表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/28

【24】馬鹿

「だから、いい女に花を持たせて、俺は死んでもいいんじゃないかなー、なんてことを考えたり、してるわけだ」


 平之季君は、表情が変わらない。冗談を言っているような感じも無い。淡々としている。


「さっきの話で言ってただろう? 8ぶんの1の確率で、俺達全員、こんなゲームは無かったことになって、元の世界に戻れるかも、って」

「うん……」

「戻れたら、いいよな」

「うん」


 戻れたらいい。いつも通りの、日常に、戻りたい。こんなデスゲーム全部、夢だったことになればいい。

 その意見には、同意だ。

 しかし、その期待に賭けることと、平之季君が私に勝ちを譲ることは、別の話────。

 平之季君が、私の方に近づいて来た。私は怯んだが、咄嗟に体が動かなかった。

 逃げなくちゃ、と思った時には、なぜか抱きしめられていた。


「────城野さん、好きだ……。俺と、付き合ってくれ」


 平之季君の声が、とても近くから聞こえる。

 斜め上方、私の耳の付近。


 ────付き合って?


 意味を測るのに時間がかかる。しかし、誤解の余地はあまりない。

 私は、人生で初めて、異性から告白された。

 よりにもよって、こんな死体まみれの密室で。デスゲームの最中に。


「俺達、結構、相性いいと思うんだよね。……っていうか、俺が、城野さんに惚れてるから」


 デスゲームを通して、カップルが成立することもあるの!?


 ────でも……それ、ただの吊り橋効果じゃない?


 と、思わないでもない。


 吊り橋効果とは、いわずもがな、極限状態などの緊張を恋と錯覚する精神錯誤を指す言葉だ。


「待って、待って、今、そんな話して、どうするの」

「死ぬ前に、言っておきたいと思ったから」


 吊り橋効果で、頭がおかしくなっているのではないか。

 私のことが好きだなんて、にわかには信じがたいが、百歩譲って信じたとしても、告白は実際に元の世界とやらに戻ってみてからの方が妥当ではないだろうか。

 私だって、どう答えて良いのか分からない。

 平之季君は、私をギュっと抱きしめたまま、離してくれない。

 まるで、私が「うん」と言うまで離す気はない、とでもいうように感情のこもった抱擁だ。


 ────やっぱり、死を間際にすると、人はおかしくなるんだな。


 と思った。

 でも、私だって胸がドキドキしてしまう。

 デスゲームでドキドキして、愛の告白でドキドキして、はい、これが吊り橋効果ってやつ。

 分かっているけれど、確かに私も頭がおかしくなっている。

 思わず、雰囲気にのまれて「はい」と答えてしまいそうだ。


 ────でも……。さすがに、この状況では……。


「あの……気持ちは、嬉しいけど……」


 私は言葉を濁した。

 男の人の腕の中というのは、初の体験だ。体温と、鼓動が伝わってくる。死ぬ前に、良い経験ができた、とも思えるし、こんなことしてる場合じゃない、という冷静な焦りもある。


 ────このままじゃ、命令不受理で、平之季君にイエローカードが出るんだよね……。


 そうしたら、平之季君はイエローカード2枚でレッドカード、つまり処刑だ。


 ────助けてあげたい……。


 と言う気持ちが、湧いてくる。


 ────でも……。


 私は瞬時に考えを巡らせた。

 何とか二人で生き残る方法があればいいけど、そんなものは、考えつかない。ならば、迷ってもしょうがない。


「あぁ…………」


 ゲームにおける時間は刻々と流れ、死はそこまで迫っている。憐憫に浸っている暇もない。


「死ぬ前に、答えを、聞かせてくれないかな。城野さんが、俺のことをどう思ってるか。できれば、同情とかじゃない正直な気持ちを聞きたい」


 平之季君が、もう一度言った。

 私が平之季君をどう思うか?


 私は────────…………………………。


 ────────…………………………。


 なぜか背筋がゾクリとした。


 どうして────────…………………………。


 ────────…………………………。


 予感、が先に来た。


 え────────…………………………。


 ────────…………………………。


 次に、違和感が襲ってきた。


 あれ?────────…………………………。


 まさか────────…………………………。


 その疑念は一気に確信へと、変わった。


 あぁ────────…………………………。


 だめだ。落ち着いて────────…………………………。


 落ち着いて、答えなくちゃ……。


 私の胸の鼓動が、これまでで一番、激しく打っている。息苦しいほどだ。

 キーンとした、耳鳴りが聞こえる。


 私は、絞り出すように、答えを出した。


「……かしこまりました」


 世界が一瞬、凍り付いたようだった。


 私の心は、泣いていた。

 泣きながら、笑っている。


『オッケー! ミッションクリア~! じゃあ、早速、次はみんなの投票だ~』


 ピエロの陽気な声が響き、平之季君は、ようやく私を離してくれた。

 このまま、激高して首を絞めてきたりするんじゃないか、と思ったが、そんなことはされなかった。


『投票は、今回も挙手制だ。まずは皆、目を閉じて』


 ピエロが言う。

 これが、本当に最後の投票だ。

 ずっと「今回も挙手制」という断りがあった。あまり意味がある前置きと思えなかったけれど、初めて『今回も挙手制なのか……』と思った。

 最後の臣下1人になっても目を閉じる挙手制を要求されることに、茶番めいたものを感じる。

 私は、なるべく平之季君から離れて目を閉じた。


 平之季君が、襲い掛かってくると思った。

 最後の抵抗は、それくらいしかできないからだ。

 同じく、平之季君も目を閉じているはずだ。ピエロの命令には従わないといけない。目を閉じたまま、きっと襲ってくる。


『王様を暴君だと思う人は、挙手して~』


 私は、挙手した。

 なぜか、平之季君からの妨害は無かった。


『はい、手はそのまま~、皆、眼を開けて~』


 眼を開ける。

 平之季君は、私から距離を取り、壁を背もたれにして、座っていた。


 口を斜めにするような下手な笑顔を浮かべ、私の方に片手でいいね、のジェスチャーを見せてきた。


「馬鹿……」


 処刑の宣告がなされた。

 今までと、同じ、運営による殺戮が行われた。

 平之季君の身体が斜めに倒れ、床の上で痙攣し、そのまま動かなくなった。


 ────あぁ……。


 平之季君も、死んでしまった。

もうそろそろ終わりです。あとちょっと。完結まで頑張る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ