ep59:ぼーっち!
「アハハッ! 何それェ!?」
魔力全部を拳に掻き集めて放った一撃……のはずなんだけどなぁ。
どうして──
──手応えが、ないのかな?
周囲の大気が渦巻いて、魔力は盛大に爆発を起こし、灰色の草と爆煙が視界を覆う。
拳の先にあるのは、硬い何か。
ザラつきのない壁のような……とにかく、生物から感じるはずもない感覚だ。
耳の長い灰色肌の、巨人。
いくら人間ではないにしろ、どうにもあの灰色エルフもどきから感じるとは思えない。
吹き荒れる大気が、爆煙を希釈するかのように薄めていく。
そうして、それは見えた──
「はっ、ハハッ! 本当に何それ! ボク知らないんだけどぉ!」
──中に描かれた、幾何学模様のような何か。
円形の陣のような何かは、まるでそれが盾とでも言わんばかりに、ボクの拳も、魔力の爆発も、全てをこのエルフもどきから防いでいた。
空想の言葉を借りるなら──
「──魔法、陣? とかかな?」
『名乗りの途中で攻撃とは、この卑怯者めッ! 目にもの見せてくれるわ! 童ァ!!』
「童って。そんなにボク幼くな──」
急に怒り出して腕を振ったと思えば、目の前には、魔法陣。
文字のような何かに、図形みたいな幾何学模様。
薄く光るそれらは、ボクに向けられていて、急速に周り出して。
光の玉が、目の前に。
「──おわっ!?」
即座に、顔を逸らす。
頬を擦れる感覚。
手を添えれば、そこからは血が流れていた。
視界の端。
通り過ぎる光の玉は、遠くの柱にぶつかって、そのまま柱を貫通していた。
即座に、視線をエルフもどきに戻す。
そこには、十数個の回転する魔法陣たちが並んでいて──
『──消し飛ぶがいい、哀れで卑怯な童よ』
魔法陣に手を翳して、ボクを見るエルフもどきは、黒色の歯を覗かせて、妖艶な笑みを浮かべる。
ボクの何百、何千倍もの魔力を、軽々しく滾らせて。
そんな、エルフもどきにボクは──
「──フハハッ、オバサン、歯ぁ汚いね」
『死ねッ!!』
魔法陣はボクを取り囲むように展開されていき、その数を増やし続けている。
さっきの魔法陣は既に光の玉を打ち出していて、瞬の間には、もう目の前だ。
瞬時、魔力を身体中に染み渡らせる。
身体を強くするように。
それで、何とか避けれる攻撃たち。
視界の中には収まりきらないほどに、その数は増え続ける。
…………。
……。
「あは♪」
◇◆◇
避ける。
ただひたすらに避け続ける。
避けれない体制でも、避ける。
ぶつかって血が流れても、避ける。
体内から魔力の糸を突き出して、皮膚を穴だらけにしながら身体を引っ張るように。
血が流れた部分は大雑把に魔力で縫い合わせておく。
重要な部分だけは避けるように、身体から糸を突き出しては、四方八方に伸ばして手繰り、身体を糸で投げ出していく。
そこら辺の地面に、灰色の柱に。
その空間自体を、自由に、遊び踊るように。
「ふふっ、あは、あははっ!」
愚道戯楽の口から、笑い声が漏れ出る。
彼が笑顔で笑う度に魔法陣は数を増やして──種類すら変えていく。
『チッ、気味の悪い道化め。貫かれて死に晒せ!』
「その厨二病みたいな口調やめたらァ? ふはっ、あはは!」
『──ッ!!』
他を嘲るような表情に、酷く憎ましい狂笑。
エルフもどきには、言葉の意味が分からなくとも、煽られていることだけは分かったのだろう。
エルフもどきは、声にならない声を上げ、下唇を噛み締める。
怒りのままに腕を振り上げて、天へと手を翳す。
先程とは比べ物にならない程に膨大な魔力を操り、巨大な魔法陣を展開した。
愚道戯楽どころか、後方を走る他の探索隊メンバーたちをも覆うほどに巨大な、魔法陣。
エルフもどきの首に付けられたネックレスの装飾。
紫色の宝石が、一瞬だけ、光を"反射"した。
『童ァ! 今から死ぬというのは、どんな気分だ?』
巨大な魔法陣は回転を止めず、その中心部からは徐々に強い光が漏れ出している。
細く漏れ出した光の線は灰色の地面を貫いて、回転が進む度に数を増やす。
一つでも当たってしまえば、ひとたまりもないであろう光線群。
そんな光景を目の当たりにして、したはずなのに、愚道戯楽は笑みを辞めない。
そうして──
「一人ぼっちには分からないんだろうけどさァ」
『何を、言って……?』
「ボク、一人じゃないんだよねぇ! ハハッ、さぁやっておしまい!!」
『は……ッ!?』
──一つの線が、エルフもどきの額を弾いた。
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ep59:ぼーっち!




