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なぜそこまでしたのか、自分でもよく分からない

人間、調子に乗るとロクなことにならない。


 これは俺が高校生活二週間で学んだ教訓である。


 昨日。


 俺は第一学年中央委員長になった。


 理由?


 小早川景に振り向いてほしかったから。


 ……今思い返しても、とんでもない理由である。


 そんな俺は今、いつものように教室へ入ってきた。


「おはよう。」


「おはよう、春一くん!」


 景はいつも通り笑顔で手を振る。


 その笑顔だけで心臓がうるさい。


(落ち着け。)


(今日は中央委員として初仕事なんだ。)


(まずは仕事の話だ。)


 俺は深呼吸して景の席へ向かった。


「さて、小早川さん。」


「うん?」


「まずは……。」


 ここまでは予定通りだった。


 問題は、この先である。


 口が勝手に動いた。


「俺は小早川さんに惚れてます。」


 …………。


 …………。


 …………。


 時間が止まった。


(……は?)


(俺、今なんて言った?)


 景はぱちぱちと瞬きを繰り返している。


「……は、はい?」


「えっと……。」


「今、なんて……?」


 教室中の視線が俺たちへ集まる。


(終わった。)


(高校生活、二回目の終了です。)


「ぶっははははは!」


 豪快に笑い始めたのは宍戸優だった。


「元基! コイツ地味な奴かと思ってたけど、中々ぶっ飛んでんな!」


「朝一番で告白とか聞いたことねぇぞ!」


 隣では桂秋平まで肩を震わせている。


「いやぁ、吉川くん面白いな!」


「天然なの? 計算なの?」


「俺が聞きたい。」


 本人が一番聞きたい。


 毛利元基は腕を組んだまま俺を見る。


 数秒。


 そして、小さく笑った。


「……面白い。」


「え?」


「吉川。」


「お前、思ったより面白い奴なんだな。」


「違う。」


「何が?」


「全部。」


 その時だった。


「おはよー。」


 教室の後ろから聞き覚えのある声がした。


 ギャル――天野天である。


 その後ろには渡辺ゆあ。


「おっ、天野。」


 宍戸が満面の笑みを浮かべる。


「中々面白いことになってんぞ!」


「は?」


「アイツ。」


「朝一で小早川に告白した。」


「……は?」


 天野の視線が俺へ向く。


 そして景を見る。


「……アンタ。」


「何やってんの?」


「いや。」


「俺にも分からん。」


 本当に分からない。


 心の底から分からない。


「景。」


 天野がじっと景を見る。


「告白されたの?」


 景はまだ混乱していた。


「えっと……。」


「告白……なのかな?」


「私、よく分からなくて……。」


「いや告白でしょ!」


 ゆあが思わずツッコむ。


「『惚れてます』って言われたら告白じゃん!」


「そ、そうなの?」


「そうなの!」


 教室中が笑いに包まれる。


 俺だけ笑えない。


「春一くん。」


 景がおずおずと俺を見る。


「その……。」


「ありがとう?」


「違う!」


 思わず叫んだ。


「違わないんだけど違う!」


「え?」


「いや、違わない!」


「でも今のは違う!」


「えぇぇ……?」


 自分でも何を言っているのか分からない。


 完全にパニックだった。


 その様子を見ていた毛利が、小さく吹き出す。


「吉川。」


「はい。」


「一つだけ教えといてやる。」


「何ですか?」


「告白っていうのはな。」


「もっと雰囲気を作ってからするもんだ。」


 教室中が再び笑う。


「だから俺、してないんだって!」


「説得力ゼロ。」


 秋平が即座に返す。


「うるさい!」


 もうヤケだ。


 穴があったら入りたい。


 いや。


 埋めてほしい。


「ふふっ。」


 笑い声が聞こえた。


 景だった。


「春一くん。」


「うん?」


「やっぱり春一くんって……。」


「面白い人だね。」


 その笑顔を見た瞬間。


 恥ずかしさなんて、どうでもよくなってしまった。


(……ダメだ。)


(俺。)


(もう完全に。)


(小早川景に惚れてる。)


 そして、その恋心は。


 どうやら口より先に、周りのみんなへバレてしまったらしい。

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