ep61:死は前よりも近くボクのすぐ傍に
光と、稲妻と、火花。
数瞬のうちにそれらは飛び交って、目で追うことなんて出来そうにない。
視界の中は、白色の線が駆け巡って、どこかで火花が弾けて……目の前の光景だけを注視しようものなら飛んでくるのは命を刈り取る光。
どれだけ時間が過ぎたのか、覚える余裕はなかった。
音が鳴る度に灰色の大地が汚されていき、今ではもう穴ぼこだらけだ。
慣れる度に速度を上げ、手数を増やし、形を変え、とにかくウザったい光をアクロバティックに避けながら、そんなことを考える。
避けたそばから、また光。
光、光、光光光。
「ハハッ、鬱陶しいっ、ものだねっ!」
避ける度、視界の端に映る光は殺意を醸し出していつの間にか形を変えてくる。
光線の様なモノ。棘のようなモノ。球状のモノ。
あーあ。光のくせして、色んな形に変形する攻撃に、覚える気力を失ってしまうね。
……まぁ、元々そんな気なんてないけど。
頬を掠める光の礫が、ボクの皮膚を切り裂くように。
傷口から垂れる血が口の中にたらりと落ちる。
うん、美味かな。
後味も悪くない、健康的な味がするね。
思考がどこかへ散らばったその隙を縫うように、エルフもどきが灰色の長杖を地面へと突き刺して、空間が捻れる音が耳を劈く。
『いい加減、死ぬがいい……!』
「……ッ! 『水晶』が増えたぞ! 光線の反射を避けつつ破壊しろ!」
銃撃に掻き消されない程に大きな声が、階層中に響き渡っている。
視界を確保するために首を揺らして周りを確認すれば、ボクたちを囲うように遠くで魔法陣が展開され、そこから『水晶』が生み出されていた。
そして気づいた時にはもう遅かったらしい。
エルフもどきが放った無数の光線は、避けた瞬間に、ボクの背後に現れていた『水晶』にぶつかり──
──反射して、ボクの目の前に。
詳しく覚える気はなかった。
ただ、あの赤鉄の大剣の魔物に敗走した辺りから、こんな風に、世界がゆっくりと見えることがあった。
似た物で、それは走馬灯。
ドクドクと跳ね上がる心臓が、どうにか生きようと藻掻いていることが分かってしまうね。
生存本能からか、吹き出る汗を拭くことも出来ず、筋肉が強ばっている。
眼下。
動くことすらままならない程、世界が遅く進む中、腹のすぐ目の前にある光が、ジリジリと、ボクを焼き潰して、光に侵されていく。
更に、世界が遅くなった。
多分もう、この現象を引き起こしてるボクの身体すら、わけが分かっていないのだろう。
ひび割れた硝子越しに見える片目の視界は、壊れたように色を変え続けて、明らかに正常じゃない。
限界を超えてしまったのか、目から、鼻から……穴という穴から血が流れていくのが、なんとなく分かる。
鈍く時間の進まない世界の中、いくら考えても、どうやろうと生き残れる可能性に思いつかなくて。
ジリ、ジリ、と。
死がゆっくりと、確実に近づいてくる。
なのに……。
──いや、だからこそかァ♪
こんなにも、笑顔になるのは!
あァ、思えばらしくないことをしていたものだね。
死がどうとか、何を難しく考えようか。
それはつまらない。
死に囚われるだなんて、それじゃあ楽しくない!
ゆっくりと進む世界──これ、じゃま! 消えろ!
身体が、自分もう無理っす、とでも言うかのように。
もしくは、ボクの思考に見限ったのか。
停滞した世界が、掻き消える。
──ジュワ
一瞬の音、一瞬の熱、1秒にも満たない刹那の時間。
「グ、エェ……ア゛は♪」
下を向く。
お腹に手を置こうとして──その手は、何の抵抗もなく背中へと通り抜けてしまう。
目の前に戻した手は、ただ赤く染っていた。
痛みに慣れたとでも言うのか。
思考だけは、今も正常に回り続けている。
「グボェッ、グ、ェ、アハ、アハハ」
血が絶えず流れていって。
あァ、口端が捻れてしまうよォ……!
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ep61:死は前よりも近くボクのすぐ傍に




