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〜観月の夜、2つの月〜

「実は記憶が曖昧で、気がついたらこの街にいて、不審者に間違えられたりと途方にくれていたのです」

猫屋敷夫妻はそれはお気の毒にと、もし行くあてがないならしばらく屋敷にとうぞと言われて、のぶひろはさらに感激した。

「まさに渡りに船とはこのことか…」

気がつくと当たりは真っ暗になっていた。

「そろそろ良い月が出ております」

レンゲの声が聞こえてきた。みんなで部屋の外に出た。少しひんやりとした空気を感じる。とても気持ちのいい夜だとのぶひろは感じていた。ふぅと一息ついて頭を上に向けてみた。


「ーーー」


言葉にならない。頭上にはとてつもない大きな満月があった。さらに素晴らしいのは水面にそれが映っていること。川や海ではなく池、水面はまっすぐでそれを鏡に写したようで月の模様までも映し出している。2つの月を同時に楽しめるなんとも風流である。これは和歌でも読みたくなる気持ちがわからないでもない。と思いつつ、自分にそんな能力はないなとかぶりを振った。しかし最近、月を見たことさえ無かったなと思った。「ブラック企業でそんなこと感じる余裕もなかったかな。」と心の中で呟いた。

「わぁ……」

さすがのクロも感嘆の声を出して口をポカンとさせている。

「夜風が冷たくなってきましたね」

しばらくお月見を楽しんだ後、猫屋敷泰弘は言った。月に見とれていたがもう結構な時間が経ったようである。

「ではそろそろ部屋に戻りましょう、こちらは親子3人部屋で休ませていただきます。蓮の開花はかなりの早朝になります。おやすみなさいませ」

そして、最後に小声で耳打ちしてきた。

「のぶひろ様の個室には夜伽に行くように指示してありますのでどうぞお楽しみ下さい…」

と笑みを浮かべて去っていった。


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