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23/28

【23】8分の1の確率

 雪見ちゃんが死んで、王様が暴君かどうかを判定する投票が始まった。

 対象の王様は私。投票権を持つのは平之季君1人だ。

 平之季君は挙手しなかった。挙手する可能性もゼロじゃなかったから、そうしなかったことに、少しの安堵を覚えた。


「ところで、さっきの命令って、あれ、俺のために、してくれたんだよね?」

「さっきの、私の命令? 別に……平之季君のため、ってわけじゃなかったけど。私も、気になったから」


 結果的に、雪見ちゃんの命を奪うことになった命令だ。


 対象者を殺すことと、もしくは黒幕に繋がる情報を引き出すことのどちらかが叶うように、命令を決めた。


 以前、平之季君がした「内部に黒幕が紛れているかもしれない」という発言の影響を受けたのは確かだけど、別に平之季君を喜ばせるために、ああいう命令にしたわけではない。

 本音を紐解けば、私が『揺るぎない死の命令』を雪見ちゃんにするのをほんの少し躊躇った結果である。

 もしかしたら、万に一つ、雪見ちゃんは助かったかもしれない。そして、万に一つ、雪見ちゃんは秘密を抱えたまま、自死を選んだかもしれない。

 これで罪悪感が和らぐかといったら、微妙だけど、いくつも言い訳を重ねて自分を誤魔化すことはできる。


「ありがとう」

「……御礼を言われることじゃないよ」


 二人きりになると、奇妙に気まずい。


「平之季君は、これでイエローカードも1枚出てるし、変な真似もできなくなったね」

「そうだね。何か変な妨害をしたら、もう一枚、イエローカードが出るかもしれないもんなぁ……」


 イエローカードが2枚で一発退場。

 既に、その光景を見ているだけに、慎重にならざるを得ない。


「タッチパッドを取り上げるのも、どっち側のイエローカードにつながるか、分からないよ」

「うん。もう、それはやめておく」


 平之季君は、素直にタッチパッドを机に置いた。


「さて……」

「じゃあ、最後のくじ引きをしようか」


 サシで対決するロシアンルーレットみたいな感じだ。

 もちろん、状況は私に有利だ。


 平之季君は、王様を引いても、現時点では私を殺せない。

 私が死んだら平之季君も命令違反で処刑される可能性がある。

 私が死んで、平之季君も死んで、全滅で、ジ・エンドなんて、ホラー映画にはぴったりの展開だ。『運営』とやらが、喜ぶ気がする。


「このゲームが終わったら、元の世界に帰れる可能性はどれくらいだと思う?」


 と、平之季君が言った。


「元の世界? うーん……そうだねぇ……ここが現実じゃない可能性が50%くらいで、優勝者が帰れる可能性がその50%くらい、敗者も含めて全員が帰れる可能性はさらにその50%くらいかな」


 私は適当に答えてから、ここが現実じゃない可能性が50%、は高すぎるかもしれない、と思った。周囲が現実と変わりない、というのはもちろんだけど、今までのゲームの進行に人間臭さを感じるのが理由だ。


「0.5かける0.5かける0.5って、めちゃくちゃ数字、小さくない? 悲観的だね」

「そうでもないよ。8分の1だもん」


 8ぶんの1……。

 それは、奇しくもこのゲームで1人生き残れる可能性の数字だ。

 8人のうちの1人に、なれるかどうか。


「いい? 押すよ?」


 私は画面に指を近づけた。


「……………………どうぞ」


 私は、もう感情がなくなってしまったような気がしていた。

 でも、指が震えていた。感情がなくなっているなんて、嘘だ。滅茶苦茶緊張している。


『臣下』


 表示は、臣下だった。


 残念。


 ふぅ、とため息が出る。


 平之季君が少し考え込んだ。


 もちろん、次に出るのは『王様』に決まっている。

 きっと、何を命令するべきか、考えているのだろう。予想はつくけど。


「城野さんがした命令はすごくいいと思った」

「え? さっきの?」

「いや、二つとも。よく、咄嗟にあんなことが考えつくよね。頭がいいと思う」

「そんなことないよ」

「特に、私が死んだら君も死ぬこと、っていうのは、命令が複数にならない、良いやり方だと感心した」

「あぁ、うん」


 今思えば、我ながら勢いで言ってしまった節はある。


「でも、あれを命令したおかげで、標的になりやすくなったから……全然、賢いとは言えないよ」


 私を殺せば、漁夫の利で平之季君も殺せる。

 そう思わせることで、殺意の標的になりやすくなった。

 あやうく、マホちゃんに殺されそうになったのが、その良い例だ。


「そうなったら、俺が力づくでも止めると思ってた。だろ? このゲームの特性上、どうしても後半は暴力を利用せざるを得なくなる。そう思ったから、俺を一蓮托生の相手に選んだ、んだと思ってたよ」

「まぁ、それもあるけど……。平之季君が一番、クレバーだと思ったからだよ」


 後半戦が、力技になる予感あった。

 死ぬぐらいなら、ペナルティ覚悟で立ち向かった方がマシ。というか、それしか方法が無い。窮鼠なら、そうする。

 その時、身を守るためには男の力があった方が良い。


「俺は、このゲームで、城野さんが生き残るなら、それでもいいかな、と思ってる」

「えぇ……? 何言ってるの?」


 平之季君は、自然体でタッチパッドに触れた。


 そこに『王様』と出る。

 ピエロがお決まりの文句を述べ立てる。


「これで、俺が、王様だろ。当然、俺は今のままだと城野さんを攻撃できない。だから、さっきの命令を解除するように命令する。つまり、最後はフラットな状態で最後のくじ引きをすることになる。

「そうだね。そこで、運よく王様が出た方が勝ちになる」


 結局、最後の攻防は運任せの2ぶんの1になる。


「でも、それって、命がけのデスゲームの終わり方としては、あんまり、面白くないよね」

「面白くなんて、ないよ。どっちみち」


 たくさん死んだ。同年代の男女6人の死体に囲まれて、面白いなんて不謹慎な言葉、許したくない。


「そうじゃなくて……。つまり、俺は……何というか……城野さんのことが、女性として結構いいな、と思ってる」


 ────へ?


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