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【19】他参加者へ著しい暴力

「もし、次に雪見さんか、マホさんが王様になった場合も、さっきの城野さんの命令を無効化するような命令にした方がいいと思うよ」

「えっ、それって、なんで? 教えて」


 平之季君が、余計な口出しをしてくる。ただ、平之季君の方もまだあまり考えがまとまっていないような印象はある。


「あ、ちょっと待って。もう次のくじ引きが……」


 またもや、タッチパッドのディスプレイにカウントダウンが表示され始めた。

 絶え間なくゲームが続いていると気の休まる暇もない。休憩時間が欲しい、と思うが、進行は無慈悲だ。

 くじを引く為に、まず平之季君が画面に触れた。表示は『臣下』だった。


 もう、これまでに誰がどの順番で王様になったか覚えていない。

 4分の1の確率だから、結構な高確率でまた自分が王様になる。もし、次も連続で私が王様になったら、私の勝利はかなり近づく。


「じゃあ、次は私が引きますね」


 平之季君の次に、雪見ちゃんが引いた。雪見ちゃんも『臣下』だった。


 ────これで、私が王様を引く確率は2ぶんの1……。


 私は胸をドキドキさせながら、くじを引く。

 だけど、やっぱり、『臣下』だった。私は昔からこういう引きがとても弱いのだ。


 ────つまり、次の王様は、マホちゃんだ。


「マホちゃん、どうする……?」


 私が声をかけると、壁にもたれて座り込んでいたマホちゃんはそっと顔を上げた。


「くじを引く? マホちゃんの番だよ」

「マホちゃんが最後だから、絶対に王様が出るよ」


 雪見ちゃんが言う。

 もう、王様はマホちゃんだと分かっているが、一応それでも画面にはタッチしなくては、ゲームが進まないのだ。

 私がタッチパッドを持ったままでいると、マホちゃんはノロノロと立ち上がって近づいて来た。

 ちゃんと、くじを引く気────つまり、ゲームを続行する気はあるみたいだ。


 マホちゃんが、指で画面に触れる。

 『王様』の文字が表示された。

 ほぼ間髪入れずに、平之季君がマホちゃんに掴みかかった。


『王様だ~れだっ!?』


 ピエロが両手をパッと開く。もう、ピエロよりも周囲の人間の方が怖い。

 ピエロなんて、画面の中で滑稽に騒いでいるだけで、可愛いものだ。


『では、王様は、誰に、何を命令するかお答えくださ~い』


 平之季君がマホちゃんの口を押さえつけるようにしている。手に、ハンカチみたいなものを持っている。腕で羽交い絞めにして、力づくで押さえ込もうとしている。

 雪見ちゃんが悲鳴をあげた。


「んー……! んー……!」


 マホちゃんは体をくの字に折って抵抗した。そのまま床に座り込んで、二人はもみ合いになった。

 腕力と上背のある平之季君が優勢だったが、座り込んだ後も、マホちゃんは足をバタつかせて暴れた。


「ちょっと平之季君っ! 何するのよっ……やめて! お願い!」


 そう言いながら、雪見ちゃんも後じさりしている。

 突然目の前で暴力行為が始まったら、そりゃ、そうだろう。


「暴力行為は、禁止って! ルールに、あったでしょうっ!」


 批難は、どこか台詞のように響いた。

 そんなこと、分かっている。分かっていて、やっている。

 あのルールにはこう書かれていた。


 ・命令に関係なく、他参加者へ著しい暴力をふるった場合、対象者にはペナルティが課される。


 どこからが著しい暴力に当たるかは、不明だ。

 私は手を出さず、少し緊張しながら、その光景の一部始終を見守っていた。


 このゲームの後半に、暴力的な要因が絡んでくるであろうことは、予想しないでもなかった。

 だから雪見ちゃんに比べれば、こういう展開への心構えもあったつもりだ。


「大人しくしてくれ。ただ、話を、聞いて欲しいだけだ」


 平之季君は床に座って、マホちゃんを背中側から抱きしめるような固定の仕方をした。相変わらず、マホちゃんの口を、ハンカチで覆っている。


「話を聞いてくれ!」と、平之季君はもう一度繰り返した。感情を表さない彼に似合わぬ、大声だった。


 マホちゃんはさらに抵抗したけど、最後は根負けしたようだった。


「きっつ……俺、こういうことするタイプじゃないんだけど……はぁ……」


 平之季君も、ゼイゼイと息を吐いている。


「あのさ、マホさん。落ち着いて聞いて欲しいんだけど」


 平之季君がマホちゃんに言い聞かせるように、話し始めた。


「マホさんは、もしかして、今、城野さんを殺そうとしたかもしれないよね。そうしたら、自動的に俺も死ぬから。あとは雪見さんとの2分の1の確率の運ゲームまで持ち込める、と思ったかもしれない。でも、それは間違いだからね」


 私と雪見ちゃんも、そしてマホちゃんも、思わず、平之季君の説明に聞き入った。


「例えば、マホさんが城野さんに何らかの無理難題をふっかけて処刑したとするだろ。そうすると、たぶんその時点で俺も、心臓麻痺だか、なんだかで運営に処刑される。そうすると、その後に投票が始まるんだよ」


 平之季君が説明しているのと同時に、ディスプレイ上で、60秒のカウントダウンが始まる。


「あっ……」


 雪見ちゃんが狼狽える様子につられるように、平之季君がディスプレイを見て、それから少し早口になった。


「分かる? そうすると、マホさんが暴君かどうかを決めるのは、雪見さん1人だけになる。当然、マホさんは暴君に認定されて、死亡する。最後に残る雪見さんが、優勝者になる。もちろん、マホさんが雪見さんを勝たせたいっていう何か特殊な理由があるなら、それでもいいけど、そうじゃないよね」


 分かりやすい説明だ。平之季君の説明に不明瞭なところは一切ない。


「俺からの話は、以上。手荒なことして、ごめん」


 平之季君は、パッと、マホちゃんを解放した。


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