〜猫マスターのぶひろ〜
先程の警戒は解いてくれたようだがまだこちらを向いてくれない。
「迷子になったのかな、お父さんとお母さんを一緒に探してあげましょうか」
さらに優しく助けの手を伸ばしてみた。すると伸ばした手から一歩離れてしまった。どうやらまだ心を開くつもりはないらしい。この子はやはり猫、仲良くなるにはコツがいる。間違っても動物王国を作っているおじさんみたいなコミュニケーションの取り方は嫌われる。そこでのぶひろは道端にあった猫じゃらしを引き抜いた。
「ほーれ、どうだー」
猫じゃらしを目の前で細かく踊らせてみると、その子がウズウズしだしているのが分かる。さらに猫じゃらしを躍動させると、飛びついてきた。
「なんだこんにゃろー!」
捕まえられないように動かし続けるとようやくこちらに対して友好的な態度を示してきた。
「で、君は迷子ですか」
「はい、私は猫屋敷泰弘が長女、クロと申します」
と、居直るとかなりしっかりした挨拶をしてくれた。
「お父様、お母様とお月見に行く途中にはぐれてしまいました」
泣き止んで落ち着いたようなのでこちらも自己紹介をした。
「私はのぶひろと申します。泣いておられたのであなたを助けてあげようと声をかけました」
「そうでしたか、誠に助かります。とても困っていたのです。ひと種の方は他人に無関心な方が多いと聞いておりましたので怖かったのです」
とりあえず彼女の信用は得たようだ。
「実は茶屋でお団子を食べていたのですが、蝶を追いかけて気づけば見知らぬところまで来てしまったのです」
困ったように話すクロはとても可愛かった。お持ち帰りしたい気持ちが湧いてきたが、自分の帰るところもわからない。今は先にクロを送り届けよう。「お月見に向かう道中って言ってたよな…」お月見とはどこでするのだろうか。のぶひろは近くの人に聞いてみた。
「この近くにお月見をするのに最適なところはありますか?」
「それなら巨椋池が良いじゃろ」
「それはどのようにしたら行けますか?」
「巨椋池はここからずっと南にある。そこの角から送迎バスが来るよ」
と教えてくれた。
「バス!?」
この世界にはバスが走っているらしい。時代設定がよくわからない。お月見の場所まで行くバスの乗り場があるらしい。そこで待てばクロが親と会えるかもしれない。
「クロ、じゃあ行こうか」




