クラス委員って何すんの?(中編)
教室が静まり返る。
数秒後。
「えっと……。」
小早川さんは小さく首を傾げた。
「知らずに立候補したの?」
「……うん。」
「本当に?」
「本当に。」
「……。」
「……。」
沈黙が痛い。
すると次の瞬間。
「ぶっ!」
「勢いだけで立候補したのかよ!」
「そんな奴初めて見たぞ!」
「会長の弟、面白すぎるだろ!」
教室が一気に笑いに包まれた。
「いやぁ……。」
頭をかきながら苦笑いする。
「その場のノリって怖いよな。」
「怖いで済む問題かな……。」
小早川さんは口元を押さえながら、小さく笑った。
「でも安心して。」
「そんなに難しいことはしないから。」
「本当?」
「うん!」
彼女は人差し指を立てながら説明を始める。
「朝と帰りのホームルームのお手伝いとか。」
「先生のお手伝いとか。」
「学級会のお手伝いとか。」
「それから中央委員長さんとの会議とか!」
「最後だけ急にレベル上がってない?」
「あっ……。」
景は慌てて両手を振る。
「ご、ごめんね!」
「中央委員長さんのお仕事だから、春一くんは今は気にしなくて大丈夫!」
(……今は?)
(『今は』って言ったよな。)
(嫌な予感しかしない。)
そんなことを考えていると、チャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン――。
「あっ。」
「次、移動教室だ。」
景は教科書を抱えると、ごく自然に俺の隣へやって来た。
「一緒に行こ?」
「……へ?」
「私たち、クラス委員だもん。」
そう言って、にこっと笑う。
(いやいやいや。)
(昨日まで他人だったよな?)
(距離近いって。)
そのまま景は俺の制服の袖をちょこんとつまんだ。
「早く行かないと遅れちゃうよ?」
(全国の男子高校生を代表して言わせてもらう。)
(これは心臓に悪い。)
「春一くん?」
「顔、赤いけど大丈夫?」
「大丈夫じゃない。」
「え?」
「あ、いや……何でもない!」
慌てて歩き出す。
すると後ろから声が飛んできた。
「おい、見たか?」
「あの二人。」
「距離近くね?」
「付き合ってんの?」
「いや、秒速すぎるだろ!」
「今日知り合ったばっかだぞ!」
「違う違う!」
思わず振り返る。
「付き合ってないから!」
「え?」
景も不思議そうに振り返る。
「誰も春一くんに聞いてないけど?」
「…………。」
(墓穴掘ったぁぁぁぁ!!)
またしても教室は笑いに包まれた。
そんな様子を、教室の後ろから静かに眺めている男子がいた。
高身長で整った顔立ち。
制服も着崩さず、自然と周りに人が集まる存在。
「あいつ……。」
「ひかり先輩の弟だったよな。」
ぽつりと呟く。
「もっと近寄りがたい奴かと思ってた。」
一緒にいた女子が笑う。
「毛利が他人に興味持つなんて珍しいね。」
「そうか?」
「うん。」
毛利元基は小さく笑う。
「まぁ、絡みづらいやつだと思ってたんだけど……。」
「そうでもなさそうだな。」
その視線は、景と並んで歩く春一へ向けられていた。
一方その頃。
「春一くん。」
「うん?」
「袖。」
「え?」
「掴んでる。」
「あっ!」
「ご、ごめん!」
景は慌てて手を離す。
まるで今まで気付いていなかったかのような反応だった。
(やっぱり無自覚なんだ。)
(……心臓に悪い。)
(この人、距離感バグってるだろ。)
思わずため息をつく俺を見て、景は困ったように笑う。
「私、また何か変なことしちゃった?」
「いや。」
「その……。」
「小早川さんは悪くない。」
「俺が勝手にドキドキしてるだけだから。」
「……え?」
「……あ。」
しまった。
また口に出てた。
景の顔がみるみる赤く染まっていく。
そして俺も、自分の失言に気付いて頭を抱えた。
(だから何で心の声が全部口から出るんだ、俺ぇぇぇ!!)




