再会まで
夕暮れ。
校舎の窓は、橙色に染まっていた。
グラウンドの影が長く伸びていく。
その中を、二つの人影が並んで歩いていた。
――春一と、夏目こころ。
小早川景は、三階の廊下からそれを見下ろしていた。
「……春一くん?」
無意識に、名前が漏れる。
胸の奥が、少しだけざわつく。
理由は分からない。
ただ、目が離せなかった。
こころは笑っていた。
春一の横で、何かを話している。
春一はそれに短く返事をしている。
それだけの光景。
それだけのはずなのに。
(……あれ?)
景は、胸の奥に小さな違和感を覚えた。
いつもの春一。
いつもの無表情。
いつもの短い返事。
なのに。
今だけは、少し違って見えた。
――距離が近い。
そう思った瞬間、景は自分の考えに戸惑った。
(近い……?)
ただ一緒に帰っているだけ。
ただの同級生。
ただの中央委員の仕事仲間。
そう思おうとするのに。
視線が勝手にそこへ吸い寄せられる。
こころが笑う。
春一が少しだけ頷く。
そのたびに、胸の奥が小さく揺れた。
(なんで……)
景は、無意識に手すりを握りしめていた。
冷たい金属の感触が、やけに強く伝わる。
こころが、何かを言った。
春一が一瞬だけ黙る。
そして――ほんの少しだけ、口元が緩んだ。
それは、ほんの僅かな変化だった。
誰も気付かないような、小さな表情。
でも。
景には見えてしまった。
(……今の)
胸の奥が、きゅっと締まる。
息が少しだけ浅くなる。
理由は分からない。
分からないのに。
目を逸らせなかった。
こころは、楽しそうに笑っている。
春一の隣で。
まるでそこが、最初から自分の場所だったみたいに。
景は、ゆっくりと瞬きをした。
視界が少しだけ滲む。
(違う)
(ただの同級生)
(ただの……)
そう繰り返すたびに。
その言葉が、少しずつ薄くなっていく気がした。
やがて、二人の背中は校門の向こうへ消えていく。
夕陽に溶けるように。
見えなくなるまで、景は動けなかった。
「……春一くん」
もう一度、小さく名前を呼ぶ。
返事はない。
当然だ。
ここにはいない。
それなのに。
胸の奥だけが、ずっと落ち着かなかった。
理由の分からないまま。
ただ、ひとつだけ。
確かに残っていた。
(あの子……誰?)
その疑問は、まだ言葉にならないまま。
夕暮れの校舎に、静かに沈んでいった。




