【18】『未来形』の命令
タッチパッドを皆に見やすいように、机の上に立てて置いた。
それにしても、さっきマホちゃんが壁に思い切りぶつけたというのに、この機器には傷一つ、無いようだ。
元々頑丈にできているのか、異質な力が働いているのかは分からない。
「ほら、了承の意思を示すことで、達成になったみたいだね。良かった」
平之季君が口だけを斜めにして笑った。
感情を表すのが苦手と言うのは本当らしい。笑顔が下手くそだ。
「分かってて、やったの?」
「いや。そっちこそ、分かってて、命令した?」
「まさか。そんなわけないよ。でも……、まぁ、助かったけど……」
私は軽く口元に拳をあてて、考えこむ。
────命令は、基本的には制限時間内に実行しなければいけないはず。それは、今までの例からも明らかだし……。だけど、命令の中で、その実行タイミングを指定してやれば、その縛りを外すことができる……ってことだよね……。
自分で考えた命令ではあるけれど、これはこれで、結構際どい。どちらかといえば『リスクの高い命令』だ。
私の思考を遮るように、ピエロが発声した。
『投票は、今回も挙手制だ。まずは皆、目を閉じて』
命令を実行した後の投票パートは、ほとんど留保時間がなく、トントンと忙しなく進んで行く。
ピエロの指示に従い、眼を閉じて、投票を待つ。
今回は私が王様だから、私は挙手しなくてもいい。座して結果を待つのみだ。
『王様を暴君だと思う人は、挙手して~。────はい、手はそのまま~、皆、眼を開けて~』
目を、開く。
挙手しているのは、雪見ちゃんとマホちゃんの二人だった。
────へぇ……。
私は、二人に対してピリッとした、怒りに似た感情を覚えた。
「ごめんなさい……でも、私死にたくなかったから……つい、手を挙げちゃったんです……でも……」
雪見ちゃんが、悄然と私に謝る。
「いいよ。そういうゲームだって、分かってるから。でも、もう少し考えた方がいいとは思うかな」
つい、語尾が皮肉気になってしまった。
そう。ちょっと考えれば分かることだ。
さっきの私の命令が『通った』ことの意味は、シンプルなのだから。
私が死んだら、平之季君も死ななくてはいけない。もし、この命令に従わず、死ななかった場合は、ルールの3番目の項目が発動する。
・命令に従わなかった場合は処刑される。
つまり、どっちにしても死ぬのだ。だから平之季君は、私に呪いをかけられたことになる。
────これで平之季君は、私を殺せない。ううん。そうじゃない。死なせられない、だ。
局面が動く手ごたえを感じる。
これに名前を付けるなら、『未来形』や『仮定系』の命令とでも言おうか。
「それにしても、マホちゃんも挙手できるくらい元気があるみたいで、良かったよ」
いけない。これも、皮肉になってしまった。私もだいぶ神経がささくれだっているみたいだ。
マホちゃんは、もう、自分の殻に戻ってしまったようで、膝を抱えて顔を俯けている。
「生き延びたら、大金がもらえて、普通に現実世界に返してもらえるゲームとかだといいよねぇ」
と、平之季君が言った。
場を和ますつもりのジョークだったかもしれないが、かなり冷ややかに響いた。
「え、あ、そっか。じゃあ、これで城野さんは、王様になっても、暴君に認定されることがなくなったんだ。平之季君が、城野さんに死なれると困るから」
雪見ちゃんは、ようやく理解したらしい。
「そう、そう、そういうこと」
最初に提示されたルールを見た時からずっと、王様が下した命令の及ぶ期間について、ターンの縛りを外すことができるのかが、気になっていたのだ。
もちろん、最初に提示されているルールに違反する命令は通らないと思う。ルールは、揺るぎなく絶対であるはずだ。
しかし、最初のルールには確か、こう書かれていた。
・『王様』が命令したあと、『臣下』は全員で投票を行い、王様が『暴君』かどうかを決めることができる。
だから、行間を縫う、ルールの隙間を通すような命令が可能だった。
これが、もし
・命令達成、もしくは処刑後、『臣下』は全員で投票を行い、王様が『暴君』かどうかを決めることができる。
だったら、結果はまた違ったと思う。
────『かしこまりました』で通るところまでは予想してなかったけど……。
もし、今回判明した裏ルールを文言に起こすなら、たぶん、こうなる。
・ターンをまたぐ未来形の命令に対しては、そのターン内で『了承』するだけで、投票パートに移行する。ただし、そのターン以降であっても命令に違反したら、その時点で臣下は処刑される。
確実にそういう仕様になっているかは、まだはっきりしない。だが、とりあえずはその可能性が高いと考えて良いと思う。
仕様がハッキリしないということ自体が、平之季君へ、そして女子二人への牽制になる。
「ねぇ、じゃあ、私達も、お互いにその命令を掛け合えばいいってことじゃない? そうすれば、信用とか関係なしで、お互いに傷つけあわなくて済むってことでしょ?」
「え? あぁ、そうだね」
私の方こそ、雪見ちゃんの言っていることが理解できなかった。が、とりあえず笑って同意した。
「まぁ、次に俺が王様になったら、さっきの命令の解除を命令するけどね」
「うっ……」
まぁ、そう来るよね。おかしな呪いなんて、早く解除するに限る。
だけど、残りは4人だから、仮に平之季君が王様に当たって、その命令をしたら、その後の投票で暴君認定処刑の流れになる可能性がある。
────そんなこと、百も承知でわざと口にしてる、って感じだけど……。
「えっ、あ、そっか……命令で、そんなこともできるんだ。じゃあ、皆に命令で私を殺さないで、ってお願いするのは……あ、ダメかぁ……」
雪見ちゃんは平之季君の思うつぼというか、かなり混乱しているようだ。
皆に命令、なんてダメに決まっている。『誰か一人に命令』という最初のルールを満たしていない。
だいぶ終わりが見えてきました。完結目指して頑張るぞ~。
今夜もう1話アップできると思います( ・∀・)ノ




