ep60:厨二病心くすぐる演出
エルフもどきの額を弾いた、線。
それは、何かの軌道のようにも見えた。
ゆっくりと空間に弧を描くそれは、緩やかに速度を落として地面へと落ちる。
灰色の草原に入り込んだそれは、鈍色に輝く──金属の弾丸だった。
階層の天井を沿うように展開された、光の柱を乱射していた、あの巨大な魔法陣。
それは暴走でもしているかのように、変色し、歪み、逆回転して、やがて、バラバラに砕け散った。
そんな光景を、ボクは糸でぶら下がりながら観察する。
「……うーん。やっぱりあの灰色オバサンが動かしてた感じなのかなぁ」
確か、さっきまで何百個くらいの魔法陣を展開していた気がするけど。
少なくとも、人間には出来そうにないね。
全体的に身体もでかいし、なんかエルフっぽい耳してるし、しかも肌に至っては灰色だし、人間ではないのだろうけど。
あれかな。
図体デカいし、脳みそもデカいのかな?
そうこう考えているうちに、探索隊のメンバーがボクの近くに集まってくる。
「戯楽、情報を簡潔に」
……相も変わらず、平坦な声だね。
検索アプリに打ち込むワードみたいのを端的にボクへ伝えるのは、かなりの距離を走ったはずなのに息一つ乱れていない、筋肉ダ……橘だ。
この自動ドアダンジョンを攻略していくうちに、簡単な戦闘ルーティンみたいのが出来つつある。
そのうちの一つが、ボクからの情報共有。
簡単に言えば、最初はボク一人に敵陣へ突っ込ませて、怪我をしない程度に戦って情報収集をさせる、みたいな。
あの抹茶筋肉ブラザーズとの戦いを鑑みて、それが最も効果的だと感じたのだとか。
少し呆れた顔でそんな風に言っていたのを思い出した。
…………。
……あ、そうだった、情報共有だっけ。
ボクに対して睨むような視線を向ける橘に、満点の笑顔で対応しながら口を開く。
「あのエルフもどき……いや、灰色オバサンでいいや。あのオバサンは遠距離タイプって感じかな」
「素の身体能力はそこまでだから、近接には弱そうだね。ただ、変な魔法みたいなのでバリア作ったり出来るっぽいから、囲んでいじめるのが手っ取り早いかな」
「あと、あの魔法陣、灰色オバサンが制御してるみたいだから、橘はひたすらその銃でヘッドショットかな」
「……簡潔にと言ったはずだが」
いつも通りの声とは違い、僅かに怒気を孕んだ低い声。
視界の端には、静かに引き金へと動かされた人差し指が映り込んだ。
「……ハハッ、チョットナニイッテルカワカンナイ」
ちょー高次元な日本語話者のボクに掛かれば、この程度の言い訳など容易いのだ。
その証拠に、橘の目からは怒気が消え去っている。
ふふん、完璧ってやつだね。
……まぁ、なんだか呆れたような目をしている気もするけど、たぶん気のせいだろう。
「……はぁ、まあいい」
ため息を吐いて、橘は仕切り直すように前を向く。
それと同時に──
──背後で、大きなものが動く音がした。
咄嗟に、振り返る。
そこには、少し腫れただけの額に手を当てて、先程までの怒りを潜めたエルフもどきの姿があった。
『仕切り直しと、行こうか』
女性のような、しかし人間らしくない響く声だ。
それは、もはや怒りなどではない。
静かで重々しい──殺意の混じる声だった。
「──あっはァ!」
◇◆◇
『先刻は、少々苛立ちに身を任せすぎてしまった。恥じるべき失態だ』
己を責めるような独り言。
エルフもどきの目は、ボクたちの方を向いていない。
なのに。
今攻撃をするのだけは、ダメな気がして。
今動けば──死ぬ。
身体が、生物の本能が……そう叫んでいる。
……いけない、口元が緩んでしまうよ。
今にも動き出してしまいそうなボクの身体を、筋肉ダルマとパツキン野郎にタケっちの三人組が、雁字搦めに押さえ付けている。
軽快さすら感じるほどの声なのに、エルフもどきの周囲には、息をするのも難しい程の重圧が満ちていた。
…………。
……ははっ、オバサンイライラだね〜。
どこかを向いていたエルフもどきの顔がこちらを向いて、その瞳が、ボクたちを捉える。
『だから、今からは我の全力を持ってして、下賎なる貴様らをこの世から消し去って見せよう』
エルフもどきの膨大な魔力が、その身体から溢れ出す。
続けて、口を開いて──
『──宣言しよう』
『この我、■■■■■■■■の名の元に、貴様らを殺すことを』
そう言葉を発すると共に──空間が割れた。
エルフもどきの目の前の、空間が。
本来、そこにあるはずのない場所。
そこから、光を一切発さない灰色の長杖が現れた。
それを握るエルフもどきからは、今までの比にならない程に、悍ましい圧を感じてしまう。
…………。
……えぇ、なにそれ。かっこよー。
◇◆◇◆◇
パツキン野郎「……なぁ、なにこれ」
なおっと「……知らないよ。僕たちが来る頃にはもう始まってたんだし」
パツっキン「だよなぁ……」
はやせっ(……なんであの人は笑ってるんですかッ)
ぎ・ら・く♡「あはっ、ふはははっ」
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ep60:厨二病心くすぐる演出




