【25】ゲームクリア
本当に、死んでしまった。
私は皆の死体から目を逸らし、茫然とその場に立ち竦む。
これで、私以外の、皆が死んだ。
悲しい。
それ以外に、どういえばいいのだろう。
別に、今日知り合ったばかりの、知らない人達だったけれど。
罪悪感と、無力感が重く背中に圧し掛かってくる。
「本当に……馬鹿だ」
私は呟いた。
一体、なぜ、こんなゲームをしなければいけなかったのだろう。
タッチパッドを拾い上げ、机の上に置く。
画面は真っ暗になっている。
「まさか、これで終わりじゃないでしょう?」と話しかける。
「最後に、何か一言くらい。報酬だろうが、説明だろうが、何でもいいから、あるでしょう?」
私は電源の切れている画面をジッと見つめて、待った。
うっすらと照り返しのある黒い画面に、私の疲れた顔がぼんやりと映っているだけだ。
ふいに、プツッという音とともに電源が入った。
『ゲームクリア、おめでとうございます』
あぁ。やっぱり。
表示された、その文の先を読む。
『何でも一つだけ、あなたの願いを叶えます』
ありがちな展開だ、と思う。胸躍る喜びはなく、ただ苦いものが、胸に広がる。
一体、いつまでこの茶番に付き合わされるのかと、疲労を感じる。
「どんな願いでもかなえられるの? 人間の力でできる範囲で? それとも、神様の力? どっちなの」
あなたは一体「何」なの?
このゲームは、結局、人の手によるものだったのか、どうかが判然としない。
このゲームを運営したのが神様のような人智を越えた力ならば。
願いも、きっと大きいものが叶えられる。だけど、そうじゃないなら、せいぜい、大金がもらえるくらいしか期待できない。
考えてみれば、大金をもらっても、私がこの部屋から出られない可能性もある。
猿の手が叶える願い事みたいな悪意が待っているかもしれない。
とはいえ、この期に及んで、自分の命の保証だけを贖おうとするほど、卑屈じゃないつもりだ。
「何でも叶えてくれるなら……じゃあ、このゲームの運営に関わる者全員の死とか、願っちゃってもいいってわけ?」
私は、画面を通じて、そこに仮想する存在を脅すように言った。
「でもそうすると、複数の願い、って解釈されるのかな?」
皮肉たっぷりに笑う。
「これも、時間制限があるの?」
二つ以上の願いが含まれていると、不受理になるのだろうか。
────本当に、馬鹿馬鹿しい。
願いが一つに解釈されるか、二つ以上に解釈されるかなんて、結局、今使っている言語の、単語の定義範囲の問題に過ぎないのに。
例えば『私をこの世界の最高権力者にしてくれ。』
そう願ったら、結果的には複数の願いが叶うことになる。
お金も、それ以外の諸々も、一度に入手できるから。
つまり、言葉の定義の問題に過ぎない。
特定言語を用いた言葉遊びに、いかほどの意味があるというのか、と思う。
しかし、不貞腐れていてもしょうがない。
敢えて言うならば、私の願いは、このゲームで死んだ全員を生き返らせることだ。
では、それを叶えるために、一つの願いに集約させるならば、どうすればいい?
言葉の定義、範囲の選択だけの問題だ。
本当にくだらない……というより、疲れる。
働かない頭を、無理に稼働させて、いくつかの候補を頭に思い浮かべた。
・今回のデスゲームを、全部無かったことにして
・今回のデスゲームを、全部私の夢に変えて
・今回のデスゲームが起きる前に時間を巻き戻して
このあたりが、妥当だろうか。
しかし、どれも、もしここが『現実世界』ならば、叶えられることの無い願いだ。
ここが、現実の地続きではないことを、祈るしかない。
もしくは、運営が神様であることを、祈ろう。
私は、言った。
「今回のデスゲームの終わり方をハッピーエンドに変えて」
この、願いの曖昧なことよ。
叶えられるものなら、叶えてみろ。
『かしこまりました』
タッチパッドから、了承の声が返って来た。
私が、最後に平之季君に返した答えと同じだ。
────あぁ……。
平之季君に、告白されて。
正直な所、嬉しかったんだ。私は。
あれが、真っ赤な嘘で、わざと、私に拒絶させるための、罠だったなんて。
本当に、ショック…………。
好きに、なりかけてた。
一瞬、本気で、告白されたと信じてしまったのが、とても恥ずかしい。
冷静に考えれば、デスゲームの最中に相手を好きになるなんて、あり得ないだろう。
「はぁ~……」
ため息しか、出ない。たぶん、一生、恥ずかしい思い出として心に残り続ける。
こんなの、例え、もしこの世界が仮想現実だった、とかいうオチで、元の世界に戻ったって。
────ハッピーエンドになんて、なりようがない。
なんで、平之季君は、最後にあんな意地悪な命令をしたのか。
気持ちが分からない。
私の鼻を明かしたかったのか。
だとしたら、好意とは真逆の、感情だ。それを、私は真に受けたりして……。
そのあたりで、私の意識は途切れた。




