【14】少しばかり過激だけど
命令が受理されたこと自体に、それほど不思議はない。
達成可能かどうかは、王様の『命令』が成立するか否かの条件には含まれないのだ。元々のルールの文言にも、その制限が無かった。
予想はしていたけれど、これで確定だ。
────ただ────……こう言っちゃ悪いけど、すごい、絶妙なタイミングで、皮肉の効いた命令だ。
「約束したじゃない! 警察が来るまで時間稼ぎをする、って! 何裏切ってるのよ! あんた!」
「俺は別に、賛同してねぇよ。それに、標的にしたかったのはお前だけだし」
丹藤君はリホちゃんを睨み返す。凄まじい憎悪に満ちた声音だ。
こんな感情を、さっきまで、よく隠蔽していたものだと思う。
「生き返らせろよ。柳を。こいつは、めちゃくちゃいいヤツだったんだ。死ぬようなヤツじゃなかったんだ。お前が、お前が殺したんだろ!」
リホちゃんが、たじろぐ。
私も思わず息を飲んだ。それくらいの気迫があった。
丹藤君は立ち上がって、柳君の死体の方に歩いた。それから、柳君の顔に被せてあった上着を取り、顔に触れた。
遠目でも、柳君の顔から、もうすっかり生気がなくなっているのが分かる気がした。
「なんで、死んじまったんだよ……。柳……。お前、今まで苦労してきて、せっかく、大学も受かって、これからだ、って言ってたのに……柳……」
ポタリ、と丹藤君の目から涙が落ちる。
マホちゃんも立ち上がり、リホちゃんと並んでいる。二人で立ち尽くしている。
「私だって…………殺したくて、殺したわけじゃない……」
リホちゃんも泣き始めた。
そのまま、時間が過ぎ、死へのカウントダウンが始まった。
「お願い……許して……誰か、助けて……」
だけど、この状態でリホちゃんを助ける方法なんてあるのだろうか。
「そうだ、この、タッチパッドを壊せば……!」
残り27秒。
マホちゃんが、土壇場ですごいことを言い始めた。
「ちょっと待って……そんなことをしたら……」
ゲームが続行できなくなったら、私たちは永遠にこの部屋に閉じ込められてしまうんじゃないか、何か、悪いことが起きるのではないか、と想像した。
だけど、マホちゃんはひったくるように、雪見ちゃんの傍、机の上に立てかけてあったタッチバッドを手に掴んだ。
「待って……」
周囲が止めようとするのも押し切り、マホちゃんがタッチパッドを壁に向かって、力いっぱい打ち付けた。
タッチパッドが石板だったら、真っ二つに割れるだろうという打ち付け方だった。
バキッ!
壁から反動としてくる衝撃が強かったのだろう、マホちゃんはタッチパッドから手を離す。
そのまま、タッチパッドは畳の上に落ちた。
もしかして、本当に壊れたかもしれない。
「すごい……」と、平之季君が呟いた。
「確かに、それを壊せば、ゲームが中断する可能性はある」
言われて、あぁ、そうか、と私も納得した。
少しばかり過激だけど、その可能性はある。詰む可能性だって、無くはないけど。
────マホちゃんって、リホちゃんの付属物なんかじゃ、全然ないな。
自分のためではなく、友達のために、土壇場でそこまで行動に移せるというのは、大したものだと思う。
しかし、マホちゃんの奮闘空しく、床に落ちたタッチパッドからは、いつもと変わらないピエロの声が響いてきた。
『タイムオーバー~。王様の命令が聞けない臣下は処刑されま~す』
あれだけの衝撃でも、この忌まわしい機器は、壊れなかったのだ。
宣言の後、すぐにリホちゃんに異常が起きた。
立っていたリホちゃんの体がぐらりと揺らぎ、倒れた。
食器の乗った机の隅に頭が当たり、グワッシャン!!と凄い音がした。グラスが倒れ、リホちゃんの首のあたりにドリンクがこぼれかかった。
「きゃあ!」
「リホっ……やだよ、リホっ……!」
私は真っ先に、床に転がり落ちたグラスを拾った。
それから、雪見ちゃんと一緒に、机の下に入ってしまったリホちゃんの体を助け出そうとした。だが、まだ苦しそうに呻いているので、触れるのも躊躇われた。正直に言えば、怖かった。
ドリンクが、床に、座布団に、染みていく。
────あぁ……どうしたら……。
そう思ったけど、どうしようもない。
すぐに、リホちゃんは静かになった。
たぶん、御園君、柳君と同じように、死んでしまったのだと思う。
しかし、このまま放っておくわけにもいかない。そこらへんにあるお手拭きで、こぼれたドリンクを拭き、落ちたものを机に拾い上げる。
床に落ちているタッチパッドから、引き続きピエロの声が聞こえてくる。
『オッケー! 処刑完了~! じゃあ、早速、次はみんなの投票だよ~』
それどころじゃない、という気もするが、逆かもしれない。
つまり、死体に関わっている場合じゃなくて、こっちのゲームに集中した方が良いのかもしれない。
「投票だって」と、平之季君が言う。
「分かってるよ」
ついぶっきらぼうに答えてしまった。
『投票は、今回も挙手制だ。まずは皆、目を閉じて』
私たちは、眼を閉じた。
『王様を暴君だと思う人は、挙手して~』




