったようには見えなかった。
警察は、この離れの個室が消防法に違反する可能性があると指摘し、別途店に指導をする旨を私達に伝えてきた。もし、希望するならば、個人で被害届を出すこともできるが、どうするか、と聞かれた。
私は断った。他の皆も、とりあえず帰宅したいと言った。被害届は、後日でも出せる、とも言われた。
警察による、簡単な事情聴取のようなものがあり、12時前には、帰宅を許された。
店からは、とりあえずのお詫びとして、封筒に入った現金をもらった。
中には1万円が入っていた。
一晩を台無しにされたことへのお詫び金としては、少ないようにも思えるが、過失ではなかったし、直接何らかの健康被害を受けたわけでもない為、妥当な額のようにも思える。
対象が8人もいることを考えれば、これでも精いっぱい誠意を込めた額なのである。……と、いうようなニュアンスのことを、店長本人が申し訳なさそうに言っていた。
確かに1万円×8人分ならば8万円であり、大金だ。
連絡先を教えてもらえれば、後日、改めてお詫びに伺う、と店長に言われたが、少なくとも私は、それを望まなかった。
「閉じ込められている時に、変な夢を見た」、と言ったのは御堂君だった。
誰も何も言わなかったけれど。
少なくとも、私は内心で『私も見た』と同意した。
皆、疲れ切っていたので、タクシーを呼ぶことにした。
家が同じ方角の人同士で乗り合わせて、挨拶もそこそこに、散り散りに帰って行った。
夢のことは、誰も話題にしなかった。
私は、丹藤君と一緒のタクシーに乗った。
タクシーの中でも、私たちは無言だった。
他のタクシー組の方が、どんな話題をしたかは知らない。
少なくとも、私たちはタクシーの運転手さんからの質問の回答以外、一言もしゃべらなかった。
家に帰って、それから、お風呂に入って、軽く残り物のご飯を食べた。
私が帰宅したのは夜中の1時近かったけれど、家族は何も言わなかった。私が居酒屋の個室に閉じ込められた話すら、伝わっていないようだった。
私は自室に閉じこもり、ベッドの前に立った。
そして、苛立ちを込めて、スマホを思い切りベッドの布団の上に投げつけた。
やり場のない怒りを八つ当たりとして込められたスマホは、ぽふっと布団に埋もれただけだった。
変な夢だった?
あれが、夢のわけがない。
信じられない。
閉じ込められた後の記憶が無くて、全員酒気帯びで寝ていた、なんて、どう考えても、おかしい。最初の一杯のアルコールしか給仕されなかったのに……しかも、閉じ込められて相当時間が経っていたのに、全員酒気帯びになっているなんて、説明がつかない。
そもそも、私は「夢」の出来事を全部、鮮明に覚えている。
夢じゃない。
何らかの力で、夢になった?
────つまり、これが、ハッピーエンドっていうことなの? …………どこが?
全然、納得いかない。
…………だけど、死んだと思った人たちが全員、生きていたのは良かった。
私が願ったおかげで、死ぬ運命から外れたのかは分からない。
とにかく、全員生きていて、1人1万円をもらって、無事に帰宅できた。
悲惨な経験も、所詮は夢の出来事として、風化するはずだ。
だったら、もしかしたら、これが一番良い結末なのかもしれない。




