からくり
――中央委員。
その肩書きを聞いて、目を輝かせる高校生がどれだけいるだろう。
少なくとも、俺は違う。
なりたくてなったわけじゃない。
……いや。
正確には違う。
**勝ちたかった。**
ただ、それだけだった。
◇ ◇ ◇
「それでは、第一学年中央委員は吉川春一くんです。」
東雲先輩の言葉とともに拍手が起こる。
周囲から「おめでとう」と声を掛けられる。
でも俺は、まだ実感が湧いていなかった。
(……本当に勝ったのか。)
隣を見る。
景も拍手をしていた。
「おめでとう、春一くん。」
少し寂しそうで、それでも心から祝福してくれている笑顔。
その表情を見た瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。
「ありがとう。」
それしか言えなかった。
◇ ◇ ◇
役員会が終わり、東雲先輩に呼び止められる。
「吉川。」
「はい。」
「ちょっと聞きたいんだけど。」
「なんでお前が勝ったと思う?」
「……民意ですよ。」
俺は即答した。
東雲先輩が少しだけ口角を上げる。
「続けろ。」
「中央委員なんて、正直みんな興味ないんです。」
「仕事は多いし、目立つわけでもない。」
「だから投票する側も、『誰が一番優秀か』なんて真剣には考えません。」
「じゃあ何で決めるか。」
俺は笑う。
「知ってる人です。」
東雲先輩は何も言わない。
続きを促すように腕を組んだ。
「人は知らない人より、知ってる人を選びます。」
「だったら答えは簡単です。」
「全員と話せばいい。」
俺はこの数日間、空き時間を見つけては各クラスの委員へ話し掛けた。
一年A組だけじゃない。
B組も。
C組も。
D組も。
E組も。
自己紹介をして。
雑談をして。
委員会の仕事を少しだけ手伝って。
それだけ。
たった、それだけだった。
「別に票をくださいなんて言ってません。」
「普通に話しただけです。」
「それだけで十分だった。」
東雲先輩は静かに笑う。
「なるほどな。」
「選挙じゃなく、人間心理を利用したわけか。」
「利用って言い方は好きじゃないですけど。」
「まぁ、結果的には。」
「お前。」
「思ったより面白いやつだな。」
「よく言われます。」
「いや、初めて言われました。」
「どっちだ。」
二人で小さく笑う。
◇ ◇ ◇
帰り道。
駅へ向かう途中だった。
「春一くん!」
振り返ると、景が小走りで駆け寄ってくる。
「一緒に帰ってもいい?」
「もちろん。」
並んで歩く。
少しだけ沈黙が続いた。
先に口を開いたのは景だった。
「すごいね。」
「え?」
「中央委員。」
「おめでとう。」
「ありがとう。」
景は少しだけ空を見上げる。
「私ね。」
「悔しくないって言ったら嘘じゃないんだけど……うーん。」
「なんて言うのかな。」
景は少し困ったように笑った。
「でも。」
「春一くんが選ばれた理由、何となく分かる気がする。」
「そう?」
「うん。」
「この前まで知らなかった他のクラスの人とも、もう仲良くなってたでしょう?」
「見てたの?」
「見てたよ。」
景はくすっと笑う。
「春一くん、人見知りって言ってたのに頑張ってた。」
「……バレてたか。」
「ふふっ。」
少しだけ笑う景。
その笑顔を見ると、不思議と安心する。
だけど。
その笑顔の奥には、まだ何か隠しているものがある。
俺は知っている。
いや。
知ってしまった。
景には、きっと誰にも話していない過去がある。
それを無理に聞きたいとは思わない。
でも。
いつか。
景自身の口から話してくれる日が来たら。
その時は、ちゃんと受け止めたい。
そんなことを考えている自分に、少しだけ驚いた。
(俺……。)
(本当に変わったな。)
友達なんていなくていい。
誰とも深く関わらなくていい。
そう思っていた俺が。
今は、一人の女の子のことをもっと知りたいと思っている。
気付けば、俺の高校生活は。
もう、平穏とは程遠いものになっていた。
――もし、この戦略の意図が、中央委員になること以外にもあると知ったら。
どう思う? 小早川さん。




