クラス委員って何すんの?(前編)
一目惚れって、よく聞くじゃないですか。
目が合った瞬間、雷に打たれたような衝撃が走る、とか。
運命を感じた、とか。
いやいや。
そんな漫画みたいなこと、現実にあるわけないだろ。
……そう思っていた時期が、俺にもありました。
ありましたわ。
実際。
だってさ。
目の前で嬉しそうに笑ってる小早川さんが――
びっくりするくらい可愛い。
「あ……。」
気づいた時には、もう遅かった。
「小早川さんっすか……。」
「びっくりするくらい可愛いっすね……。」
…………。
…………。
…………。
教室が静まり返る。
「あ。」
やらかした。
「はぇ……!?」
小早川さんは目を丸くしたまま固まっている。
みるみるうちに耳まで真っ赤になっていった。
「えっ……?」
「あ、ありがとうございます……?」
違う違う違う!
お礼を言われる場面じゃない!
「お、おい!」
「言ったぞアイツ!」
「あの小早川さんに面と向かって言いやがった!」
「初日で口説くとか勇者か!?」
「会長の弟、攻めすぎだろ!」
違うんです!
断じて口説いてない!
「え……?」
「あれ?」
「俺、今なんて言った?」
自分でも分からない。
思ったことが、そのまま口から飛び出しただけだった。
「えぇっ!?」
「そ、それを私に聞かれても困ります……!」
小早川さんは両手を胸の前で慌てて振る。
その仕草まで反則級に可愛い。
(うわぁ……。)
(まじで可愛いな、この子。)
(同級生の女子にこんなドキドキすることあるんだな……。)
……。
…………。
「って何言ってんだ俺ぇぇぇぇぇぇ!!」
また口に出た。
「「「また言ったぁぁぁぁ!!」」」
教室が大爆笑に包まれる。
もう駄目だ。
穴があったら入りたい。
いや、今すぐ埋めてほしい。
そんな俺を見て、一人だけ肩を震わせている人がいた。
「ふふっ……。」
「……。」
「くっ……。」
姉だ。
吉川ひかり。
笑いを堪えている。
珍しい。
あの鉄壁の生徒会長が笑いを堪えてる。
「春一。」
「はい……。」
「面白いわ。」
「初めて褒められた気がするんだけど、全然嬉しくない。」
ひかりは小さく咳払いをすると、小早川さんへ向き直った。
「愚弟が失礼しました、小早川さん。」
「い、いえいえ!」
小早川さんは慌てて首を横に振る。
「私は全然!」
「むしろ嬉しかったです!」
……はい?
教室中が一斉に小早川さんを見る。
「えっ?」
「だ、だって!」
小早川さんは恥ずかしそうに笑った。
「私しか立候補してなかったので、正直どうしようって思ってたんです。」
「だから春一くんが立候補してくれるって聞いて、本当に嬉しくて。」
「それに……。」
少しだけ言いづらそうに視線を泳がせる。
「私、昔から変わってるってよく言われるんです。」
「人付き合いも、あんまり得意じゃなくて……。」
その言葉に、俺は思わず顔を上げた。
「でも。」
「春一くんも、私と少し似てる人なのかなって。」
「なんだか、そう思ったら嬉しくなっちゃって。」
そう言って笑う。
さっきまで真っ赤だった顔で。
照れくさそうに。
それなのに、どこか安心したように。
(……。)
(やばい。)
(この笑顔、反則だろ。)
「かたじけない……。」
思わず机に突っ伏す。
何だこれ。
恥ずかしい。
嬉しい。
申し訳ない。
感情が大渋滞してる。
「目を覚まさんか、この馬鹿たれ。」
ゴツン。
「いってぇ!」
ひかりの拳骨が頭に落ちる。
「現実逃避している場合ではありません。」
「……はい。」
やっぱりこの人、家でも学校でも容赦がない。
俺は頭を押さえながら、小早川さんへ向き直った。
「あー……その。」
「クラス委員の件なんだけど。」
小早川さんは期待に満ちた目でこちらを見ている。
「…………。」
その視線は反則だ。
(待て待て待て。)
(今さら『嘘でした』なんて言える空気じゃないぞ?)
(しかも困ったような顔まで可愛いって何なんだよ……。)
「語彙力が崩壊しているわよ、春一。」
「人の心を読むな、メスゴリラ。」
「あとでお話があるわ。」
「ごめんなさい。」
反射で謝ってしまう。
俺って条件反射だけで生きてないか?
小早川さんがおずおずと口を開いた。
「委員会……。」
「やらないの?」
その一言に、俺は勢いよく立ち上がった。
「やります!」
「やりますとも!」
「よろしくお願いします!」
パァッと花が咲くように、小早川さんの表情が明るくなる。
「本当!?」
「ありがとう!」
「じゃあ一緒に頑張ろうね!」
「……うん。」
笑顔を向けられる。
(無理。)
(こんなの断れる男子、この世に存在するのか?)
そんなことを考えながら、ふと一つだけ大事なことを思い出した。
「あのさ。」
「小早川さん。」
「うん?」
「クラス委員って……。」
「何すんの?」
教室が、今日何度目か分からない沈黙に包まれた。




