クラス委員って何すんの?(後編)
移動教室へ向かう途中。
俺は景と並んで歩きながら、さっきの失言を思い出していた。
(……終わった。)
(もう終わった。)
(入学して一週間で二回も「可愛い」とか「ドキドキしてる」とか口走る高校生いる?)
「春一くん。」
「……はい。」
「さっきの。」
「忘れてください。」
「まだ何も言ってないよ?」
「…………。」
墓穴を掘る才能だけは誰にも負ける気がしない。
景はくすっと笑う。
「春一くんって面白いね。」
「褒められてる気がしない。」
「褒めてるよ?」
そんな他愛もない会話をしているうちに、視聴覚室へ到着した。
中には一年生の各クラス委員がすでに集まっている。
「一年生のクラス委員のみなさん、席についてください。」
前に立っていた男子生徒が落ち着いた声で呼びかける。
制服の腕には『中央委員長』の腕章。
眼鏡を掛けた穏やかな雰囲気の先輩だった。
「私は二年中央委員長の東雲和馬です。」
「一年生中央委員長が決まるまでの間、私が皆さんの担当を務めます。」
教室が静まり返る。
「まずは、クラス委員の役割について説明します。」
東雲先輩はホワイトボードに『クラス委員』と大きく書いた。
「皆さんは、先生・生徒会・クラスメイトを繋ぐ役目です。」
「学級運営の補助、学級会の進行、学校行事でのクラス運営の補助、各委員会との連携。」
「そして、生徒会からの連絡事項を各クラスへ伝えることも、大切な仕事になります。」
(思ってたより真面目な役職だった。)
俺が感心していると、景が小声で話しかけてきた。
「だからね。」
「一人じゃ大変だから、二人で頑張ろう。」
そう言って笑う。
(……近い。)
(しかも笑顔が眩しい。)
俺は慌てて前を向いた。
「続いて、一年生中央委員長について説明します。」
東雲先輩が一枚の資料を掲げる。
教室の空気が少しだけ引き締まった。
「中央委員長は、一年生クラス委員全員の代表です。」
「各クラスの意見をまとめ、生徒会との橋渡しを行います。」
「また、学校行事などでは一年生クラス委員をまとめる立場にもなります。」
(つまり一年生クラス委員のリーダーってことか。)
「選出は、一年生クラス委員による投票で行います。」
「立候補を希望する人には、後日『立候補届』を配布します。」
「立候補資格は、一年生のクラス委員であること。」
東雲先輩は教室全体を見渡し、穏やかに微笑んだ。
「興味がある人は、ぜひ挑戦してください。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに。
「……はい。」
静かな声が教室に響いた。
隣を見る。
景がゆっくりと手を挙げていた。
「小早川さん?」
思わず名前を呼ぶ。
景は少し照れくさそうに笑いながらも、真っ直ぐ前を向いていた。
「私は……。」
「一年生中央委員長に立候補したいと思っています。」
教室がざわつく。
まだ説明が終わったばかりだ。
それなのに、迷いなく手を挙げた。
東雲先輩は嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます。」
「他にも立候補を希望する人は、後日配布する立候補届を提出してください。」
景は「ふぅ……」と小さく息を吐いた。
「緊張したぁ……。」
「そんなにやりたかったの?」
俺が聞くと、景は照れ笑いを浮かべる。
「うん。」
「せっかくクラス委員になれたんだもん。」
「やるなら、一番頑張ってみたいなって。」
その言葉に、俺は何も返せなかった。
(すごいな。)
(俺なんか、その場しのぎの嘘で委員になっただけなのに。)
景の笑顔は、どこまでも真っ直ぐだった。
その姿が、少しだけ眩しく見えた。
この時の俺は、まだ知らない。
景のその一歩が。
俺自身の気持ちを大きく動かし、やがて同じ舞台へ立つきっかけになることを。
その答えを知るのは、もう少し先の話である。




