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【21】普通の合コンだったら

「死んじゃった…………」

「もう……やだ……わけわかんない」


 雪見ちゃんが、両手で顔を覆う。

 私も、ため息が出た。もう、人の死を目のあたりにするのはうんざりなのだ。


「さて、これで残り3人になったねぇ」

「次の王様が雪見ちゃんなら、雪見ちゃんの勝ち決定、私だったら、私の勝ちに王手がかかる。平之季君だったら、泥沼化、かな」


 私は少々疲れてきたので座布団に座り直した。机の上に残っている、自分のサワーを一口飲む。


「なんか、俺だけ不利だなぁ」

「あとは、暴力をどう活用するか、だね。そういう意味では、平之季君が有利なんだから、一番不利なのは私じゃない?」


 平之季君も、最初の自分の座席に座った。雪見ちゃんは、私達から少し離れたところに座った。


「暴力ね……。さっきの俺の行為がペナルティにならなかったのは、我ながら不思議だ」

「そうだね」


 最初のルールには、こうあった。


 ・命令に関係なく、他参加者へ著しい暴力をふるった場合、対象者にはペナルティが課される。


 しかし、現状ではどこからどこまでが「著しい暴力」になるのか読み取れない。

 そして、このペナルティが常にイエローカードの発行であるならば、一度は滅茶苦茶な暴力だって振るうことができることになる。

 ────そう……。言ってしまえば、イエローカード覚悟で直接の人殺しもできる。


 例えば、最後の2人になったら、あとは運を待つよりも直接相手を殺しちゃった方が手っ取り早い。

 サシの勝負で人殺しなんて、女の力じゃ無理だけど、平之季君になら、可能だろう。

 それだけじゃなくて、相手の口を手でふさぐ作戦も、使い方を考えれば有効だ。


 大した条件じゃないと思っていた補足ルールの方が、ここに来て重みを増してきた。


 もし、次のくじ引きで、雪見ちゃんが王様になったら、雪見ちゃんは間違いなく私を殺す。


 ────そうなったら……私だって……。


 私だって、最後の手段として暴力を使わざるを得ない。だって、そうしなければ確実に自分が死んでしまうのだから。

 雪見ちゃんが王様になったら、私は、命令を下される前に、雪見ちゃんに襲い掛かる?

 そんなことが、できる?

 逆もまたしかりだ。

 私が王様になったら、雪見ちゃんは私に襲い掛かってくるだろうか?


「……少し、皆の気持ちが聞きたいな」

「いいね。でも、時間が無いから、手短にね」


 私は、二人に尋ねた。


「最後の一人になる覚悟はある? 正直、私はちょっと迷ってるよ」

「あぁ。なるほど。俺は、好奇心の方が強いから、最後が見てみたい。あと、普通に、死にたくない」

「私だって……死にたくないよ……でも、もう誰も死んでほしくない……疲れたよ……」


 意外と、二人の本心が聞けた気がした。


「私も…………。もう、こんな時間だね」


 もう、飲み放題の宴会時間は終わっている。

 でも、店員さんも来ないし、警察も来ない。念のため、スマホを確認する。まだ、圏外になっている。


「普通の合コンだったら、二次会に行ってる時間だ」

「本当だ……」


 普通の合コン、という言葉がなんだか遠いもののように思える。


「俺からも質問していい? 本当に、二人とも、このゲームの黒幕とかじゃないの?」

「ええっ、平之季君って、まだそんなこと疑ってたの?」

「俺さ、参加者が黒幕だった、っていうオチが、すごく嫌いなんだよ」


 好き嫌いの話ではないと思うが……。


「王様の『命令』が余ってたら、それを答えること、っていう命令にしたいくらい」

「変なの。それに、そんな命令、通るかな?」

「まだ、試せてない命令のアプローチもいくつかあるんだけど、このままだと出さずに終わりそうだよな。結構さっさと皆死んじゃったからさ」


 さっさと死んだ、という表現にも苦笑してまう。いまだに自分が生き残っていることが、不思議に思えてくる。


「なんか……二人とも、余裕だよね」


 雪見ちゃんが卑屈気味に言った。


「私は、馬鹿だから、まだ、このゲームのルールがあんまり分かってないよ。なんで、さっきマホちゃんが死んだのかも、よく分からないし」

「あぁ。いや、それは、俺もびっくりしたよ」


 私も頷いた。実は、まだ私も頭が整理できていない。


「マホさんの命令が、二つ以上の命令、って解釈になったんだな。今後、ってところが、よくなかった。たぶん、城野さんの命令を真似したんだろうけど」


 そう言われると、原因の一端が私にあるように思えてきて、微妙だ。


「発動チャンスが2回以上あるものも、複数命令になる」


 そう。マホちゃんの命令は、今後私を暴君かどうか決める投票では絶対に挙手しないこと、だったから、投票の機会が2回以上あるもの、と判断されたのだ。


 ディスプレイの画面に60秒か表示された。


「さて、じゃあ、そろそろ、引くか。誰から?」

「平之季君から、どうぞ」


 残り3人。ここで誰が王様を引くかによって、ほぼ勝利の道筋が確定する。

 緊張の一瞬だった。


 そこには────『臣下』の文字が表示されている。


「残念」


 平之季君が首をすくめる。


「次は、どっちにする?」


 私は雪見ちゃんに尋ねた。


「お先に、どうぞ」


 良かった。先に引きたかったから、助かった。


 これで、私が王様だったら、雪見ちゃんとのプロレスが始まるのだろうか。

 でも、一見したところ、雪見ちゃんにその気配はない。


 ────いいのかな?


 なんだか、上手くいきすぎて怖い。頭の中で描いてる流れの通りになっている。


 ────これで私が王様なら、雪見ちゃんを殺して、優勝に王手になる。


 そして、


 ────雪見ちゃんが王様になったとしたら、平之季君が、私を守るために何らかの強硬手段に出てくれる…………はず。


 我ながら、醜い打算だ。


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